19/06/21 終わりと始まり

昨晩は日付が変わるまで起きていた。仕事先で起こったこと、電話でかけられた言葉、明日への不安を振り払うことが出来ず、布団に入る気にはなれなかったのだ。

朝、家人とごはんを食べて、昼前に二人で給料を取りに行った。
裏口から入ると、昨日問題を起こした社員が給料袋を持ってやって来た。私は彼と話す気にはなれなかったし、それよりもどうしても話したい人がいたので店の正面へと回った。その人は社長である夫と共に半世紀にわたり店を切り盛りしてきた人で、無償の愛情を持ち続けられるような強い女性だった。
私が別れの挨拶をすると、彼女はいつもと変わらぬ笑顔を作り「最後がこんなのでごめんね。(私のことを)娘のように思ってたから・・・」と言った。コミュ障の自分が他人にそんなふうに思われているなんて夢にも思っていなかったから、まるで宝物をもらったような気分で、同時にとても心寂しくなった。
問題の社員は、私に笑顔を向けて「ごめんね。俺の個人的な問題のせいです」と言った。笑顔の謝罪には「相変わらず他人を舐めてるんだな」と感じたけど、皮肉を言うのはやめておいた。

その後は電車に乗って隣町へ行き、パスポートの記載事項変更を申請した。3年前は私が代筆したAのパスポートだが、今回は渾身の直筆である。出来上がりが楽しみだ。

次に派遣の登録説明会へ。契約書にサインをさせられたので詳しくは書かないが、すごい所だった。日本の闇を見た気がした。このまま登録をしていいのか何度か迷ったが、なんとかミッションを終える。

家人は一人でハローワークへ。私は買い物をして駅へ向かい、モール内に設置されたベンチに座っていた。
私の隣のベンチにはおばあさんが一人で座っていて、ベンチの上には荷物が置かれていたのだが、そこへ見知らぬおじいさんがやって来て「荷物より人が座りたいよ」と言ったのだ。
「うわっ」と息を飲んだが、おばあさんは笑って「あぁそうですね。歩いて来たから座りたいですよね。言ってくれないと分からなくてねぇ。どうぞ、座ってください」と言って、荷物をどかした。
それから二人は、互いの年齢や住んでいるところ、家族のこと、日本がアメリカに降伏した時は何処にいたのか、などと取り留めの無い話を始めた。
二人の会話はどんどん通じ合っていくようだったが、おじいさんは唐突に立ち上がると「じゃ、身体に気をつけて」と言って去っていき、その瞬間、おじいさんが去った反対方向からおばあちゃんの家族らしき人がおばあちゃんを迎えに来た。
その時の私の気持ちは、言葉にし難い。目には見えない光が宙を漂っているような感覚であったかもしれない。とても文化的で、尊い瞬間を体感した気がしたのだ。
もしかしたら私たちの世代の「一期一会」という感覚は、彼らのそれとは少し異なるのかもしれない。
もしかしたら私たちの世代は、とても大事なことをもたらされなかったのかもしれない。

そんなことを考えていたら、家人が来たので帰ることにした。
お疲れの今日は、帰りにコンビニで缶ビールと梅酒を買って、二人で飲みながら歩いた。