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賢い人たちのためのポーカー入門(1)

 ここ数年巷ではポーカーがもてはやされています。2015年末にはクレイジージャーニーで東大卒ポーカープロの木原直哉氏が取り上げられたり,また大学生のポーカーサークルが各大学で結成されるなど,確実に裾野が広がっています。

 最近はこんなニュースもありました。アメリカのカーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University; CMU)が開発したLibratusと呼ばれるポーカーAIが世界トップのポーカープレイヤー相手に大きく勝ち越すという出来事が2017年1月末にありました(CMUのプレスリリース)。先出の木原氏がこの件でコラムを書いています。

 そこで本稿では,これらのニュースを機に「ポーカーに興味を持ったけど...どうすればいいの?」という方を対象として,ポーカーとは何か,どういうルールなのか,ということを解説していきます。読者として,高校までの数学を理解しており,また英語記事や英語の書籍を読むことに特に抵抗を感じない方を念頭に置いています。

ポーカーとは何か?

ポーカーの種類

 ポーカーとはトランプを使ったゲーム(ジョーカーを除く52枚を使う)であり,「水泳」のような複数の種目の総称です。水泳にクロールや背泳ぎがあるように,ポーカーにはTexas Hold'em(ホールデム), Omaha(オマハ),Omaha Hi/Lo (通称 Omaha8), 5 Card Omaha,5 Card Omaha Hi/Lo, 7 Card Stud, 7 Card Stud Hi/Lo, Razz, 5 Card Draw, 2-7 Triple Drawなどがあります。

 No-Limit Texas Hold'em(NLH, NLTH)やPot-Limit Omaha(PLO)などが代表的な種目です。時代とともに人気の種目は変遷しますが,21世紀においてはNo-Limit Texas Hold'emが最も広く普及しており,一般にポーカーといった場合,こちらを指します。No-Limit Texas Hold'emの訳語として日本のメディアでは「無制限テキサスホールデム」という訳語が定着しつつありますが(例えばこちら),これは誤訳であり,ノーリミットテキサスホールデムとカタカナ訳するのが正しいでしょう。

Betting Structure

 Betting Structureは,bet額のルールを示すものです。ここでは,No-Limit, Pot-Limit, Fixed-Limitという3種類があることを覚えておいてください。

ポーカーは,Betting Structureと種目の組み合わせで一意にゲームルールが決まります。したがって,同じbetting structureでも,No-Limit Texas Hold'emとNo-Limit Omaha Hi/Loでは全く異なるゲームですし,同じ種目でもbetting structureが異なると,戦略も異なり,違うゲームとなります。ただ,任意にbetting structureと種目を組み合わせることができるわけではなく(理論上は可能ですが,ゲームとして成立するかの都合から),一般にプレイされる組み合わせというのはある程度決まっています。

Bet, Raise, Call, & Fold/ゲームの進行

 ポーカーと聞いた時に思い浮かぶイメージは,チップの山をざばぁーと押し出して,自信満々にオールイン!と宣言する図ではないでしょうか。

 ざばぁーと山を崩してしまうとあとでチップのカウントが大変なので,実際には静かにオールインと宣言し,チップの山を一本前に置くだけなのですが(笑)

 さて,ポーカーには4つのアクションがあり,bet, raise, call, foldです。All-inはbetの場合も,raiseの場合も,callの場合も存在し得ます。これらのアクションは日本語に訳出できるものではなく,そのままカタカナでベット,レイズ,コール,フォールドと使います。ここでbetを賭けると訳してしまうとちんぷんかんぷんな結果に終わります。

 まずは,次の動画をご覧ください。こちらはPoker Night In Americaという番組での1ハンドです。No-Limit Texas Hold'emのキャッシュゲームで,ブラインドは$25/50で,$100のストラドルがあります。

 この動画には上述の4つのアクションが全て含まれているので,順を追って解説します。

 まず,テーブルは半円形ですが,円の中心部分に座っている男性がディーラーです。カードを配り,チップのカウントをする係です。

 この男性(=ディーラー)の左隣からシート1,シート2...と数えます。シート3の白い上着の女性の前に白い円形のボタンがあり,これを(ディーラー)ボタン(Button; BTN)と呼びます。男性のディーラーと,このディーラーボタンには何の関係もありません。

 まず,ボタンの左隣がSmall Blind (SB), その左がBig Blind (BB)と呼ばれています。彼(女)らは,そのゲームによって定められたブラインドをテーブルに出します。ここではそれぞれ$25, $50です。そして,このゲームではストラドルと呼ばれ,BBの左隣の人が$100払います。1ハンドごとにボタンの位置が一つずつ左に移動するので,これらのブラインド,ストラドルは税金のようなものだと考えて良いです。各人の前に積み上げてあるチップがそれぞれのテーブル上での財産です。1ハンドで負けて失うのは最大でもこの金額だけで,会社でいうところの有限責任みたいなものです。テーブルによる制限の範囲内で,ハンドとハンドの間に,チップを補充することはできますが,リスク回避のためにチップを減らしてポケットにしまうことはできません。

Pre Flop

 SBから時計回りにカードを1枚ずつ配っていきます。ホールデムでは各プレイヤーには2枚のカード(=ホールカード)が裏返しで配られます。なお,他のプレイヤーの持っているカードは見えません。プレイヤーは配られた2枚のカードを見て,プレイするかどうかを判断し,しない場合はフォールド,プレイしたい場合はコール(ここでは$100)かレイズします。今回は,シート1がフォールドし,自分のカードをディーラーに返します。 シート2のCate HallがK♦️K♣︎という良い組み合わせを配られているのですが,彼女は$300にレイズします。$100でコールするか,あるいは任意の額にレイズすることができたのですが,ここでは$300という標準的な額にしています。ここで任意の額にレイズできる,というのがNo-Limitというベッティングストラクチャーの特徴です。

 次にシート3/BTNがQ♣︎J♠︎でコールします。シート2が決めた$300という額を出し,プレイするわけです。シート4のSam Abernathyは,A❤️Q❤️という結構強いハンドを配られているのを見て,$300からさらにレイズし,$1800とします。これをリレイズ,あるいは専門的には3Betと呼びます。

 シート5,7はそれぞれフォールドし,再びシート2の番です。ここで彼女には,フォールド,コール,あるいはレイズの選択肢があるのですが,コールを選択し,$1800を出します。シート3はフォールドし,フロップへと進みます。二人が出した$1800×2 + シート3のコール額$300 + フォールドしたシート5のBB $50 + シート7のストラドル$100=$4050がPot(ポット)と呼ばれます。相手をフォールドさせるか,最終的に相手より強い役を作るとこのポットがもらえます。

Flop

3枚カードが出まして,これをフロップと呼びます。ここでは8♣︎8♠︎4♦️です。この時点では,A❤️Q❤️は8のワンペア,K♦️K♣︎はツーペアで後者が勝っています。Samが$1500をベットします。もしここでCateがコールしなければ,Samの勝ちでSamはポットの$4050をもらいます。しかしCateは$1500をコールし,potが$7050となります。

ちなみに,Samが勝つためには,次のターンかリバーでAが出る必要があり,その確率は15%しかありません。

Turn

フロップに続いて1枚カードが出ます。3❤️です。Samは$3500をベットし,Cateはコールします。Potは$14,050です。ここでもSamは不利な形勢で,次のリバーでAが出なければ勝てません。その確率は8%です。

River

 最後のカードです。4❤️です。この時点で,自分のカード2枚と場のカード5枚の中から5枚を用いて,役を作ります。

Sam: 8♣︎8♠︎4♦️4❤️A❤️ で8と4のツーぺア,Aキッカー

Cate: K♦️K♣︎8♣︎8♠︎4♦️ でKと8のツーぺア,4キッカー

より強いツーペアのCateが勝っていますが,Cate自身はSamが何を持っているのかわからないため,勝っているかどうか正確にはわかりません。

Samは$22,200をベットします。これは彼女の全スタック(=テーブル上の全財産)のためオールインです。迷った挙句,Cateはフォールドし,Samは$14,050をもらいます。Samは自分より強いハンドをフォールドさせているので,これはブラフです。

以上がホールデムにおける1ハンドです。動画を見てもわかるように,ポーカーでは1ハンド数分で,これを何度も何度も繰り返します。

次回以降では,ハンドの役の強さや,ホールカードの良し悪しなどを解説していきます。




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