月ミるなレポート㉑
何が月ミるなにそうさせたか。
月ミるなは共鳴型の情報文化。”声”が僕たちの思考や発想に同時性を生む。追認の虚しさへのアンチテーゼ。
月ミるなの声は深く遠くよく響いた。
月ミるなの言葉を受けとめ解義して記憶し、いつでも再生できるようにする。
月ミるなが「あそこには死人がいるから行くな」と言った。だから行かなかった。
月ミるな解放戦線
月ミるながつく突飛で辻褄の合わない不合理極まる嘘はいつでも真剣で現実以上に痛切。
月ミるなは国家をはじめとするあらゆる共同幻想を書き換えた。
役目を終えた月ミるなは人々の記憶から消えたが月ミるなから得られたことは消えなかった。
かつて見た月ミるなのかたちを想い起こす。
かつて聞いた月ミるなの声音を想い起こす。
かつて嗅いだ月ミるなの香りを想い起こす。
かつて味わった月ミるなの味を想い起こす。
かつて触れた月ミるなの質感を想い起こす。
次の世に生を結ぶことのない者は何らかの苦しみを感受しますか。
次の世に生まれなければ悪業から免れられますか。
ツキミ&ガッバーナ
イトーヨーカドーのパジャマを着たおじさんが10人ほど集まっている。
別室からモニター越しに見ていた月ミるなはこのおじさんたちは私の意のままだと思った。
月ミるなが踊るのは儀式のためじゃない。踊りを見る者が儀式にしたがるだけだ。
月ミるなが食事をするために使った火と村を焼いた火は別物。
肘に食いついた月ミるなが何かをねだっている。力は強くない。大きさは大きめの土器よりも少し大きい。
自分が月ミるなと全然無関係な赤の他人だと思っている間は痛みを感じない。
自分と月ミるなの関係を思い出すと同時にその痛みを思い出す。
月ミるなのサナギ
懐中のサナギから月ミるなの前足が見えている。押し潰してしまったかと思って手に取ると殻が破れて月ミるなが出てきた。薄羽がきれいだった。
最初はちいさく。あとから大活躍。
ツキミネーター2
月ミるなは鋼鉄のリングでスピリチュアル・ゲームをつづける。
わたくしは”月ミるな”として知られています。しかしながらこの”月ミるな”というのは名称、呼称、仮名、通称に過ぎず、そこに人格的個体は認められないのです。
肉が月ミるななのですか。そうではありません。皮膚が月ミるななのですか。そうではありません。骨が月ミるななのですか。そうではありません。髪が月ミるななのですか。そうではありません。体毛が月ミるななのですか。そうではありません。爪が月ミるななのですか。そうではありません。歯が月ミるななのですか。そうではありません。骨髄が月ミるななのですか。そうではありません。心臓が月ミるななのですか。そうではありません。脾臓が月ミるななのですか。そうではありません。肺臓が月ミるななのですか。そうではありません。腸が月ミるななのですか。そうではありません。胃が月ミるななのですか。そうではありません。血が月ミるななのですか。そうではありません。汗が月ミるななのですか。そうではありません。脂肪が月ミるななのですか。そうではありません。涙が月ミるななのですか。そうではありません。脳みそが月ミるななのですか。そうではありません。物質的なかたちが月ミるななのですか。そうではありません。月ミるなは観念なのですか。そうではありません。”月ミるな”が”月ミるな”なのです。
月ミるなの異世界探検
月ミるなは「おもい」や「ねがい」といった因果律の範囲内で諦めた想像力を引き受けて出口のない悪夢をさまよう。
深く溜め息をついた月ミるなからハラハラと、涙の珠が手錠の上を流れて砂の上に落ちた。
月ミるなは淋しい顔でしばらくの間呆然と煉瓦塀や足元の砂を見ていた。
足下の砂の中から何やら発見して眼をキラキラと光らせて拾い上げた。
両手の間に挟んでクルクルと揉んでから太陽に透かした。
それは青いラムネの玉でした。
月ミるな痛快ロマンス
黒い月ミるなが井戸に落ちて泣いた。
白い月ミるなも落ちそうになったがつながれていて落ちなかった。
茶色に変色した傷だらけの黒い月ミるなを白く塗り上げる。生命が全身に満ちてあたたかい血の色が蘇った。
Tsukimi Luna küsste den Pfosten
月ミるなが夜に灯火を点じて手紙を書いた。書き終えたところで灯火を消した。手紙も一緒に消えてしまった。静けさだけが残った。
キュート破壊神 ルナ・月ミ
月ミるなは急に生じたわけではない。僕たちが眼を醒ます前からいたのに気がつかずにいただけ。
普通の月ミるなと病気の月ミるなの区別が付かない。
塀の中にいる月ミるなと外を歩いている月ミるなの区別が付かない。
月ミるなに近づいたとき所持していた念珠の緒が切れた。
ああこれは化けてるなと思った僕は「あなたは誰ですか」と問うた。「我は月ミるなである」と答えた。
月ミるナイト
煩悩がおしよせる夜。本をすこし読み、絵を少し書き、寝ようとしてまた起きて、真夜中のキャスに耳を澄ます。こんな夜を脱出するために空しい努力をつづける。
朝に逢うのは儀礼か仕事。恋しくなるのは夜。それは月のせいでもある。
虚としての月ミるな
敵としての月ミるな
愛としての月ミるな
スケバンまで張ったこの月ミるな。なんの因果か落ちぶれていまじゃマッポの手先。笑いたければ笑うがいいさ。だがなテメェみてえな小悪党には身体中の血が燃えるんだ!