見出し画像

九谷焼のワイングラス

鏑木ワイン・酒グラス 松浦慎弥・画 古九谷鳥紋

日本でコロナ禍が深刻化する直前の2020年2月、出張で金沢へ。金沢は過去数年住んでいたことのある第二の故郷のような土地で、その日の仕事を終わらせた後いそいそと街を探索し、郷愁に浸っていた。
お気に入りのお菓子屋やカフェなどを一通り覗いた後、長町武家屋敷に寄る。立派な日本家屋が立ち並ぶ街並みの一角に「鏑木商舗」はある。武家屋敷跡をそのままショップや食事処にした立派な店構えに少し緊張しながら、暖簾をくぐる。靴を脱いで畳に上がると所狭しと並べられる九谷焼の名品の数々が圧巻。

目当ては鏑木ワイングラス。雑誌で見たのだか人から聞いたのだったか忘れてしまったがとにかく前情報でこのグラスの存在を知ってずっと訪ねたいと思っていた。ワイングラスのステム部分が九谷焼になっている鏑木商舗の名シリーズである。

ガラスと異素材を組み合わせる食器は他にもよく目にはするのだが、そもそものガラス(ここでいうボウル部分)の質感やフォルムの美しさ、素材同士を繋ぐ接着部分の丁寧さ、または全体のトーンの調和など、全てが自分的にしっくりくるというものにはなかなか出会えない。このグラスはそれら全てが満たされたパーフェクトな品で、店舗で見た瞬間に、あぁ足を運んで良かったと心から思ったのを覚えている。

絵付部分は他にもたくさんの作家、絵柄のものがあり、THE九谷というようなオーセンティックものから、こういうのも九谷にあるんだという洋食器のような若々しい雰囲気のものまで幅が広い。(グラス部分のサイズも何種かバリエーションあり)

私が選んだのは、ポテッとした小鳥と草木模様のグリーンが印象的な絵柄。ベースの白地に濃い色がのっているので、全体のコントラストが強くメリハリのある絵柄なのだが、線の墨溜まりや、ムラを残しながら伸びやかに塗られた色彩がちょっとゆるい雰囲気を醸し出していてとても愛らしい。そして何より、それが硬質なガラスという素材と組み合わされているのがいい。

ガラス部分のシャープな美しさと、絵付部分のまろやかな愛らしさが響き合っていて、「凜とした可愛さ」を醸し出している。
この雰囲気が片方の素材や絵柄だけでは生まれなかっただろうなと考えると、また新しいうつくしいものの誕生に立ち会えたような気持ちになり、なんとも嬉しいのだ。

鏑木商舗:https://kaburaki.jp