ぼくと街金

キラキラしてた20代前半。ぼくの人生で唯一輝いてたあのころ。

あのころのぼくは、アラフィフになったとき、街金で働いてるなんてこれっぽっちも想像してなかった。

当時働いていた会社の都合で独立を迫られ、右も左も経営が何なのかもわからない、東京といえば池袋の24歳が社長になってしまったんです。資金繰りの知識もなく、周りの大人たちに助けられ(カモられ)。

世間をまったく理解してなかった20代前半に、保証協会に申込んだら300万って言われたんです。知り合いのおじさんの、都議にこんにちはしてきなさいって指示に従ったら1000万に増えたんです。もっと借りたいっておじさんに話したら代々木のお爺さん紹介してくれたんです。そしたら3000万枠ができたんです。

 

 雰囲気だけでなんとか経営を続けていました。

 西麻布のアムリタとか、麻布十番のルネスが東京だと思ってました。

 羽澤ガーデンなんて連れていってもらったら、ちょい漏れしてました。

 

ちょう杜撰な経営ですから、すぐお金が底をつきます。

飲み友だちに資金繰りを相談したところ、

「福岡の知り合いが貸金業を営んでいるので、話してみる」

と、その場で電話してくれました。

「明後日東京に来る予定あるみたいだから、そのとき会おうだって」

とんとん拍子で進んでいきます。

 

朝9時にウエスティンホテルに呼び出されました。

1階のラウンジには、モロやくざなおじさんが3人座ってました。


待ち合わせの相手が違う人であることを祈りつつ、飲み友だちに教えてもらっ

た携帯番号に電話すると、3人のうちダントツでガラの悪いおじさんが

「はいー」

と甲高い声で出たんです。

 

やだ、ちょうこわい。

このままバックれてしまおうか。

ぐるぐる空回りしてる脳と体が別行動をして、おじさんに向かって右手を上げ

て合図してしまったんです。

 

その後のことはほとんど記憶がありません。

意識が戻るとおじさんたちは帰っていて、テーブルには10万円のズクが輪ゴムで束ねられた100万円と、バカ高いコーヒー代の伝票が置かれていました。

おじさんたちは、朝食も食べてました。


すぐ飲み友だちに電話しました。

「借りられたよ、ありがとう」

「利息、大丈夫? 払っていける?」

「利息? なにも言われなかったよ?」

「まぢで? トイチだよ?」

 

終わりました。

僕は20代半ばにして10日おきに10万円払わなければいけない奴隷になったんです。

「たぶん大丈夫……」

電話を切り、脳死状態の頭を殴り必死に考えました。1週間後に入金があったはず。それで返済すればなんとかなる。

はい、多重債務者脳の典型です。

入金予定があっても、その間に生じる支出を全無視した計算を脳がはじめるんです。

当然1週間後に完済できるわけがなく、10日おきにおじさんに指定された口座に10万円を振り込み続けました。

なぜか口座名義はおばあちゃんみたいな名前でした。

 

そんなことも長くは続かず、

「よし、もう無理だ。福岡まで行って謝ったら許してくれるかも。もう200万くらい振り込んでるし」

飛行機に飛び乗りました。

脳内シミュレーションしました。

こう言ってきたらこう返す、で、こう来たらこうかわす。

 

はじめての福岡。が、行き先は金貸しの事務所。

ザ・雑居ビルに入り、会社名も書いてないドアをノックすると、

「はいー」

女の人の声がしました。気が緩みました。シミュレーションどおりいけるかも。

でもドアを開けたのは、東京では会ったことがないレベルの強面おにいちゃんでした。

「どうぞ」

中に入るよう促され、奥の部屋に通されました。

奥の部屋では、ウエスティンホテルで会ったおじさんがニコニコ迎えてくれました。

「わざわざ来てくれてありがとな、今日はどした?」

「はい、実はですね、お金が尽きまして、利息の支払いがキツくなりまして……」

「んやとぉ!rYoFd82cXr4GNOfRzqsp!EAmJzHN0iHXDP2V6xLkr8dA8plWoQeS7XiCdYN0KXVXSxG6gi7so7!!!!!!TpwTW2iKsFoHAIIS3w40tXlo4hLF71xlIc0cD2NiQd8XqK2Yy3Ub!!!!!!!1joxhMQtGajUk91XmXIDR2uIvYldhkyvRA9up9XVLEeXkJy8hmJFVyt7J0CeJ0x2vZrJkrh!!!!!!!!!!!」

はじめて博多弁で怒鳴られたので、何言ってるのかまったく理解できませんでしたが、ゴミ箱の裏から日本刀が出てきたり、淹れたてコーヒーが降ってきたり、まぁ散々です。ちょうこわいです。

冷静になったおじさん、

「じゃおまえ働いて返せ」

 

 ぼくのズブズブ奴隷生活の始まりです。

ほんとにぼくでいいんですか?