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ロッキーVSドラゴ

『ロッキーVSドラゴ』を観た。目茶苦茶良かった。目茶苦茶泣いた。中学生の時に観た『ロッキー4/炎の友情』が36年の時を経て、今この時代にこそ観られるべき映画に生まれ変わったことに、そして作品をより良い物に仕上げようというスタローンの飽くなき執念にグッときた。

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『ロッキーVSドラゴ』はシルヴェスター・スタローンが自らの手で『ロッキー4/炎の友情』を再編集した所謂ディレクターズカット版。40分近い未公開シーンを使いながらトータルの尺は『炎の友情』とほぼ変わらないということで、最早完全に別物という前評判だった。どんな風に生まれ変わったのか、公開が決まってからずっと楽しみにしていた反面、「何で今更ディレクターズカット版を公開するんだ・・・?」と疑問に思ってもいたのだけれど、実際に映画を観てその理由がよくわかった。『炎の友情』は『ロッキーVSドラゴ』として今この時代だからこそ観るべき映画として生まれ変わったのだ、と。

『炎の友情』は劇場公開時に観に行ったし、その後も2〜3回は観ているのだけれど、東西の冷戦を反映させたアメリカVSソ連という構造が露骨過ぎてちょっとなぁ・・・という感じだった。ソ連=敵という描き方は当時の世界情勢を考慮してたとしても大雑把過ぎるし、ソ連の威信を背負ったドラゴとの試合を制したロッキーに、初めはブーイングしまくっていたロシアの観衆だけじゃなく、ゴルバチョフ似のソ連書記長までもがスタンディングオベーションをするというのもいくら何でも安易過ぎるだろう、と。

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左がゴルビー似の書記長

が、『ロッキーVSドラゴ』はそうしたアメリカファーストのご都合主義的な要素を完全に排除して、『炎の友情』とは真逆のメッセージを全面に打ち出しているのだ。

「俺が変われるなら、あんたたちだって変われる。俺たちは変われるんだ!」

『炎の友情』ではソ連側に対して一方的に変化を迫るようにも受け取れるロッキーのこの台詞が、再編集することによって「価値観の違いを理由に敵対するのではなく、俺たち皆が変わることで互いの違いを越えて歩み寄ることが出来るんだ」というポジティヴなメッセージに変化している。これはロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛け、世界各国が安全保障に対する考えを改める必要に迫られる程に危機的な状況である今この時代だからこそ響くものではないか。「今日ここで二人の男が殺し合いをした。でも二千万人が殺し合うよりマシだ」という台詞もより重みを増し、ズドンと胸にきた。
ゴルビー似の書記長のスタンディングオベーションをカットしたのも大正解だ。試合終了後にゴルビー似をはじめとするソ連の高官たちが無言で退席する。が、一人の高官が席に座ったままリングの方を見つめながら目を潤ませている。そう、一度に全てを変えることは出来ないけれど、少しずつ変えていくことが出来るのだ。この高官がロシアの現国防相ショイグにうっすら似ている(よね?)のは完全にただの偶然なのだけれど、スタローンの執念が偶然を必然に変えたのだと俺は思った。

ロッキーとアポロの絆の深さと、ドラゴの心理描写が強調されていたのも良かった。

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ロッキーの良きライヴァル、アポロ・クリード

『炎の友情』ではアポロがドラゴと戦うことに固執する理由が描き切れていなかった。何ならアポロがただの目立ちたがり屋にしか見えなかったという人もいるかもしれない、それくらい描写が甘かったのだけれど、『ロッキーVSドラゴ』ではアポロが引退し、年老いて尚ファイターとして生きたいと願っていることが目茶苦茶伝わってきた。初めはドラゴとの試合をやめさせるためにアポロを説き伏せようと試みるロッキーがアポロのセコンドに立つことを了承したのは、ロッキーも自身がファイターとしてしか生きられないことを知っているからだ。アポロもロッキーもボクサーとして頂点に立ったとはいえ、強いだけの男ではない。自分の弱さを知っているからこそ、ここぞという時に強くあれる、そんな男たちなのだ。そんな二人の不器用な生き様が絡み合う様、これこそ炎の友情と呼べるものではないか・・・!

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最強の敵イワン・ドラゴ

そしてドラゴだ。『炎の友情』では無機質な殺戮マシーンのように描かれていたけれど、さりげない心理描写を挿入することによって、一人のアスリートが背負うには余りにも重過ぎる国家の威信を背負わされたドラゴの内面の葛藤が目茶苦茶伝わってきた。ソ連の威信を背負ってリングに立つドラゴがロッキーに追い詰められることで背負わされた重荷をかなぐり捨て、アポロやロッキーと同じただの一人のファイターとしてなりふり構わずロッキーに立ち向かっていく様にグッときてしまった。まさか殺戮マシーンに感情移入することになるとは・・・!

スタローン自身の再編集によってドラマとしての重みと深みを増し、今この時代にこそより強く響く作品に生まれ変わった。たかが再編集、ディレクターズカットなどと侮るべきではない。スタローンの執念によって見事に生まれ変わった、それが『ロッキーVSドラゴ』だ。『ロッキーVSドラゴ』の公式アカウントが、スタローン自らが再編集ポイントを語る「THEN AND NOW」という動画をツイートしているので、是非観てみて欲しい。

今この文章を書きながらトレーニングシーン(最新技術を駆使したドラゴのトレーニングと、ロシアの僻地でのロッキーの原始的なトレーニングを対比させるシーンはやっぱりグッときますね)で流れる「Training Montage」をリピートしているのだけれど、それだけでもう色々思い出して泣きそうなくらいガツンとくる映画だった。ありがとう、スタローン!俺も明日からトラの目で強く生きるよ・・・!

『ロッキー4/炎の友情』と『ロッキーVSドラゴ』二枚組で円盤化して欲しい。発売されたら絶対買いますよ俺は。


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