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術者の話


 美容整形手術を受けようと思ったら、周囲の人からの推薦や、インターネットで得た情報からいくつかの病院を選び、その中で気に入った病院や医師を選択するのが一般的であろう。


一度で決める場合もあれば、私が出会ったほとんどの患者はこのように言う。

「カウンセリングに回って、更に迷ってしまいました。正直、どのように決めたらいいのかわかりません。先生や病院によって、私の鼻について話すことが違うの
です。」 

同じ患者を診察して、医師ごとに異なった結論を出すのだから、患者の立場からしたら、戸惑うのはある意味当然であろう。


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糖尿病をガンと言ったり、高血圧を関節炎と言う程ではないにしても、整形と美容の領域を持つ特性の為、このような事は間違った事でもなく、よくあることである。
その理由を整理してみると、次の通りである。

 一つ目は、整形の領域は、病気の領域ではない。

ほとんどの病気は、既に以前から検証され、明らかにされてきた疾患別特性と治療原則を有している。そしてそれを学習し、経験した医師達の処方や治療は、
大部分その範囲で成り立つ。

だが、整形と美容医学は、患者の欲求も様々であるだけでなく、医師の個人的な判断と審美眼能力もそれぞれである為、カウンセリング初期の段階から医師によって異なることもあり得る。

特に美容分野は、術者の能力経験が多く反映される分野である。故に、千差万別の判断や結果が見られるのである。

 二つ目は、整形と美容分野は、術者の美的能力がかなり必要な分野である。簡単に言うならば、“アーティスト”的なセンス。だが不幸にも、美容医療に携わろうとする医師達の多くは、そのような能力を持ち合わせておらず、また持とうという努力もしない。


その上、医学教育課程の中で「美」や「芸術」等に関連した教育は全く見当たらない。専門の修練課程の中でも同様だ。

手術の技術を向上させるための手技を習う教育を修練課程に取り入れようと言ったら、ほとんどの医師達は冷笑するだろう。

手術を優れた知識で思考するのに久しい医大教育の中で、医師達は、難しい用語で塗り固められた知的トレーニングで手術を学んでいるだけである。

三つ目は、どんな医師も『自分はできない』とは言わない。全ての手術には難易度が存在する。専門医でも、皆が難しい手術をこなせる能力を身につけてはいない。
その上、一つの分野でかなりの経験を積まなければ、解決するのが難しいケースもとても多い。


例えば鼻の骨が大きく幅広いため、鼻を小さくする技術の中で‘ 骨切幅寄せ術 ’がある。ほとんどの患者達は、骨切幅寄せ術が大手術(手術時間が長く、回復も遅く、時には危険な手術)と思っている。

患者達が誤認識をしている背景には、実際に説明をする術者の意図とも関連
がある。

骨切り幅寄せ術に慣れていない医師達は、『 かなり腫れて回復も時間がかかるのに、骨切り幅寄せまで何のためにするのか』とか、『骨切り幅寄せは全身麻酔が必要で、費用が高くなる 』といった説明で、患者にマイナスイメージを与える場合もある。
その背景には、‘ 私はあなたに骨切り幅寄せ術を行うのは自身がない ’という術者の意図が隠されていると考える。

どんな医師も『私は骨切り幅寄せができないので上手な医師の所へ行ってくれ 』
『あなたは骨切り幅寄せをしたらより良い結果を得られるだろう!』と正直に言ったりはしない。

このような事は、医療だけでなく、全ての専門家集団の中で等しく起こることである。自信がない部分は、避けたり攻撃をして自分に有利な方へ誘導したり、自分が負担であれば、相手にはもっと負担を強いたりする。

このような背景があり、我々の社会には愚かな専門家で溢れかえっている。
当然愚かな専門家達は、メディアに露出するために、より刺激的且つ、強気に乗り出していく。

 先日、最近医師達の間で流行っているYouTubeを偶然にも見る事があった。某美容整形外科の専門医が、大層自信のある態度で鼻の手術について説明をしていたが、内容が本当にお粗末であった。
見ている間、不愉快であった。

 年齢もそれほど若くはない先生であったが、見る人が見たら不快極まりない内容だった。このような不適切な情報の中から、何かを選択しなければならない患者達を考えると、申し訳ない気持ちさえした。

 最近の医学専門医のトレーニング課程を見ると、更に残念な部分が多い。

ハードなトレーニングは避け、より楽な仕事を選択する医師達。
新たに改定された修練医の労務規定により緩くなった研修システム、医療トラブル防止のために、修練課程で経験しなければならない部分が完全に遮断され、何を学ぶのにも難しい。
現実、機会がますます希薄になる修練医達、低い診療報酬のために保険診療を断念し、慣れない美容業界に飛び込む開業医達、これによって増大する美容市場において、正しい選択をするために気難しくならざるを得ない患者達。

この長きに渡る問題は、一体いつ頃答えを見出せるのか定かではない。はらはらする綱渡りの中で、時折起こる好ましくないニュースをマスコミで目にすると、心苦しくなるばかりである。


・編集後記
今回のエッセイは、ジョン先生が思う現代の美容外科医の光と闇についてでした。
自分本位な医師達に対して、ジョン先生の辛辣な想いもありましたが、患者さんに寄り添い、患者さんの目線で考えているジョン先生だからこその、感情だと思います。
美容外科医は患者さんに自信や勇気、夢を与えらる職種です。
ジョン先生が綴る真っ直ぐな文章が胸に響きます。
makiko

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