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『road to nowhere』

6年振りに訪れた弘前でのcreepsとのツーマンライヴを終えて改めて思ったのは、自分にとって弘前はやはり特別な場所で、その地に根を張って音楽を鳴らし続けているcreepsもまた特別なバンドだということだ。一週間以上経った今も心地好い余韻が続いている。本当に最高の夜だった。あの夜あの場にいた全ての人たちの想いみたいなものがRobbin’s Nestを満たしていた。演者だけじゃなく、お客さんたちも一緒になってあの日の夜を皆で作り上げた、そんな風に思えるライヴだった。

この日のライヴは僕が一番手を務めさせてもらった。弾き語りで始まってバンドへ〜という流れの方が盛り上がるだろうからというのも勿論あるのだけれど、それよりも何よりも(烏滸がましい言い方に聞こえるかもしれないけれど)自分の歌と演奏でcreepsのメンバーに火を点けたかったからだ。

セットリストは悩みに悩んだ。弘前でのライヴは2017年の9月の終わりに行ったワンマンライヴ以来だから、歌いたい曲が沢山あった。東京を発つ前日に20曲くらいセレクトし、本番前日に何とか10曲に絞って曲順を決めたのだけれど、その後も選曲をいじくり回し、本番当日のリハを終えてやっと決まった選曲を更に本番真っ最中に変えた。「セットリストくらい前もってビシッと決めておけよ」と思う人もいるかもしれないけれど、6年振りの弘前でのライヴを観に来てくれる人たちと真摯に向き合おうとした結果だと思っている。

セットリストに関するエピソード全てを語ると長くなるのでひとつだけ。本番前夜にRobbin’s Nestに飲みに行った時にジェシーという青年と知り合った。彼はRobbin’sの常連で、お店のPCでDJをする程の音楽好き。しかも25歳という若さにも関わらずカントリー・ミュージックが好きとのことで、僕はとても感心してしまった。自分の周りでウィリー・ネルソンが好きだと公言してる人なんて一人もいない。カントリー・ミュージックの話題で誰かと盛り上がったことなんて一度か二度ある程度だ。音楽をやっているわけでもない極く普通の若者が普通にカントリーに慣れ親しんでいる、アメリカ(それともイギリス?アイルランド?出身国を聞くのを忘れてた・・・)の音楽文化が豊かなわけだよなぁと腑に落ちた。
翌日、宿近くのドトールでセットリストを練り直してから会場入りすると、creepsのベーシストでRobbin’sの店長でもある成田翔一くんが開口一番「コメさん、今日ジェシーが観に来ますよ!」。
好きなミュージシャンの話を少ししただけなのに、聴いたこともないミュージシャンのライヴを観に来てくれる。それが僕はとても嬉しかった。ジェシーくんのためにと本番直前にカントリーのクラシック・ソング「Hobo’s Lullaby」をセットリストに組み込み、更に本番の真っ最中に曲目を変えてカントリー・タッチの自作曲「tonight,tonight」を歌った。

終演後にジェシーくんが書いてくれたオススメのカントリーミュージシャンのリスト。四角で囲われているJason Isbellは自分に近いので特にオススメ!とのことで、帰りの新幹線の車中でポチッた。届くのが楽しみ。

というわけで、この日のセットリストは以下の通りです。

1.想いが言葉に変わるとき
2.想像
3.病める花
4.tonight,tonight
5.Hobo’s Lullaby(Goebel Reeves)
6.Carry On(ヒートウェイヴ)
7.君の声
8.こころ
9.i love you
10.君を見つけたよ

「君を見つけたよ」を歌い終えた後にcreepsフロントマンの竹内晃くんをステージに呼び込んで、二人でdamien riceの「amie」を演奏した。

竹内くんとのセッションではギター・ボウで伴奏をした。

休憩を挟んでcreeps。久し振りに観たcreepsのライヴは目茶苦茶ハートに刺さった。走馬灯とまでは言わないけれど、忘れていたような記憶さえもが鮮明に脳裏に蘇り、グッと込み上げてくるものがあった。大好きな「八月のバースディ」のイントロが鳴った瞬間に涙腺が緩んでしまった。ライヴを観て涙が流れることなんて滅多にない。色んな想いが込められた素晴らしいライヴだった。

本番の写真は撮らなかったので、リハの風景を。

最後にcreeps+古明地洋哉でcreepsの「snow globe」、僕の「世界の果て」、ヒートウェイヴの「Bohemian Blue」を演奏した。

「snow globe」ではワイゼンボーンを弾いた。

実は「世界の果て」にはアルバム・バージョンがある。レコード会社に切られ、事務所を辞めたのでお蔵入りとなってしまったので、レコーディングに関わった人たちだけしかその存在を知らない。僕も長いこと聴いていないのだけれど(音源は多分押入れのどこかに眠っているはず)、幻となってしまったアルバム・バージョンこそが自分にとっての「世界の果て」なのだとずっと思っている。折角の機会だからと思い、この日はアルバム・バージョンで演奏した。creepsと合奏するに当たってメンバーに伝えたのは「本番ではもっとグワーっといっちゃっていいよ」の一言だけ。音源を聴いたことがないにも関わらず、creepsはバッチリ期待に応えてくれた。その流れからの「Bohemian Blue」も目茶苦茶楽しく、気持ち良く演奏することが出来た。

これで終わりのはずだったのだけれど、アンコールの拍手が。迂闊なことに全く想定していなかった。竹内くんに「何かやりなよ」と耳打ちしたのだけれど、「古明地さんが歌って下さい」と押し切られてしまった。
この日はあくまでダブルヘッダーであって、どちらが主役というわけじゃないから、自分だけアンコールで歌うのはフェアじゃない(こんな風に書くと誤解されそうだけど、歌いたくないわけじゃない。寧ろいつまでも歌っていたいくらいの気持ちだった)。どうすべきか迷っている間も拍手は鳴り止みそうにない。これ以上お客さんを待たせるわけにはいかないので腹を括った。歌ったのは「love song」。竹内くんが度々好きだと言ってくれるこの曲しかないと思っての選曲だった。

『road to nowhere』というライヴ・タイトルはチラシ兼告知用画像を作る時にふと思い付いた。ありふれたワードだし、詳細が決定するまでの取り敢えずの仮タイトルくらいの感じで考えたものなのだけれど、うちらに凄く合っているような気がしたので、そのまま正式なタイトルとして採用することにした。
曲が出来ると凄く嬉しいけれど、同時に「これ以上の曲が書けるだろうか?」と不安になってしまう。でも不思議なもので、産みの苦しみは散々身に染みているのに、それでも懲りずにまたギターを手にとってしまう。そんなことを繰り返しながら、自分は一体何処に向かっているのだろう、自分が歩いているこの道は何処に辿り着くのだろうという思いがふと脳裏を過ぎる。不安が無いわけじゃない。でもそれよりも見たことのない景色に辿り着けるかもしれないという微かな期待が心のどこかでずっと疼いている。竹内くんをはじめとするcreepsのメンバーもきっとそんな風に思っているんじゃないだろうか。road to nowhere=何処へとも知れぬ道。うん、やっぱりうちらに凄く合っていると思う。

creepsのギタリスト笠井亮平くんのインスタから拝借したcreepsとセッションのセットリスト。「古明地」の字、間違えてるぞ笑。

観に来て下さった皆さん、Robbin’s Nest スタッフの皆さん、岩崎さん、浩さん、そしてcreepsのメンバー、昨夜あの場にいた全ての人たち、そしてあの場にいなくとも思いを馳せてくれた全ての人たちに感謝です。ありがとう。

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