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テレビ東京最後の日「下駄天気予報」

※加筆しました!

テレビ東京最後の日「下駄天気予報」
20XX年、ネットの波に押され、テレビ東京は閉局を迎える。
最後の番組は「明日の天気予報」
抜擢されたのはテレビ大好きの新人アナウンサー(女性)
彼女を主役にテレビ東京最後の日を追いかけるドキュメンタリー風ドラマ

プロット
20XX年。かつてマスコミ四媒体のトップだったテレビ広告費は2010年頃から落ち込み、一方インターネット広告費が毎年二桁成長を遂げ現在全広告費の7割を超えていた。クライアントは媒体をネットにシフトし、その結果メディアの合体、放送局のM&Aが加速された。今年テレビ東京に入社した祐天寺直樹は株主総会前の5月のとある夕刻、自局のモニターで広報部長山手のIRを見て額然とした。「来年4月、テレビ東京はジャパンテレビと合併する」その日からパニックに近い社内で次々と番組の予定が発表された。直樹の最初で最後のテレ東での仕事は「天気予報」となった。直樹は早速ミーティングに参加した。「テレ東らしい天気番組にしよう」というコンセプト。直樹は資料を見つめ自分のアイデアを言った。「天気予報を下駄で占ってみませんか。」気象予報士、芝加奈子によると下駄天気予報にも科学的根拠があるとのこと。業界初、低予算、超独創的「下駄天気予報」が始まる。第1回放送で外れたら二度と誰も見てくれなくなる。熱弁を奮い視聴者に語る直樹。瞬間視聴率がどんどん落ちていく。気象予報士谷加奈子が言う。「外れたら明日から1枚ずつ脱ぎます。」結果、天気予報でありえないタイムシフトを含んだ総合視聴率が50%を超えた。初日、下駄が裏返った雨予報がみごと的中。思わず直樹は聞いた。「なんで野球拳みたいなこと考えたの?」「だってテレ東っぽいから」

キャスト
祐天寺直樹23歳。東京都港区出身。明治学院大学卒。テレビ東京新入社員。アナウンス部所属。
芝加奈子27歳。東京都中野区出身。立教大学
卒。化学メーカーを経て気象予報士に。
山手学50歳。山口県出身。早稲田大学卒。テレビ東京広報部長。
広尾崇23歳。直樹の同期。アナウンス部所属。
大門健太23歳。直樹の同期。AD。
高輪哲也45歳 下駄天気予報ディレクター。
神谷俊輔  35歳。カメラマン。高輪とは10年来の仕事仲間。
戸越平太郎 42歳 下駄天気予報プロデューサー。 
赤坂   53歳。スポンサー取締役宣伝部部長。
新橋   40歳。スポンサー宣伝部課長。

シナリオ

T (Nも)20XX年 かつてマスコミ四媒体のトップだったテレビ広告費は2010年頃から落ち込み、一方インターネット広告費が二桁成長を遂げ、現在全広告費の7割を超えていた。クライアントは媒体をネットにシフトし、その結果メディアの合体、放送局のM&Aが加速された。

テレビ東京本社全景。
テレビ東京社内

ドア、アップ。
ドア、開いて、祐天寺直樹(23歳)と広尾崇(23歳)が出てくる。
テレビ東京局内を歩きながら話している。
崇「直樹、だいぶ噛んでた。」
と、崇、直樹を横目で見る。
直樹「アナウンサーって、肉体労働そのもの。」
と、直樹、天井を見あげる。
直樹「ほら、この辺ガクガク」
と、直樹、頬と顎を触る。
崇「大門、いるかな」
と崇、歩きを止めて主調整室のドアを開ける。
中で、朦朧とした大門健太(23歳、AD)がいる。
健太、椅子にもたれて座っている。
健太「おぉぉぉぉぅぅぅ・・・・」
と、主調整室に入ってきた直樹、崇を虚に見る。
直樹「研修?」
健太「ADは即現場だよぅ。えーーっと、3日かな、寝てなくて。」
直樹「え?マジで。」
健太「なんでもやんなきゃなんないからなあ。あ、でもこうやって寝てるけど。」
と、健太さらに椅子にもたれる。
その時、奥のモニターから緊急速報が流れる。
画面に、広報部長山手学(50歳)の顔がアップで写し出される。
山手「ただ今、緊急速報をお伝えいたします。」
と、山手一呼吸置いて画面を見る。
山手「テレビ東京ホールディングスは、ジャパンテレビホールディングスとの合併を主眼とした経営統合に合意いたしました。繰り返します。テレビ東京ホールディングスは・・・」
冗談を言い合う直樹、崇、健太、動きを止めてモニターに釘づけとなる。
山手「ホールディングスの要となる株式会社テレビ東京は、同じくジャパンテレビホールディングスの主幹、ジャパンテレビ放送網株式会社との経営統合、合併を速やかに遂行致します。スケジュールは以上です。」
モニターにスケジュールが映し出される。
スケジュール→20XX年7月経営統合業務開始、翌年4月合併。
直樹「なんか、聞いてた?」
直樹、画面に釘づけとなり、崇、健太を見ずに聞いた。
崇、健太、画面を見つつ首を横に振る。
山手「尚、経営統合によるメリット、デメリットは以下です。」

山手「想定される新会社の概要は以下です。」
モニターに映し出される。売上高3500億、従業員2500人、全て日本一となる。
モニターと打ち合わせ室、交互に。モニター、フェードアウト。

数日後、ミーティングルーム内

プロデューサー戸越平太郎(42歳)、ディレクター高輪哲也(45歳)、気象予報士芝加奈子(27歳)新人アナ祐天寺直樹(23歳)部屋にいる全員黙ったまま。
戸越「もう詳しい説明はいいと思うけど。うちの各番組が順次終了となっているので。」
芝「・・・・いつなんですか。」
戸越「6月末。」
芝「どうなっちゃうんですか。」
戸越「わかんない。まだ何も降りてきてないんで。」
芝「1ヶ月。何をすれば。」
戸越「そうだよな。まあ、うちの場合、普通に天気予報してればいいわけなんだけど。いつも通り。特別なことをやる尺も無いし。スポンサーからは今まで通りにと言うコメントももらってるから。まあ、そういう感じで。」
高輪「じゃ、いつも通りってことで。台本はこれで。いつも通り。あ、祐天寺さん、今回初めてだったよね。」
直樹「は、はい。」
高輪「そんなに喋るところないけど、うち、キメ台詞があって、そこ芝さんとよく読み合わせしておいてね。けっこうタイミングはずすと寒いんで。まあ、そもそも寒いけど。」
直樹、台本を見つめる。
直樹N「お天気、元気、やる気でポン!、か。確かに寒・・・」
高輪「じゃさ。後1ヶ月だけど、よろしくね。入りは14時で。他何かあります?無かったら・・・」
直樹、台本から顔を上げる。
直樹「あの。」
と、直樹、戸越を見る。
戸越「何?」
直樹「最後だから、何かこれがテレ東だぜ、みたいな色を出したいんですけど。」
戸越「これ(と、戸越、台本を指差す)、俺が書いたんだけど、テレ東っぽくない?あ、いや、そう言うとパワハラっぽくなっちゃうよね。ごめん。いや、確かにさ、テレ東っぽくやるっての、ありだと思う。うん。いいよ。」
ミーティングルームの空気が固まる。
戸越「でさ。今年うちに入った祐天寺さんが、俺らここで20年やってる人間にテレ東っぽいとは何か、教えてくださるんだよね。それ、聞きたい。うん。」
高輪「で?何かあるの?」
加奈子「戸越さん、もうやめてくださ・・・」
加奈子の声に被って、直樹、発言する。
直樹「下駄天気予報、やりませんか?」
戸越「はい?君さあ、何言ってんの?」
直樹「あの、お天気お姉さん、芝さんがアメダス情報を散々言った後に、当社の屋上で『あーした天気になぁ〜ぁれ!』で下駄を放り投げて、表は晴れ、裏は雨、横は曇という予報をするんです。」
数秒、沈黙が続く。
戸越、拍手する。
戸越「すごいねぇ。いや、さすが。祐天寺さん、新しさと日本の伝統が共有した、まさにテレ東っぽい、企画だ!君すごい発想だよね。あ、でもね。17時55分のオンエアには間に合わないし、次やろうよ、来週。ね。そうしよう。ま、俺が覚えてたら。」
芝「下駄天気予報は科学的根拠があります。」
高輪「え?」
芝「下駄の鼻緒は布でできていて、そこが乾燥していれば鼻緒は軽くなり下駄は表で落ちます。水分を含んで重くなると裏になり、少量の水分だと横になります。天候は空気中の水分量で把握できるので、下駄天気予報はある程度の確実性があります。」
高輪「へえー、そうなんだ。」
戸越、額に握りこぶしをあて下を向く。
直樹「そう、そうです。しかも、今や人気絶頂のお天気お姉さん、」
と、直樹の言葉に被って
加奈子「それは違う!」
直樹「芝加奈子さんが裸足で、そうだ、ミニスカートで下駄を履いて放り投げたら、視聴率は高血圧の血圧計みたいに!どーーーーん!」
加奈子、直樹の言葉に被って
加奈子「どーーーん!!」
戸越「どーーん、ってなったらいいねぇ。あ、高輪、間に合うの?」
高輪「え?やるんスか?」
戸越「え?やらないの?」
直樹、加奈子はグーを合わせて、ガッツポーズ。

スタジオ

直樹、スタジオの隅に立って、台本を一心不乱に読み込んでいる。
戸越、直樹に近づき声をかける。
戸越「細かい微妙なところはともかく、1時間で台本書き上げたのは大したもんだ。」
直樹「何もかも初めてなんで、ガチガチです。」
戸越「一夜漬け、得意なんだ。」
直樹「一夜漬け人生でした。」
戸越「いいねぇ。がんばって。」

戸越、直樹から離れる。
加奈子、直樹に近づく。
ミニスカートのスーツ、生足で下駄を履いている。

加奈子「祐天寺さん、どう?」
と、直樹、台本を見る目を上げる。

直樹「芝さん、いいっす。最高です。知的なエロ?を感じます。」
加奈子「本合わせの後、下駄の練習、付き合って。」
直樹「もちろんですよ。」

決めポーズの練習

直樹、加奈子「お天気、元気、やる気でポン!」
直樹N「これは、結局変えませんでした。」

テレビ東京屋上

加奈子、下駄を足で放り投げる。

直樹「芝さん、まだ遠慮があります。もっと、高く放ってください!」
加奈子「はい!」

加奈子、足を高く上げ、下駄を放る。
2人の後ろで、高輪D、神谷俊輔(カメラマン)が練習光景を見ながら話している。
神谷「加奈子ちゃんの正面から撮るのってありっスか。」
高輪「スポンサーの確認がいるなぁ。ま、でも一任って戸越さん、言ってたし。」
神谷「それって、オッケーってことっスね。」
と高輪、苦笑する。

直樹の顔アップ。
直樹「来たーーーーーー!芝さん、最高っス!!最高のパフォーマンスっス!」
下駄が落ちる。判定は、裏で雨。

スタジオ(本番)

番組「今日の元気お天気」本番。
直樹「はい!『今日の元気お天気』の時間がやってまいりました。今日から担当させていただきます、祐天寺直樹です。新入社員です。アナウンサー研修明け初めての仕事です。がんばります!」
加奈子「はい。改めまして、今日もスマイルお天気お姉さんの芝加奈子です。」
直樹、加奈子「お天気、元気、やる気でポン!」
直樹、加奈子ポーズを決める。

スタジオの奥

戸越、高輪が直樹、加奈子の様子を見守っている。
戸越「祐天寺さん、決まったね。やるじゃん。なんかさぁ、可奈ちゃんとできてる?」
高輪「くだらないこと言ってないで。」

スタジオ(本番)

加奈子「今日は高気圧の影響で、1日中快晴となりました。もう暑いくらいでしたね。
さて、明日は前線の北上に伴って、午後から湿った空気が日本列島に流れ込んできます。」
直樹「さて。ここで『今日の元気お天気』新企画を発表します!」
SE(ドラムのローリング)
直樹、フリップを出す。「下駄天気予報」
直樹「はい。これです!『下駄天気予報』」
加奈子「えーー、下駄なんですか。」
直樹「芝さん、用意はいいですか?」
加奈子「へへ」
カメラが引く。加奈子、ミニスカートとスーツに下駄を履いている全身が画面に入る。
加奈子、モデル風ポーズ。

スポンサー宣伝部執務室内

確認のため1人でテレビを見ている新橋課長(40歳)。
働き方改革で、管下社員は既に退社している。
新橋「え?下駄?な、何なん?これ。聞いてないし。」
新橋、携帯で赤坂取締役部長(53歳)に電話する。
赤坂、既にお客さんと飲んでいて携帯に出ない。
新橋、戸越の携帯へかける。
戸越、本番中で出ない。

スタジオ奥(本番)
戸越、高輪が立っている。

高輪「いいっスねぇ。思ったよりいい。」
戸越「だろう?俺の言った通りだよな。俺のいう通りにやってればいいんだって」
高輪、苦笑。
健太(AD)が高輪にかけよってくる。
健太「高輪さん、瞬間視聴率落ち始めました。今、一桁台です。9.1くらい」
高輪「え?何で?裏番組とか関係ないよね。」
健太「わかんないっス。」

スタジオ(本番)

カメラの前の直樹、加奈子にかんぺを見せる健太。
かんぺの内容「瞬間視聴率が落ち始めた。もっと元気に!」
カメラ、2人に寄る。

直樹「はい。芝さんの科学的根拠は、ご理解いただけましたでしょうか。」
加奈子「皆さん、おわかりでしょうか?」

健太、かんぺ出す。「引っ張らないで。時間押してます。」

直樹「さて!ここから屋上まで行きます!」
加奈子、ちらっと「視聴率落ちた」のかんぺに目をやり、カメラ目線に戻る。
加奈子「あたし。」
直樹「さあ、行きましょう!」
加奈子「あたし、下駄天気予報が当たらなかったら、1枚ずつ脱ぎます!!」
直樹、加奈子を二度見。
直樹「え?し、芝さん」
加奈子「行くわよ!」
加奈子、走り出す。追う神谷(カメラマン)その後について行く直樹。

健太、高輪に駆け寄る。

健太「高輪さん、来ました。お天気お姉さん、芝さんのミニスカで、どーーん!二桁!」
高輪「いいんだけどさ。スポンサー大丈夫かな。」
健太「結果オーライっス」

加奈子、階段を駆け上がり、屋上に出る。
夕焼けが空に映える。

スタジオ(本番)

戸越、携帯を見る。
戸越「あ、赤坂さんからだ。」
と、戸越一瞬頭を左右に振って、電話に出る。
戸越の顔アップ。戸越、携帯を耳に当てている。
(電話の声)赤坂「赤坂ですが。」
戸越「あ、どうも、赤坂部長!こないだはすっかりご馳走になってしまって」
(電話の声)赤坂「あ、あの、新橋から連絡があったんだけど、下駄って何」
戸越「部長、今本番中なんで、かけ直しますね。」
(電話の声)赤坂「そういうことじゃないんだよ。下駄で天気予報って、お前さ、ふざけてんの?そういう企画には金出さねえから!」
戸越「部長、本番なんで後でお伺いします!切ります、切ります。いいですか」
(電話の声)赤坂「・・・わかった」

テレビ東京屋上。

夕陽をバックに、ミニスカ生足加奈子、立っている。
加奈子「あ〜した、天気になぁ〜あれっ!」
加奈子、足を大きく空に向かって上げる。
神谷、加奈子の正面からカメラを向ける。
下駄、大きく弧を描き宙を舞う。バックに夕陽。(スローモーション)

スポンサー広報部執務室

新橋課長、顔に両手を当てて、指の隙間から画面を見る。
新橋「やめろーーー!うちの提供だーー!」

スタジオ(本番)

健太、高輪に走り寄る。
健太「高輪さん!来ました!50%超えました!!」

テレビ東京屋上

下駄が転がり、裏で止まる。

加奈子「はい。皆さん、明日は雨です!」

夕焼けをバックに加奈子、仁王立ち。

スポンサー広報部執務室

新橋「こんな真っ赤な夕焼けで雨なんか降るか!」

スタジオ(本番後)

拍手の中、加奈子、直樹がスタジオに戻る。
健太「芝さん、すごい迫力だった!」
加奈子「ありがとう!」
直樹、高輪、戸越の方を見る。
高輪、戸越、慌てて挨拶もせずスタジオから出て行く。
直樹、心配そうに2人を目で追う。

テレビ東京内。階段の踊り場。

直樹「芝さん、すごかったです。」
加奈子「ふふ。ありがとう。」
直樹「一体、どんな発想からあんな発言出たの?」
加奈子「ああ、うーん、だってテレ東っぽくない?」
直樹、加奈子2人で大笑いする。

翌日。テレビ東京本社全景。空は快晴。

ミーティングルーム内。
戸越、高輪、直樹加奈子、健太が参加。

健太「昨日の総合視聴率、55.3%。天気予報番組だけでなくテレ東史上のレコードでした。」
全員拍手。特に戸越、強く叩いている。
戸越「ありがとう、ありがとう。本当にありがとう。」
直樹「あの、スポンサー、と何か。」
戸越「え?ああ、大丈夫。」
高輪「おかげで、完璧に二日酔」
戸越「とりあえず、今日の打ち合わせ、もういい?」

まだ顔が赤い2人、よろよろとミーティングルームを出て行く。
直樹、加奈子、顔を見合わせ、笑う。

テレビ東京屋上

直樹、加奈子が台本の読み合わせ、下駄の練習をしている。
気持ちがいい風が吹いている。
街の音が聞こえる。
直樹、台本から目線を遠くの景色に移す。

直樹「降りそうもないな。」
加奈子、ゆっくり空を見上げる。
加奈子「待って」

街の音が消えていく。

やがて、ぽつりぽつりと雨だれが落ちてくる。
音が戻ってくる。雨が本格的に降ってくる。
直樹、加奈子はずぶ濡れになって立っている。

直樹、加奈子グーを合わせてガッツポーズ。
そして、ギュッと抱き合う。

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