賢い人たちのためのポーカー入門(3)

 別件でバタバタしていて間があいてしまいました。

 前回は,ポーカーの形式と役の強さについて書きました。手取り早くポーカーをプレイするには,最初に配られる2枚(=ホールカード)の選び方を覚えるべきなのですが,我々はここで少し遠回りして,ポーカーの理論的な側面に少し触れたいと思います。

レンジ,エクイティ,アウツ (Range, Equity, Outs)

 もしポーカーで最も重要な概念を3つ挙げるとしたら,上記になるでしょう。順に解説していきますが,互いに密接に連関しているため,項目をまたいだ説明が出てきます。

レンジ

 ポーカーは不完全情報ゲームです。チェスや将棋のような完全情報ゲームと大きく異なるのは,相手の手札が見えない点です。したがって,我々は相手のホールカードを推測するわけですが,多くの場合,それは複数のホールカードの集合として考えることになります。透視能力がない限り,相手のホールカードを1組に(例えばK❤️J❤️)絞り込むことはできません。相手のハンドが明らかになるのは,相手のハンドを「観測した」時,すなわちリバーの後のショーダウンの時のみです。電子雲の話やシュレディンガーの猫の話をイメージしてもらえるとわかりやすいと思います。そこで,我々は,相手の持ってそうな,可能性のあるハンドの集合を想定し,その集合=レンジに対して,自分が勝ってそうなのか,フロップ以降どういうカードが来れば勝てそうなのか,逆に負けそうなのかを考えます。

 相手のポジション,ベットやレイズなどのアクション,そしてプレイヤーの性格特性などでレンジを絞り込んで行くのですが,長くなるのでそれは別なところで。

 ちなみに,筆者がオンラインポーカーでの6人テーブルでUTGのオープンレンジ,すなわちレイズして,プレイするハンドの集合は次の通りです。このようにレンジという言葉を使います。どういうレンジでオープンしているか,というのは各人で違います。このレンジの構成の仕方は,戦略の一つで,基本的には他人に教えない秘密の情報ですw "UTG open range"などのタームで検索すると様々なサイトで全く異なるレンジを紹介しているのが見受けられると思います。

 22+, A2s+, KJs+, QJs, ATo+, KQo

 ポーカーでは,上記のような独特のレンジ表記法があり,各所で使われるので,ここで覚えておきたいと思います。

 まず,カードはA, K, Q, J, T, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2とアルファベットか数字で表します。Tについては10と表記する人もいますが,Tと書く方が普通です。スートは,❤️はh, ♦️はd, ♠︎はs, ♣︎はcと書き,カードの数字あるいはアルファベットに添えて書きます。したがって,Acはエースの♠︎を表し,Tdはダイヤの10を表します。また,スートがirrelevantな場合にはxで表し,8xなどとします。

 テキサスホールデムでは,ホールカードが2枚ですから,ホールカードを書くときは,AcAdや7s2sなどと表します。強いカードを先に書くのが通例ですが,7s8sなどと書いたりもするので,ややこしいところです。

 上図は,ホールカードのありうる組み合わせを表しています。対角線上の白い部分は,ホールカードがペアであるものを示しています。それぞれのペアは,4枚のカードから2枚を選ぶ組み合わせなので,6通りずつあります。

 右上の薄い水色の部分は,スーテッド(suited)といい,2枚のホールカードのスートが同じ組み合わせを示します。A♠︎K♠︎や,A♦️5♦️など,それぞれ4通りずつあります。

 濃いめの水色の部分は,オフスート(offsuit)といい,2枚のスートが異なる組み合わせを示しています。A♠︎K♦️のようなもので,それぞれ6通りずつあります。

 レンジを表記するとき,いちいち,AKs, AQs, AJs, ATs...と羅列するのは,不便です。そこで,AKs-ATsと書きます。あるいは,ATs+と書いても同じ意味になります。

 上図では,一般的に左上に行くほど強くなります。そこから,22+という表記を見た場合,図の22を起点に,左上へ左上へと参照して行くことで,22+が指し示すレンジがわかります。

 32や43のように数字が続いている組み合わせは,コネクターと呼びます。32,43,54,65,76,....,AKを示したいときは,32+と書くことができます。

 困ったら適宜検索してください。

エクイティ

 ポーカーはポットを複数人で争うゲームであり,全てのホールカードを見ることができれば,それぞれのプレイヤーのある時点における,そのポットを勝つ確率を正確に求めることができます。ある時点での各プレイヤーの勝率をエクイティと言います。エクイティは,ホールカードvsホールカードで求めることもできるし,レンジvsレンジで計算することもできます。App Storeでpoker equityなどと検索するとアプリが有料無料含め色々とでてきますし,オンラインで計算してくれるサイトもあります。

 エクイティは,プリフロップ,フロップ,ターン,リバーと進むごとに(大胆に)変化していきます。

 例を挙げて見ます。因縁の対決として,AA vs KKの対決があります。これらは,プリフロップにおいて1,2位で強いハンドで,プリフロップの時点でオールインになることもしばしばあります。

 スートがかぶっていない(=ドミネートされていない)ベストケースシナリオでも,KKのエクイティは19%しかありません。これはPoker Cruncherというソフトウェアを用いて1億回のモンテカルロ法によるシミュレーションの結果で,5回に4回はAAが勝つことがわかります。オールイン時にエクイティの高い方が(statistically)favourite, 低い方がunderdogと呼ばれます。

もし,このオールイン対決のフロップが

だったら,エクイティはどうなるでしょうか。

 同様にソフトウェアで計算すると,AsAhのエクイティは10.2%にまで落ち込みます。このフロップはAAにとってはほぼ絶望的で,性格の悪い人はここで悪態をつくかもしれません。

 それでも,AAにはまだ10%ほど勝つ確率があるということです。それでは,ターン,リバーがどういうカードであれば,この一見勝ち目のなさそうな戦いに勝つことができるのでしょうか。

アウツ

 先の状況において,AAがすぐに逆転するためには,ターンでAをヒットする必要があります。このように,すぐに形勢を逆転するアウツをimmediate outsと言います(多分日本語の定訳はない)。デッキの中のAは残り2枚で,それがターンに落ちる確率は,およそ4%です。これは,アウツの枚数×2%で求められます。リバーまでにAが落ちる確率はおよそ8%で,これも2枚×4%の簡易公式から概算できます。

 A以外にも助けになるカードが実はあります。ターン,リバーでQとTが落ちれば,AAはストレートを完成させることができ,その確率は1.6%です。ターンがQxだとすると,AA側は,リバーでA(2枚)あるいはT(4枚)を引けばよく,ターンでのエクイティは6×2%でおよそ12%とわかります。

 2015年のWSOPメインイベント(参加費1万ドル,参加者数6420人)の上位6人の時のハンドから。この動画は先に説明したエクイティシフトをわかりやすく,観客の歓声やトム・カヌリの表情とともに教えてくれます。この動画ではAA vs TTですが,エクイティはAA vs KKの場合とほとんど変わりません。

 より一般的には,アウツはフラッシュドローやストレートドローを持っている場合に重要になります。例えば,自分がAc5cを持っているとします。

 ボードが, Kc Tc 7dの場合,もう1枚クラブを引けばフラッシュが完成します。相手がAdKdを持っていると想定した場合のアウツは,13-4=9枚のクラブで,リバーまでに引けるのはおよそ36%程度だと考えられます。もし自分がQcJcを持っている場合,フラッシュを作るためのクラブに加え,Aか9でストレートを作ることができます。この場合のアウツは先ほどのクラブ9枚と,As, Ah, 9d, 9h, 9sの9枚が加わり,計14枚となり,フロップの時点では,

 QcJcの方が「確率的に勝っている(statistically favourite)」と言えます。現状の役ではAdKdがKのワンペアで勝っていますが,リバーまで考えると,QcJcの方が勝つ確率が高いということです。

 この例では,ターンにクラブが出ると,AKはエクイティが0になり,ドローイングデッドとなります。もしターンがAの場合,AK側はリバーでAかKを引けばフルハウスになり,ストレートのQJに勝ちます。ただし,Acが出た場合はQJ側がロイヤルフラッシュになるので,QJの勝ちです。

 アウツの概念を理解した時,それではアウツが何枚あったら引きに行けるのか?相手のベットにコールしたりレイズしたりできるのか?という疑問が浮かびます。そこはポーカーの中でも難しく,醍醐味とも言えるところなのですが,相手のベット額とポットサイズ,そして,あなたがアウツを引いた場合にどのくらい相手から搾り取れそうか,という期待によって変わってきます。ここまでが,「合理的な」判断です

余談ですが...

 ポーカーは所詮ゲームなので,相手をoutdrawしてやろう,相手が良いハンドを持っているときに,あるいは有名な相手に対して,弱いハンドで2ペアなどを引いて相手をやっつけてやろう,XXプロからポットを取ったと言いたい!,などという邪な心を持つ人もいます。そういう人は,少しでも相手に勝つ可能性があれば,アウツが1枚でもあれば最後までついてくる可能性もありますw

 ポーカーのチップの期待値としては明らかにマイナスでも,相手の苦しむ顔を見る喜びとか話のネタとして大きな効用を見出すと,人生としては+EVな,経済的合理性を持った行動と言えるんでしょうか?

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