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土地とブローカーとわたし 2nd

大好きなブローカーおじさんがいます。

お金のためならなんでもやってくれます。

ものすごい問題を抱えた物件を売りたいとき、おじさんは三為Bを喜んで引き受けてくれます。

「いくらもらえるんすか!!」

おじさんがただ同然で手に入れた辺境の区分、成約事例を切り貼りして無知の資産家に押し込んでます。

「20倍になりました!!!」

厚木の雑木林を相続したサラリーマンから200坪3万円で買い取って、適当に伐採して、月2万円で粗大ゴミ回収業者の資材置き場()として貸しています。

おじさんのブリーフケースには、いつでも境界鋲が入っています。


元々はおじさん、大手ハウスメーカーの社員でした。

バブルの頃には決裁権を持つまでに出世して、ブローカーたちに1枚100万円で買付けを売ってたそうです。

「人生で1番金持ってたな。」

呑むたびに遠い目をして思い出を語ります。

契約が決まると、池袋西口の月亭でしゃぶしゃぶを奢ってくれます。

「お姉さん、1番高い肉で!!」

と、ゴミみたいな注文のしかたで、食べきれない量の肉を頼んで、残します。

2次会は、おじさん常連のスナックです。

池袋で1番治安が悪いエリアのボロビル地下にある、カラオケスナック。

1980円で飲み放題唄い放題という、一見ではぜったいに入らないであろう価格設定。

おじさんは、常連客たちのポケットに1万円札を次々ねじ込みます。

「今日もうかったから!!!」

おじさんはタンバリンが上手です。

知り合いでもないお客が唄ってるのに、勝手にタンバリンで参加します。


その日暮らしのおじさんですが、2人の子供が大学卒業するまで養えたことをいつも自慢します。

おじさんの友達に訊いたら、学費は別れた奥さんが払ってたそうです。

おじさんは、すぐに見積に手を加えます。

毎回10万くらい乗せてくるので指摘すると、

「わかりました!じゃ1万円だけください!」と言います。

おじさんは1万円でいろいろやってくれます。

1万円あれば、一晩過ごせるからだそうです。


おじさんは今、粗大ゴミ回収の軽トラに乗ってます。

軽トラで走りながら、空き家を探し、所有者に買取交渉をしてます。合間に鉄屑を拾って夕方売りに行きます。軽トラ満載で15000円で売れるそうです。

「空き家を買えることになったんで、お金貸してもらえます?え?1200万です。出口、2000万でありますから大丈夫です!」

実際は500万で仕入れて1200万が出口でした。

利益を先に食べちゃうタイプのおじさんです。


おじさんはすぐお金を借りにきます。

「30万お願いできませんか。月1割払うんで。今日要るんですよー。」

まともに利息を払ってきたことがないので、仕事をさせて報酬から回収してます。


そんなおじさんを見ていると、あれが10年後のぼくの姿かもしれないと、不安でお酒を飲まないと眠れません。

みなさん、よろしくお願いしますね。




ほんとにぼくでいいんですか?