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カルディの下請法違反は何が問題だったのか

公正取引委員会は、2023年3月17日、株式会社キャメル珈琲(「カルディコーヒーファーム」の運営会社)に対し、下請法違反を認定して勧告を行いました(公取委の報道発表資料カルディのプレスリリース)。

本件で下請法違反とされた行為は、よくある典型的なものではなく、公取委としてはわりと「攻めた」印象があります。

本件でどのような行為が下請法違反として問題とされたのか、順に解説したいと思います。

なお、以下の分析は、公取委の報道発表資料記載の情報のみを基礎としたものであり、もしかしたら重要な前提事実を欠くなど、誤解している可能性があります。この手の事案では、公取委の担当官が数か月後に「下請法事件解説」として専門誌「公正取引」に寄稿することが多く、そこで重要な前提事実や法律解釈が示されることがありますので、正確にはそちらをご参照ください。

センターフィーの徴収(下請代金からの控除)

まず、公取委は、次のとおり述べて、カルディが下請事業者からセンターフィーを徴収していたことを問題視しています。

キャメル珈琲は、オンラインストアで販売した商品の下請代金を下請事業者に支払う際に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、「センターフィー」を下請代金の額から減じていた

センターフィーとは

センターフィーとは、多数の店舗を有する小売業者が物流センターを設け、そこでの仕分けや店舗までの配送等を小売業者が行うものとし、その対価として納入業者から徴収する利用料のことを指すのが一般的です。

小売業者が物流センターを運営してくれることによって、納入業者としては、個々の店舗に商品を納品する必要がなくなり、物流コストを削減することができます。
納入業者にとって、小売業者の物流センターを利用することでコストを削減できるのであれば、その対価として、センターフィーを負担するとしても、それが合理的な範囲にとどまるものである限り、特に問題となるものではありません。
現に、小売業者が、物流センターを利用する納入業者からセンターフィーを徴収することは、広く行われています。

しかし、納入業者にとって、物流センターの利用が自らのコスト削減にはつながらない場合があります。

納入業者は店舗納品責任を負わない前提で取引条件が定められている場合

例えば、物流センターから個別の店舗への物流費は小売業者が負担することを前提に納入価格等の取引条件が定められている場合には、たとえ効率的な物流センターによって物流経費を削減できるとしても、それは小売業者の領域の問題であって、納入業者にとって直接の利益となるものではありません。

このように、納入業者が店舗納品責任を負わない前提で納入価格等の取引条件が設定されていたにもかかわらず、取引条件はそのままに、別途センターフィーを徴収することは、納入業者に合理性のない負担をさせるものであり、下請法違反となりやすくなります。
先例として、次のとおり、2020年3月19日の株式会社サンクゼール(「St. Cousair」や「久世福商店」の運営会社)に対する勧告事件があります(公取委報道発表資料)。

サンクゼールは、下請事業者に対し、納品責任を負うべき場所を物流センターと指定した食料品等について、従前、物流センターの運営等に係る費用を徴収することなく物流センターに納品させていたが、下請代金の単価改定の機会及び物流センターに納品せず自社の各店舗等に直接納品するか否かの選択の機会を与えることなく、前記費用の一部として、「センターフィー」と称して下請代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収(していた。)

オンラインストア販売商品にかかるセンターフィー

これに対し、カルディに対する今回の勧告では、「オンラインストアで販売した商品」に限定して、センターフィーの徴収(下請代金から控除)が問題とされています。

いうまでもなく、カルディは、数多くの実店舗で商品を販売しています(私もカルディが好きでお店を見かけるとよく立ち寄っています)。
仮に、そうした実店舗向けの商品についても物流センターを介して納入され、納入業者から同様にセンターフィーが徴収されているとするならば(全くの推測であり、違うかもしれません)、なぜ、実店舗向け商品にかかるセンターフィー徴収については問題とされず、オンラインストア販売商品にかかるセンターフィー徴収だけが問題とされたのかが、気になるところです。

推測に推測を重ねることとなりますが、カルディの場合、実店舗への納品責任は納入業者が負うことを前提に、納入業者からカルディへの納入価格が(高めに)定められていたのかもしれません。
その上で、納入業者は、カルディの物流センターを利用することによって、本来、納入業者が負担すべきコストが削減されることから、その対価としてセンターフィーが徴収されていたということかもしれません。
そうだとすると、カルディでは、前記のサンクゼール事件をも踏まえた適切な対策が講じられていたといえます。

しかし、オンラインストア販売商品については、実店舗への配送は不要です。
そうすると、センターフィーの徴収は、実店舗への配送コストを削減することの実質的な対価であるという前提を欠くことになってしまいます。
センターフィーの根拠としては、実店舗への配送コストの削減分に加えて、商品の仕分けといった費用の削減分も考えられ、オンラインストア販売商品についても、納入業者にとって物流センターを利用するメリットがあり得るように思われますが、やはり配送コストの削減メリットが最も大きなものとなるのでしょう。
こうしたことから、カルディによるセンターフィーの徴収は、一見すると、合理的な根拠なくカルディに利益を与えるものであるようにも思えます。

他方、仮に、実店舗への納品責任を納入業者が負担することを前提に納入価格を(高めに)設定していたとするならば、対象商品がオンラインストアで販売され、実店舗への配送コストを納入業者が負担せずに済んだとみることもできます。
そのような場合に、納入業者がカルディに対してセンターフィーを支払うことは、実店舗への納品責任を負担しないことを前提とした納入価格のレベルまで実質的に納入価格を精算するものであり、納入業者は実質的には不利益は負っていないと考える余地もありそうです。

改めて出発点に立ち返って考えますと、センターフィーの徴収が問題とされるのは、徴収の対象となる商品について、実店舗への納品責任を納入業者が負担しないことを前提として納入価格等の取引条件が定められている場合です。
カルディの場合、実店舗で販売される商品にかかるセンターフィーの徴収については問題視されていませんが、オンラインストアで販売される商品については、もしかしたら、発注当初からオンラインストア販売用の商品として、通常の実店舗販売用の商品とはSKUが区別され、取引条件も異なるものであったのかもしれません
現に、公取委の報道発表資料に添付されているポンチ絵では、対象となった商品は「自社の各店舗への配送が不要なオンラインストア販売用の商品」とされています。
そして、オンラインストア販売用の商品につき、実店舗販売用の商品とは異なり、実店舗への納品責任を納入業者が負担しないことを前提として、納入価格が(低めに)設定されていたのかもしれません
それにもかかわらず、オンラインストア販売用の商品について、実店舗用のものと区別せずに、納入業者からセンターフィーを徴収してしまうと、納入業者に合理性のない不利益を及ぼすこととなり、それが今回の勧告につながったのではないかと考えることができます。

なお、センターフィーの徴収問題については、拙著優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕(商事法務、2021年)273~274頁に詳述しておりますので、よろしければご参照ください。

検品をしていなかった場合の不良品の返品

次に、公取委は、以下のとおり、カルディが下請事業者に対して行った不良品の返品とそれに伴う送料負担を問題視しています。

キャメル珈琲は、下請事業者から商品を受領した後、当該商品に係る品質検査を行っていないにもかかわらず、当該商品に瑕疵があることを理由として、… 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該商品を引き取らせていた

キャメル珈琲は、一部の下請事業者に返品に係る送料を負担させていた

下請法では返品が禁止されていますが、それは「下請事業者の責に帰すべき理由がない」ことが要件とされています。
商品が契約に適合しない(瑕疵がある)場合には、「下請事業者の責に帰すべき理由」があるものとして、下請法違反とはならないのが原則です。

カルディが行った返品は、下請事業者の納入した商品に瑕疵があることを理由とするものであり、一見すると、それは「下請事業者の責に帰すべき理由」に基づくものであって、下請法違反とはならないように思われます。

しかしながら、検品(品質検査)を省略していた場合、たとえ商品に瑕疵があったとしてもそれを返品することは下請法違反になるものと運用されています(下請法運用基準第4-4(2)オ)。
発注者が検査権を放棄した場合には「下請事業者の責に帰すべき理由」があるものとは認められないと解釈されているものと考えられます。

また、発注者において検品を行わないケースであっても、漫然と検査権を放棄したものではなく、仕入先における生産体制・検査体制を確認した上で、仕入先の出荷時検査をもって受入検査に代えていることが多いものと思われます。
しかし、そのような場合であっても、検査を下請事業者に文書で委任していない場合には、検査権を放棄したものとみなされ、たとえ納品された商品に瑕疵があったことが判明したとしてもそれを返品することは下請法違反になるものと運用されています(下請法運用基準第4-4(2)カ)。

このように、たとえ真に不良品であったとしても、それを返品することが下請法上許されない場合があるので、注意が必要です。

不良品の返品が下請法違反に該当するとされた同種の先例としては、2020年4月10日の株式会社リーガルコーポレーションに対する勧告(公取委報道発表資料)があります。

なお、不良品の返品については、拙著優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕(商事法務、2021年)373~380頁に詳述しております。

不良品に伴う損害賠償請求

また、公取委は、不良品の返品に関連して、以下のとおり、返品処理に要した人件費等を下請事業者に負担させたことを問題視しています。

キャメル珈琲は、前記…返品をするに当たり生じる人件費や保管費等の諸経費の一部を確保するため、「契約不適合商品処理負担金」を提供させることにより、…下請事業者の利益を不当に害していた

不良品の返品自体が下請法違反とされる以上、その返品に要する費用を下請事業者に負担させることも下請法違反となることは納得しやすいところでしょう。
下請法違反となる返品に伴う送料を下請事業者に負担させることが下請法違反とされることについても同様です。

他方、不良品に伴う費用は、返品関連費用に限られるわけではありません。
例えば、不良品を購入した顧客との対応費用は、当該不良品を返品するかどうかにかかわらず発生しうるものです。

このような不良品に伴う費用は、不良品により生じた損害であり、契約不適合につき仕入先の責めに帰すことができない事由がない限り、発注者は、仕入先に対し、その賠償を請求することができるのが原則です(民法415条1項)。
そして、不良品の返品に関する前記の下請法上のルールは、損害賠償請求に直接適用されるものではありません。
そのため、不良品に伴い発生した費用のうち、下請法違反となる返品とは関連しないものについては、その賠償を下請事業者に求めたとしても、下請法上問題とはならないようにも思われます。

しかしながら、不良品に伴う規律は、下請法だけでなく、商法上も存在します。商法526条では、発注者は、別段の合意がない限り、目的物の受領後遅滞なく検査しなければならず、検査により契約不適合を発見したときは、直ちに仕入先に対してその旨を通知しなければ、その不適合を理由とする損害賠償を請求することはできないものとされています。
そして、発注者が、仕入先に対し、私法上認められる損害賠償請求権の範囲を超えて損害を賠償させることは、不当な経済上の利益の提供要請(独禁法2条9項5号イ、下請法4条2項3号)として問題となり得るものと考えられます。

もっとも、上記の商法上の検査・通知義務は任意規定であり、当事者間の特約で緩和することが許容されます。
カルディと下請事業者の間の契約において、商法526条の適用を排除する規定があれば、不良品に伴い発生した費用のうち、返品とは関連しないものの負担を下請事業者に求めたとしても、下請法上問題とはならないものと考えられます。

なお、不良品に伴う損害賠償請求については、拙著優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕(商事法務、2021年)380頁に詳述しております。


このnoteは法的アドバイスを提供するものではありません。ご相談につきましてはこちらのフォームからお問合せください。

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