見出し画像

歴史ミステリ紹介~『光る君と謎解きを 源氏物語転生譚』著:日部 星花~[2128文字]

歴史が好きで、ミステリが好き、だから歴史ミステリも当然ながら好きだったりします。分かりやすい性格ですね、はい😆。

ところが、歴史ミステリというジャンル、海渡英祐・中津文彦・井沢元彦らの歴史ミステリ作品を精力的に発表していた一部ミステリ作家らの作品を除けば、昭和の時代はそれほど歴史ミステリ作品が多かったわけではないように思えます。

平成以降(もしくは新本格ムーブメント以降?)、ミステリの読者層・作家層が広がったことから、歴史ミステリも盛んに書かれるようになり、歴史ミステリを愛する者としては嬉しい限りです。実のところ、そう大して読んでませんが😆。

さて、今年の大河ドラマ『光る君へ』の舞台となった平安時代ー。
平安時代を舞台にした歴史ミステリとしては、国文学者でありミステリ作家でもあった岡田 鯱彦[おかだ しゃちひこ]が1950年に発表した中編薫大将と匂の宮』が最初のような気がします🤔。

「宇治十帖」は実は発表されていない続きがあり、その続きが本作『薫大将と匂の宮』で、探偵役を務めるのが紫式部(清少納言は紫式部に敵対するキャラとして登場)という、歴史ミステリのファン心をくすぐる趣向になっています。
何分、読んだのがだいぶ前なので、内容をほとんど忘れてしまっていますが💦。

時代はぐっと下がって、昭和から平成へ。
森谷 明子氏の2003年度鮎川哲也賞受賞作『千年の黙 異本源氏物語』も紫式部を探偵役にしている点に関しては同じですが、紫式部がまだ宮中に勤める前、京の都で起きた日常の謎を解くといった趣向になっています・・・。
とはいうものの、十数年前に読んだきりなので、ほとんど内容を覚えてないですが😆。

平安時代としては終わりの方になりますが、羽生 飛鳥氏の、平清盛の異母弟・頼盛が探偵役の『蝶として死す: 平家物語推理抄』。
未読なので今年中にはなんとか読んで見たいものです😅

平安時代のラブコメ・ミステリー?としては、汀 こるもの氏の『探偵は御簾の中 検非違使と奥様の平安事件簿』。
こちらも未読なので今年中には・・・以下略😅。

さて、前置きが長くなりましたが、2024年に入って最初に読んだ歴史ミステリ『光る君と謎解きを 源氏物語転生譚』のご紹介を。

(あらすじ)
皇居のお濠に転落した就活生の紫乃。
目を覚ますと、彼女はなぜか平安時代の幼い姫君に転生してしまっていた。しかもただの平安時代ではなく、そこは「源氏物語」の世界で――!?
紫乃は光源氏にすべてを打ち明け、若紫として生活を続けることに。そんななか、源氏の妻・葵上が急死し、六条御息所の生霊に取り殺されたという噂が立つ。これは殺人事件ではないかと考えた紫乃は真相を探り始める。

光る君と謎解きを 源氏物語転生譚│宝島社の通販 宝島チャンネル (tkj.jp)より

表紙イラストやあらすじから、今や若者向け小説ジャンルの柱のひとつとなった『異世界転生もの』作品と思われそうですが、それだけにあらずで、歴史ミステリ小説です。

主人公は就職活動にお疲れ気味の女子大生、紫乃
理由は不明だが、地面が大きく揺れ、皇居・竹橋の欄干からお濠に落下したはずが、なぜか平安時代にタイムスリップ。
しかもその平安時代が、今日の令和と同じ時間で繋がっている平安時代ではなく、かの紫式部が書いた『源氏物語』の作品世界。
しかも源氏物語のヒロイン、若紫の中に紫乃は転生したのだった。


本書のミステリ作品としての特長のひとつー、それは作品世界が『源氏物語』の中だということです。
つまり、源氏物語の登場人物たちが、あたかも実在の人物であるかように動いて喋り、源氏物語の中の出来事がそのまま起きる、ということです。

それは当然だよね、と言われそうですが、つまり『源氏物語』の中で起きた出来事を、ミステリの謎として捉えて事件の犯人を追及するーというところに本書を特長があると思います。

宝島社のあらすじにも書かれていますが、光源氏の正妻・葵上が六条御息所の生霊にとりつかれ、夕霧を出産後に亡くなってしまうというストーリーは源氏物語をご存知の方なら既知のお話でしょう。
この出来事を、人による殺人事件ではないかと感じた若紫(の中にいる就活女子大生の紫乃)が、推理で謎を解きます。

古今東西、『源氏物語』の出来事を事件として読み解いた作品があったでしょうか?たぶん無いのではないでしょうか(いや、単にボクが知らないだけかも知れませんが😅)。

これは源氏物語を読んでないと分からないのでは?と思われそうですが、源氏物語をほとんど読んでないボクでも楽しめましたので、その心配はないと思います。(もちろん知っていれば登場人物たちの人間関係がわかり、より理解が深まるのでしょうけれど)

そして、令和に生きる女子大生の紫乃の視点で物語が展開していくことの理由、ーそれは現代と異なる平安時代の価値観の存在ーもまた謎解きの要素になっており、単に異世界転生ジャンルの設定を使ったというものではない、ということも本作の特長なのでは、と思います。

ラストは紫乃が自分の存在意義を見出し、作品タイトルとリンクして、物語はさらに続くといった感じで、いったん幕を閉じているところも後味がいいですね🙂。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?