「スウェット」について #デザインのゼロ地点
世の中には様々なデザインの製品がありますが、逆にあり過ぎてどうやって選んで良いかわからない…といったことってありますよね。
選ぶための基準となる製品を見つけたり、歴史やデザインの由来を知ることで、モノを選ぶのが楽しくなったらいいなと思い、THEブランドに関連のあるものも、ないものも、僕なりの視点で好き勝手に書いています。
今回は「スウェット」について書いてみます。
“最適と暮らす”というビジョンの下、日用品からアパレルまであらゆるジャンルの定番をアップデートするブランド「THE」(@the_tweet_jp)の代表です。
美しい海岸と厳かな雪山で波乗りとスキーを楽しむために日用品から地球環境を変えていきます。
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スウェットと聞いて、多くの人はトレーナーやパーカーを思い浮かべるのではないでしょうか。
スウェットは生地の名称なので、正しくはスウェットシャツやスウェットパーカーと呼ぶようですが、今回はその生地と製品について、ゼロ地点を探ってみたいと思います。
そもそもスウェット生地ってどんなもの?
日頃よく見かけるスウェットですが、そもそもどういった生地を指すのでしょうか?
生地メーカーに確認して調べてみると
「大きな特徴は、生地が二層構造になっていること。外側はジャージーで、内側にはタオルのようなパイル織りの生地を組み合わせたもの」
という答えをいただきました。
つまり、ジャージーの伸縮性と、タオルの吸汗性、そしてそれらを組み合わせた生地の厚みによって生まれる防寒性などが特徴といえるようです。
材質は綿100パーセントで構成されたものから、吸汗性だけでなく速乾性を考慮したポリエステル混紡のもの(ポリエステル65パーセント、綿35パーセントが多いようです)、繊維にポリウレタンを1〜2パーセント程度混紡して伸縮性をより向上させたものなど、一言でスウェットと言っても様々な種類があるのだとか。
左:内側のパイル織り 右:外側のジャージー
説明を聞いているとなんだかすごそうです。
内側のパイル織りの話は「なんとなくタオルのような感じになっていたなぁ」と想像ができたのですが、ジャージーとの二層構造での組み合わせ、という部分が話だけではいまいち理解できず、そもそものジャージー素材について理解を深めるため、手元にあったスウェット生地を分解して調べてみることにしました。
ジャージーとはニット(編み物)の一種で、ジャージー編みと呼ばれるもの。
一本または数本の糸を輪の形にしたループの中に次のループを通すことを繰り返し、布状にあむ編み方です。
ちなみに、現在では馴染みのあるニットですが、実はもともと日本には編むという伝統はあまりなく、輸入された時期も遅かったのだそうです。
編み物は17世紀後半(1673年–1704年頃)に、スペインやポルトガルから靴下などの形で伝わってきました。
その際にスペイン語やポルトガル語で「靴下」を意味する「メディアス(medias)」や「メイアシュ(meias)」から、なまって変化した「メリヤス」が、日本では編み物全般を指すようになったのだとか。
そのため、製造の現場ではジャージーではなくメリヤスと呼ばれることも多いそうです。
ジャージー及びメリヤスの編み目の構造
これを手作業ではなく機械で一本の糸から作るというだけでも驚きですが、スウェット生地はさらにこれの裏側にタオルのようなパイル織りが組み合わさっているというのです。
細かく見てみるために、スウェット生地の裏側のパイルをピンセットで引っ張ってみると、構造がわかりやすく見えてきました。
ジャージーの裏側から細いグレーの糸でパイル用の白い糸を等間隔に留めているのが見えます。
この細い糸がしっかり留まっているから表地のジャージーが伸縮してもパイルの長さがずれたりしないのでしょう、驚きです。
いつも当たり前に着ている生地ですが、実はものすごい技術が隠されていることを知りました。
スウェットの歴史に欠かせない、世界的なメーカー
そのスウェット生地の歴史を語る上で欠かせないのは、アメリカのニッティングメーカーであったラッセル。
ラッセルは1902年、アラバマ州アレキサンダー・シティに「ラッセル・マニファクチャリング・カンパニー」としてベンジャミン・ラッセル氏によって設立されたメーカーです。
このラッセル社が、1920年代にウールで作られていたフットボール用のシャツをコットン素材に改良し、着心地の改善を図ったことがスウェットの原点であると言われています。
当時のラッセル社、手前がベンジャミン・ラッセル氏
その後、1930年代から生地へのプリント技術を背景にハイスクールやカレッジのスポーツユニフォームとして定着していきます。
過去にはNFL(ナショナルフットボールリーグ)全28チームのほとんどにユニフォームや練習技を提供していたり、1992〜2004年には全米メジャーリーグのオフィシャルサプライヤーにもなっています。
russell athletic crewneck sweatshirt
ラッセルのスウェットは1940〜60年代のスウェット隆盛期には吊り編み機と呼ばれる機械で作られていました。
この吊り編み機は給糸口が1〜2セットしかなく、1台の機械で1時間に1メートルしか編むことができない非効率な機械でした。
しかし、高度経済成長を迎えるとともにシンカー編み機という名の次世代の編み機が普及します。
シンカー編み機は給糸口が24セット、つまり単純計算で最大24倍の生産効率があり、1時間に24メートルもの長さを編むことができるのです。
吊り編み機 写真:カネキチ工業株式会社
シンカー編み機 写真:カネキチ工業株式会社
生産効率も一段と上がり、スウェットは世界中に普及します。
日本でも数回にわたってブームと言われるような時代がありました。
こうした歴史を経て、現在ではファストファッションからハイブランドまで、数多くのメーカーやブランドから発売されるベーシックアイテムになったのです。
愛される理由は、人の温もりを想起させる生地
1920~30年代にかけて生まれ、100年近くも世界中の人々から愛されているスウェット。
なぜこんなにも長い期間、人々に愛されているのでしょうか?
精巧に並んだ編み目のパターンや、生地自体の肌触りの良さ、そしてどこか人の温もりのようなものを感じさせるディティールに、その答えがあるような気がします。
それらの要素が人々を魅了してきたのだと仮定すると、スウェットのデザインを考えた時、やはり真っ先にフォーカスしたいのは生地ではないでしょうか。
実は、前述の高度経済成長期に世の中から消えてしまった吊り編み機には、糸や生地に負担をかけずにゆったりと織り込んでいくことで、柔かく耐久性がある生地を作れるメリットがありました。
1940~60年代に作られたスウェットは、今ではヴィンテージとして愛され、50年以上前の製品が古着としてセカンドサイクルされていることが、吊り編み生地の耐久性や品質の良さを物語っています。
そんな吊り編み生地での代表格といえばループウィラー。
日本発のスウェット生地専門ブランドで、吊り編みの生地を用いた数多くのアイテムを手掛けています。
ナイキをはじめとし、様々なブランドとのコラボ商品も豊富で、世界中で人気を博しています。
特徴的なロゴやネームの取り付け方法は好みの分かれるところですが、良質なスタンダードとしての筆頭ではないでしょうか。
吊り編みの生地は、1台の機械で1時間に1メートルしか編めないという生産効率による供給不足がネックですが、肌触りはもちろん、洗濯を繰り返してもその良質な状態が続く耐久性は目を見張るものがあります。
新しい定番として提案したい「THE Sweat」
そして僕たちTHEも、吊り編み生地の可能性の探求を基軸に、新しいシリーズを作りました。
現在、日本の和歌山県に数百台しか残っていないこの生産設備を残していくことと同時に、それが発展していくことで、良質な製品が当たり前になること。
そして、吊り編みの生地がデザインのゼロ地点としてスウェットを語る基準値になること。
そんなことが実現できたら、という思いで作ったのが「THE Sweat」シリーズです。
・THE Sweat Crew neck Pullover
・THE Sweat Zip up Hoodie
・THE Sweat Pullover Hoodie
・THE Sweat Pants
・THE Sweat Short Pants
THE Sweatは吊り編み生地でつくるということは大前提、より柔らかく着心地の良い生地をつくるため、糸にもとてもこだわりました。
繊維の長いアメリカンピマコットンを用い、素材を無理に引っ張らずに自然な状態を保つことで柔軟性を持たせた特製の糸を使っています。
やや専門的に言うと、紡績段階で撚糸による斜行を極力なくすようにしたのです。
そうすることでコットンで一番気持ちの良い状態、綿(わた)に近い状態の糸に仕上げました。
この柔らかい特性の糸を吊り編み機で編むことにより、肌触りの良い素材の特性を最大限に活かしています。
そして生地の縫製とパターンの研究は、創業60年のカットソーメーカー、丸和繊維工業株式会社。
肌着から事業をスタートし、身体の動きや姿勢に合わせた独自のパターン研究と縫製技術が評価され、2010年には同社の製品が宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の宇宙船内被服にも選定されています。
THE Sweatの着心地の良さは生地の柔らかさによるものだけではありません。
腕を上げたり回したりしても胴体部分がつっぱらず、裾が上にあがらないない。
厚みのある丈夫な生地でも着用時には重さを感じないなど、こうした着心地の良さはパターンの技術によるものです。
丸和繊維の独自研究に基づいた衣服設計と縫製技術を応用することで、見た目はベーシックな形状でありながら、動いても着崩れが起きない最高の着心地を目指しました。
そのほかにも、本体部分とリブ部分に同じ糸を使用することで色が統一されている点(実は他のスウェットではなかなかやっていないのです)や、THE Sweat Zip up Hoodieのファスナーにはなめらかに開け閉めができるようにYKKの最上級金属ファスナー(エクセラ)を使用するなど、細部にまでこだわっています。
僕としては、生地が丈夫なためフードが立ち上がりやすく、洗濯を繰り返しても型崩れしないところもイチオシのポイントです。
普遍的な形状に、いつまでも風合いの変わらない生地。
そして機能性を含め、着心地の良さをとことん追求したTHEらしいスウェットが完成しました。
※この記事は、中川政七商店によるメディア「さんち」にて2017年10月8日に掲載した記事を再編集して公開しています。
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