カンパリさん

私の職場の同僚は天然だ。

天然について
私はよくわかっておらず
天然とは作られたものである
と思っていた。


よく天然と言われている女子は
わりと自分が天然ということを
わかっている感があったり
なんならそれを売りにしている節があって


そういった子が
あまり近しくない人に
「天然だね」と言われているのを見ると


いやいや、違うよね。

2人でいる時
私よりしっかりしてるよね
と否定したい衝動に駆られた。




けれど
そんな天然に対して否定的な私からみても
同僚の彼女は天然なのである。

だから私は彼女の事が苦手だ。





なんというか
天然と空気が読めないは本当に紙一重で
彼女は時に私を
かなりイライラさせる。





例えば、職場に時々
ヤクルトの人が訪問販売に来る。

欲しい人は欲しい分だけ
お金を出して購入するのだが
私や他のスタッフが購入していても
彼女はそれを買うことはない。



そして、ヤクルトの販売員の方が
帰ったあとに、
たくさん購入したおじさんのスタッフに
ジュース1本下さいと
当たり前のようにねだる。


とても素直に。まっすぐに。


ここにいやらしさはない。

おじいちゃんにお菓子をねだる子供のように
わたしのおじいちゃんなんだから
孫にあげるのは当然でしょ
とばかりに言うから
当然おじさんスタッフは
先ほど購入したジュースを彼女に与える。

実の祖父母にすら
変に遠慮して
物をねだったりできなかった私からしたら
彼女の行動は異常で
かつ、とても羨ましい。

あれほど素直に生きられたら
もっといろんな物を
手に入れられたような気がする。


各々が購入したジュースを飲む中、
購入してない彼女は
おじさんスタッフからもらったジュースを
美味しいと言いながら笑顔で飲む。

これを初めて見た時
私はとても衝撃を受けた。


そして翌日もまた、
当たり前のように
おじさんスタッフから1本もらって
自分で買っていないジュースを飲んでいる。

なんなら彼女は
そのおじさんのジュースを
「○○さんも飲む?」と
私にも勧めてくる。


意味がわからない。

そのジュースは購入したおじさんスタッフの
ものであるはずなのに
なぜそうも遠慮なく
あたかも自分の所有物のように
扱うことができるのだろうか。

どうしたらそんな言葉が出るのだろうか。



ただ、私の思いとは裏腹に
彼女はこのことを
なんとも思っていない。

というか気付いていない。


これは天然だと思う。



ある時職場の飲み会があった。

彼女は仲良しの同僚と仲良さげに
隣同士に座っていた。

飲み会はフリードリンクで
グラス交換性だった。

彼女はドリンクメニューを見ながら
カクテルの欄にある
カンパリオレンジに興味をもったようで

「このカンパリオレンジっていうの
よくわからないけど美味しそうだし
飲んでみよう!」と言った。



私はカンパリオレンジが苦手なので
カンパリオレンジって結構クセがあるけど
大丈夫かなと思いながら
その様子を見ていた。

私は確実に飲めるカシスオレンジを注文した。

もう1人の同僚は赤ワインを頼んだ。



彼女達はドリンクが出て来るまでの間
一緒に飲もうねと
ニコニコしながら話していて
フリードリンクで一緒に飲むって
なんなんだろうと思いながら
向かいの席から2人の様子を眺めていた。



しばらくしてドリンクが運ばれてきた。

赤ワインと
カンパリオレンジと
カシスオレンジ

それぞれが注文した人のもとに届く。



元気よく乾杯し
カンパリオレンジを一口飲んだ彼女は

「マズっ!私これムリかも!」

っと言った。



やっぱりなと思いながら
私はその様子を見ていた。

カンパリオレンジは
彼女が好むような甘い味ではない。

そして彼女は
隣の席の同僚に
「一口ちょーだい!」と言い
赤ワインをもらって飲んだが
どうやらそれも口に合わなかったようで
すぐに顔をしかめた。

確かに赤ワインも癖があるので
好みは分かれる。


その様子を向かいの席から見ていた私と
彼女の目が合った。


彼女は私に
「一口ちょーだい」
と笑顔で言ってきた。

「どうぞ」と
カシスオレンジを差し出す。

カシスオレンジなんて
わかりきった味がする。

カシスオレンジを飲んだ彼女は
「おいしいー!」

と言い

そして


「私これにする!」

と笑顔で言い
彼女のコースターの上に
カシスオレンジを置いた。


その瞬間私のカシスオレンジは
彼女のものになった。


そしてもれなく
彼女のカンパリオレンジが
私のところにやってきた。



え?なにこれ?

変なマジックにかかったようだった。

目の前で不思議なことが起きている。

なのに何故か
彼女にカシスオレンジを返してくれ
とは言えなくて
私は苦手なカンパリオレンジを飲むはめになった。





その後も彼女は
頼んだことのない名前の
カクテルを頼んでは
飲めないと言い
他の人に交換してもらっていた。

そしてその度に
交換してもらい気に入ったカクテルを
「美味しいー!」
と言いながら
笑顔で飲んでいた。

申し訳ないとか
ゴメンねとかって言う気持ちは
彼女にはない。

もちろん悪意もない。

誰も彼女に対して
怒ったり文句を言ったりしない。

そんな不思議な力を
彼女は持っている。




ねじ曲がった性格の私は
天然というか
自分の欲に素直で
遠慮なく自身の希望を口にできる
彼女のことがとても苦手だ。




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