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「好き焼き!」謎めく鍋パの七不思議

謎めく鍋パの七不思議 南葦 ミトさんの作品
怪談は夏の風物詩?いえいえ冬だって怖い話はありますよ。例えば鍋パーティー。鍋パにまつわる不思議な話…「予定より一人多い⁉」「誰だ私の鶏つみれを食べたのは⁉」など…あなたの周りにも、鍋ミステリー、ありませんか?(104字)
プロット

タイトル 「好き焼き!」
様々な縁を通じて知り合った大の鍋好き夫婦A,Bと独身カップル6人が集まってすき焼きを囲んだバトルとなる!すき焼きの起源は関西であって、関東のすき焼きはすき焼きにあらず、あれは牛鍋だ、という意見と確かに起源は関西かもしれないが、適当に油を敷いて砂糖と醤油、酒をぶち込んでしまったらせっかくの牛肉が泣く!ちゃんと調合された割り下があってこそ牛肉に対しての礼儀というものだ!などと、始まる前から東西で激突。参加メンバーの中でも出身が関東、関西と別れ、結局6人で東西の鍋奉行が主となり2つのすき焼きを作り、メンバーは途中で入れ代わりどちらがうまいか競争となった。その中、実は過去に付き合っていた夫婦Aの夫と独身カップルの女、すき焼きバトルで気になり始めた夫婦Aの妻と夫婦Bの夫、そういう流れにはならなかった夫婦Bの妻と独身カップルの男はひたすら肉にご執心、などさらにややこしい展開となり締めを迎える。すき焼きって語源は鋤の上で焼くからじゃなくて、好きって感情を増長するのかもね。
キャスト
夫婦A
夫:崇 33歳。出身大阪府豊中市。みずは銀行勤務。東大経済学部卒。入社以来本社財務部でトレーディング業務。いわゆるエリート。
妻:由美 30歳。出身東京都大田区。子供無し。都内女子大卒。元みずは銀行足立支店のテラー。結婚を機に寿退社し現在主婦。料理は得意。
夫婦B
夫:直樹 30歳。出身東京都大田区。高卒。大田区の中小企業、部品メーカー勤務。この鍋パーティで由美と小学校、中学校が同じだったことがわかった。
妻:加奈子 28歳。出身宮城県仙台市。高卒。直樹が勤務する部品メーカーの元事務職。23歳の時にデキ婚で結婚後出産を機に退職。現在子育て真っ最中。子供2人。(5歳、2歳)ちょっと太め。食べることが大好きで料理が得意。大の肉好き。
独身カップル
男:純生 35歳。出身山口県萩市。都内大学卒。おいおい損保勤務。転勤族。既に営業店3部署目。(広島、秋田、東京)やっぱり食べることが何をおいても大好き。ジム好きで筋肉、建康関連にやたら詳しい。佳子とジムで出会った。
女:佳子 33歳。出身兵庫県神戸市。都内大学卒。化学系メーカー勤務。実は崇と大学時代に合コンで出会って崇が結婚後もつきあいが続いていたが、別れた。その直後鍋を通じてこのメンバーとして崇とまた接することに。偶然とはいえ運命のいたずらが過ぎると思いつつ佳子は何かを期待していたきらいもあった。

シナリオ

小伝馬町にある崇、由美夫婦のマンション(30階)内。20畳のリビングでやる鍋パーティのためにメンバーが呼ばれた。今夜のお題目は「すき焼き」。玄関の呼びりんが鳴り、最初のお客さまが入ってくる。
純生「こんばんは!どうも、今日はお招きに預かりまして。」
由美「ああー、いらっしゃい。今日はまた寒いなか、ご苦労様!」
佳子「お肉、差し入れです!」
崇「ありがとう!えーっと・・・?」
佳子「地元の神戸牛です!これ、最強の牛肉ですよね。」
崇「来た!!なんや、興奮してきた。」
佳子「ほんまですか?喜んでいただいて嬉しいです!」
崇「そもそも神戸牛も松坂牛、田村牛も兵庫の但馬牛なん、知ってる?」
佳子「えーー?知らなかった。」
崇「今日はな、うちは脂が乗って醤油、砂糖との相性抜群の最強松坂牛を用意したんやけどな。つまり、佳子さんが持ってきたのとうちの肉は親戚ってわけなんや。気が合うたな。」
佳子「えーーー、本当ですか!めっちゃ嬉しい。」
純生が玄関先で盛り上がっている崇と佳子をちらっと斜めに見てトイレに行く。
由美も一瞬崇と佳子を見るがすぐ目線を外す。
呼びりんが鳴る。
由美「はーい!」
ドアを開けると直樹と加奈子が来ている。
加奈子「由美さーーん!ご無沙汰ですぅ!今日が楽しみ過ぎて朝からにやにやしっぱなしですぅ!」
由美「あははは、大丈夫?あ、お子さんは?」
加奈子「鵜の木の義母さんちに預けてきました。2人ともばあばんちに行きたいって言ってたんで、助かりました。」
由美「え、直樹さんのご実家って、鵜の木なんですか?」
直樹「はい。もう生まれてから大田区を出たことがなくて。結局就職も区内・・・」
由美「えーーー、あたし久が原。もしかして、三小とか七中?」
直樹「はい。え、もしかして由美さんもなんですか。」
由美「そうそう!しかも直樹さんあたしと同じ11年入学ですよね?すごい!!今まで全然知らなかった。」
直樹「えーー、そうなんですか。部活、僕はサッカーやってた。」
加奈子「ねえねえ、由美さん、うちからは仙台牛ですぅ!私の実家から取寄せました!」
崇「加奈子さん、素晴らしい!仙台牛は黒毛和牛の最高峰。まさに格付5に達しないと仙台牛の名は付けられないという・・・・」
崇はすぐ中を開ける。
「ああ、この芸術的な美しさのサシ・・・」
すき焼き鍋を囲んで5人が話している。由美だけは、野菜をきざんだり、食器を用意したり、キッチンで用意をしている。
崇「まあ、すき焼きが関西発祥ってのはわかってますよね。だから、今回は関西式でやろうと思ってます。」
直樹「ちょ、ちょっと待ってください。崇さんには普段から本当に色々とお世話になってます。大抵のことは崇さん、ごもっともだと思ってます。で、でもすき焼きは違います。すき焼きは割り下なんです。だって、皆さんが持ってきてくださったこのしびれるほど美味そうな牛肉があるんですよ。素人が適当に目分量で醤油とか砂糖とか酒とか入れては台無しだと思いませんか?」
崇「あ、ああ、まあ、直樹さんがそう思われるのはしゃあないけどな。では、お言葉を返すようですが、これ、この鍋なんと言います?すき焼き、ですよね。すき焼き。焼くんですよ。焼くとどうなるか、というと牛肉の最高級の脂がじゅわっと熱で溶けて流れ出して忘れられがちなネギ、白菜、春菊、糸こんにゃく果ては豆腐にも染み渡って、良い塩梅になるわけなんですよ。関東の割り下ですか?あれは、肉の旨みも何もあったもんじゃないですよね。あんなつゆにじゃぶじゃぶ漬けたら旨みもへったくれもあったもんじゃないですよ。
明治時代、先達は良いことを言ったものです。関東のあれ、あれは“牛鍋”ですがな。そもそも違う食べもんですよ。」
と、崇は小憎らしく、ふっと笑う。
さて、すき焼き鍋をはさんで、6人の男女が何やらきな臭い空気が充満しつつの、一方で焼けぼっくいに火がつきかけつつの、長い夜が始まります。

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