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『畑中成分がそのままで、増えても減ってもないですね』 —畑中良太さんインタビュー

聞き手:朴建雄(ドラマトゥルギー)

12月18日(金)から京都芸術センターにて上演される劇団速度『わたしが観客であるとき』。コロナ禍での生活の実感から、今演劇にできることはなにかと問いながら作られてきたこの作品。どんな作り手が、どんな思いで創作に参加しているのか?本作品ドラマトゥルク(創作の相談役)の朴建雄が、今回出演されているダンサーの畑中良太さんにインタビューしました。

【速度との関わり】
朴:『わたしが観客であるとき』に参加したきっかけを教えていただけますか?

畑中:劇団速度の野村さんに誘われたからですね。9月にUrBANGUILD(京都のアートスペース)で観た3CASTS(3人/組の俳優がパフォーマンスするイベント)に沙門さんが出ていた。そこで飲んでて、誘われました。前々から速度に出演しないかと度々誘われていたんですが、でも機会が合わずにいました。

朴:速度のどういうところに興味を持っていたんですか?

畑中:ジャンルじゃない感じに惹かれましたね。『冒した者』と『墓を放棄する部屋』を観たんですが、演劇ともダンスとも言えない微妙なところをさまよっているところに興味を持ちました。『冒した者』は音楽で例えるならプログレ。野村さんはポップソングのつもりでやってるけど、僕はプログレだと思っちゃいました。『墓を放棄する部屋』は日常なのか虚構なのかよくわからない時間をすごすのが、いい意味で微妙でしたね。出演者の日常を見てるのか、装ったものを見てるのかわからない感じが興味深かった。

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【創作で感じていること】
朴:実際に速度の創作に参加してみて、いかがですか?

畑中:楽しいです。自分そのままでぶっとおせるので。普段は制約の中で遊びます。そのままだとノイズになるからです。いつもは演出や振り付けで自分のノイズが切り取られるんですが、速度ではどのノイズを切り取るか自分で選べるのがいい。ノイズというのは舞台において重要だと思いますね。お客さんを意識した時に出てきます。舞台だと、映画みたいに見る人のフォーカスが決まっていなくて、お客さんが見るべき焦点を決めますよね。その焦点はそれぞれの演者のノイズの量によって決まります。

僕はたいてい、ノイズない状態から一気に爆音が広がる感じで、飛び道具的な感じで出演することが多い。今回は、質的にやんわりとした感じ。自分のやんわり感が出てますね。大抵は暴れたり、出しまくる感じでハードコアな絡みが多いんですけど。今回はやんわりしてます。自分の喋り方のグルーブとか、その場の立ち方とか、畑中流ですね。普段は色々手を加えられてるんですが。今回は畑中成分がそのままで、増えても減ってもないですね。普段はお客さんや作品に合わせて増えたり減ったりしがちなんですが。今回は、ラジオの砂嵐の音がずーっと鳴ってる感じ。それがたまに大きくなったりしますね。

【演劇でもダンスでもない感覚】
朴:畑中さんはダンサーと伺っていたのですが、今回は踊られますか?稽古を拝見していて、ずっと動いてはいるなと思ったのですが(笑)

畑中:今のところはないけど、踊るシーンもできそうですね。自分の気分でやりたくなったらやります。やりたくなかったらあえてやらずにいます。ノイズはちょびちょび出していきます。出し方については、人が入らないとわからない場合もあります。人が入ってくると、ラジオの砂嵐から野球の実況中継になるみたいに、ノイズの質が変わります。ノイズというのをより具体的に言うなら、動きもそうだし、舞台上にどういるかもそうだし、どうはっきり喋るかもそうですね。日常から、お酒飲んでんの?と言われるほど呂律回らない時もあるんです。なので滑舌の練習もしてますね。演劇も出る時あるんです。戯曲があって、役があるというのにも出ます。演劇は、見ててみんな楽しそうだと思いますね。羨ましい。演劇向いてないし苦手だなと思んですが。やっぱ、畑中良太になってしまってなかなか遠くに行けないので。

ダンスはめっちゃ楽しいんですけど、自分の体に馴染みすぎて、ご飯食べるみたいな感じです。演劇の方が、より距離があるところな感じがします。いつも白ごはんだけど、たまには中華とかフレンチ食べたいという感じ。そういうところで言うと速度は毎回違いますね。シェフの気まぐれ料理みたいな。中華が出てくるのか、何が出てくるのかもわからない。国もわからない。たいてい同時に出てきますね。インドカレーとケーキ、お寿司とフランスパンみたいな。ニュアンスこんな感じですね。

朴:今のお話を聞いて思い出したのですが、劇団速度で以前上演した『破壊的なブルー』という作品では、ジャグラーとダンサーが参加していて、それぞれがこれはジャグリング作品だ、ダンス作品だと言っていたそうです。

畑中:そういう環境はすばらしいですね。今回の『わたしが観客であるとき』は演劇でもダンスでもない。やっている最中の感覚はバイト中に近いですね。労働のニュアンスではないけど、僕の日常だけど、誰かを想定しないといけない。バイト中って日常生活の自分に見えて、何かに巻き込まれている。普段の自分のようだけど、何かに触発されうる状態にある。お客さんみたいな他の人の話を聞かないといけないし、その場に、職場にいないといけない。ひまになるから自分のことについて語り出すというイメージ。他の人たちが喋んなかったら暇になる。

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【「待つ」ことについて】
朴:この作品、沈黙も重要な気がします。

畑中:沈黙してる時は、待ってますね。「待つ」がテーマだって野村さんが言っていて、ちょっと間があると、待ってるなと意識してしまう。待とうとしてないけど、待ちが発生することに気づくという感じですね。普段待つことは多いです。人と待ち合わせする時は10〜20分前について待つ。その時間が好きですね。

今回の創作だと、稽古中に待ちがちですね。稽古では割と沙門さんと城間さんのシーンをやってて、自分のシーンを待ってる感はあります。その場にいるのを楽しむ感じ。待ってる時は聞いたり聞かなかったりする。ずっと真面目に聞いてたら疲れるので、休みつつ聞きつつ。自然な状態です。意図的にリラックスする方向に向かってますね。

【失敗はない】
朴:舞台に立つと緊張するものだと思いますが、この作品は違いますか?

畑中:たぶんこの作品は違いますね。稽古でめっちゃリラックスしてます。ダンスだと体動かすから疲れるんです。演劇は台詞をやんないといけないし、役やんないといけない。今回はずっと自分だからリラックスしますね。ほんとにそのままピュアな自分。普段から緊張しないタイプということもありますけど。振り付け決まってる作品だと最初の回は緊張するんです。こないだ出演した、完全に振付が決まってる作品はすごい緊張しましたね。戯曲のある演劇だと、台詞間違えないようにって緊張します。役としての制約が大変です。自分そのままでいてはいけないと思うので緊張しますね。

朴:お話を聞いていて、今回の稽古場は失敗がないところなのかなと思ったのですが、どうでしょうか?それこそ「ダメ出し」のない現場というか。

畑中:失敗はないですね。やれば「それや」って感じ。今回の創作ではダメ出しはなくて、構成を野村さんが作るだけ。小屋入りしてどうなるかはわからないですが。ちなみに僕、もともとは演劇やるはずだったんです。高校の時は演劇部に入っていて。大学は京都造形芸術大学(現京都芸術大学)の舞台芸術学科に入ったんです。その時、笠井叡の『今晩は荒れ模様』を見た。春秋座でこのダンスを見て、心臓を鷲掴みにされたんです。気付いたら涙が出てましたね。これはなんだ!?と思ってダンスに向かったんです。中学の時は帰宅部で、漠然と極真空手をやってました。人と関わるのが嫌いで、心を閉ざしてたんです。そのままではダメだとはわかっていて、高校に行ったら心を開こうと思っていた。でも運動はしたくない。文化部がいいなと思って、消去法で演劇部に入りました。でも高校演劇は全然面白くなかった。ダメ出しも何言ってるかわかんなかった。頑張るぞみたいな演劇部でした。公演のたびにオーディションがあったけど、全然受からなくてなかなか役になれなかった。なったこともあるけど、台詞がない役でした。でもその台詞ない役を楽しんでましたね。一歩一歩に感情を込めて歩いていた。それが今のダンスにつながってます。内側の衝動から動きを生み出すという点ではダンス的でしたね。

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畑中 良太

1996年京都生まれ。旧・京都造形芸術大学 舞台芸術学科卒業。舞踏への興味から在学中にダンスを始める。在学中は主に寺田みさこ、ヤザキタケシ、山下残、余越保子らにダンスを学びながら、身体作りのために太極拳を習う。山下残、捩子ぴじん、デツ禎稀、等の作品に出演。

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劇団速度『わたしが観客であるとき』

いつまでも
どこかへの途中にいるような
わたしたちのあいだに
紛れ込む言葉と行為

<劇場上演版> 2020年12月18日(金)~20日(日)
会場:京都芸術センター フリースペース

料金
一般 ¥ 3,000
U-25 ¥ 2,000
U-18 ¥ 無料

<LIVE配信版> 2020年 12 月 19 日 (土) 19:00 ~
劇場での上演に、舞台上の新たな視点を加え、LIVE配信します。

12月27日(日) 23:59までアーカイブ視聴可能。

料金
一律 ¥ 2,000 -

ご予約は以下より。
https://theatresokudo.stores.jp/

公演詳細 https://theatre-sokudo.jimdofree.com/new-1/

フライヤー 表


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