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競争者間における相互OEM供給

今回は、独占禁止法に関する相談事例集(令和元年度)の事例2を解説してみます。

事案の概要

X社とY社は、空調設備Aのメーカーであり、いずれも大型機種と小型機種の両方を製造販売していますが、X社は小型機種を得意とし、Y社は大型機種を得意としています。

本件取組は、X社が、Y社から大型機種のOEM供給を受けるとともに、Y社に対して小型機種をOEM供給を行おうとするものです。

事案の概要図は次のとおり(出典:公正取引委員会ホームページ)。

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生じうる独禁法上の懸念は何か

事業提携は、企業結合とは異なり、独立した事業者間での契約に基づき、事業活動の一部のみを共同化するものです。そのため、独禁法上の懸念も、基本的には共同化する事業活動を中心に生じることとなります。

本件取組によって、X社が販売する大型機種はY社が製造したものとなり、X社とY社の間で大型機種の生産コストがほぼ共通化することになります。それによって大型機種の販売においても、X社とY社の間で競争の余地が減少し、協調的な行動が採られやすくなります。同様に、Y社が販売する小型機種の一部はX社が製造したものとなり、小型機種の販売においても、X社とY社の間で競争の余地が減少して協調的行動が採られやすくなるという問題が生じます。

他方、競争関係にあるX社とY社が本件取組を行うことによって、互いの機微情報が流れやすくなり、共同化する製造分野にとどまらず、販売分野においても両社間で競争に関する不確実性が軽減されるおそれがあります。

こうしたことから、OEM供給によって、対象製品の販売分野における競争が阻害されるのではないかという懸念が生じます(実践知85頁)

2社がOEM供給を行おうとする目的は何か

競争者間の協調的取組が、もっぱら競争を制限することを目的とするものであり、それ以外に特段の合理的な目的が認められない場合には、通常、そのような行為自体が反競争的です。そのため、それが実効性をもって行われたならば、競争阻害効果の有無を厳密に分析するまでもなく、独禁法違反となりやすいといえます(実践知16~17頁、41~42頁)

X社とY社がOEM供給を行う目的について、次のように説明されています(2〔相談の要旨〕(3)ウ・(4))。

 X社は、収益の拡大を図るため、市場でのニーズが高い小型機種の製造販売を増加させたいと考えている。
 しかし、X社は、空調設備Aについて全ての需要者に対応することを営業方針としており、大型機種の製造販売を取りやめて人員を小型機種の製造販売に振り替えることは難しく、また、その他の方法による新たな人材確保も難しいことから、このままでは小型機種を増産することができない。
 そこで、X社は、自社における大型機種の販売を取りやめることなく、大型機種の製造を行っていた人員を小型機種の製造に振り替えるため、Y社との間で、本件取組を行うことを検討している。
(※原文を一部修正)

このように、X社がY社から大型機種のOEM供給を受ける目的は、不足する生産能力を補おうとするものであり、販売分野での競争阻害を目的としたものではありません。
また、Y社がX社から小型機種のOEM供給を受ける目的ははっきりしていませんが、得意としていない小型機種の販売増を狙ったものと推測され、販売分野での競争阻害を目的としたものであるとは窺われません。

そのため、本件取組は、その競争阻害効果を詳細に分析することなく独禁法違反と即断できるものではありません。

競争阻害効果は生じるか

それでは本件取組による競争阻害効果はどのように評価されるでしょうか。

コスト共通化割合

OEM供給による競争上の懸念は、前記のとおり、生産コストが共通化することによって当事者間での競争の余地が減少し、協調的な行動が採られやすくなることにあります。そのため、OEM供給による競争阻害効果を分析する際には、まず、当事者間で生産コストがどの程度共通化することとなるのかを検討する必要があります。
本件では、部品等ではなく空調設備という完成品そのもののOEM供給がなされますから、生産コストはかなり共通化することとなります。特に大型機種についていえば、X社は自らが販売する大型機種のおそらく全量をY社からOEM供給を受けることとなりますから、Y社にとってX社のコストは丸見えとなります。また、X社にとっても、X社がY社から供給を受けて販売する機種とY社が独自に販売する機種とが実質的に同等のものであるならば、Y社が販売する機種のコストを概ね把握することができます。

もっとも、たとえOEM供給の当事者間で共通化するコストの割合が大きいとしても、対象製品の市場において供給余力のある有力な競争者が牽制力として機能しているような場合には、競争を実質的に制限するものとは認められにくくなります(実践知87~88頁)

市場画定

市場における競争状況を分析する前提として、競争が行われる場(市場、一定の取引分野)の範囲を画定する必要があります。この点につき、公正取引委員会は、次のとおり、日本全国における「空調設備A」(大型機種と小型機種の両方を含むもの)を検討対象の市場として画定しました(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)ア)。

 空調設備Aの大型機種と小型機種では、大きさ等が異なっているため、需要の代替性(需要者にとっての代替性)は認められない。
 もっとも、複数の商品間で需要の代替性が認められない場合でも、供給の代替性が認められる場合(すなわち、供給者が多大な追加的費用やリスクを負うことなく、短期間のうちに、ある商品から他の商品に製造・販売を転換し得る場合)には、当該他の商品の供給者が競争圧力となり得ることから、供給の代替性を考慮して商品範囲を画定することがある。本件取組についていえば、2社を含む我が国の空調設備Aのメーカーは、大型機種及び小型機種のいずれも製造することが可能であり、大型機種と小型機種の間に供給の代替性が認められることを踏まえ、「空調設備A」を商品範囲として画定した。
 空調設備Aについては、日本国内での輸送に関して,輸送の難易性や輸送費用の点からの制約はなく、また、地域によって販売価格が異なるなどの事情も存在しない。
 このため、「日本全国」を地理的範囲として画定した。

供給者にとっての代替性の観点から、市場を構成する供給者の範囲を拡張させ、それに伴い商品役務の範囲が拡張されることを示したものです(実践知21~22頁、39頁)

有効な牽制力の存在

その上で、公正取引委員会は、次のとおり、2社とそれ以外の競争者の市場シェアから、本件取組の当事者には強い牽制力が働いていることを示します(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)イ・エ)。

 本件取組の場合、相互OEM供給の開始後の2社の市場シェアの合計は、約11%と小さい。また、X社からみた相互OEM供給の開始に伴う市場シェアの増分は、約1ポイントにすぎない。さらに、2社の市場シェアの順位については、X社は第3位と中位にあるが、Y社は第5位と低く、相互OEM供給によってX社の順位が上昇することもない。
2社と同等以上の市場シェアを有する競争者としては、市場シェア約55%(第1位)のP社、市場シェア約25%(第2位)のQ社が存在している。

もっとも、市場シェアは、一定の取引分野をどのように画定するかによって大きく異なってくるものであり、適法性評価において市場シェアが低いことに過度に依存することは危険です(実践知41頁)。おそらくは同じ問題意識で、公正取引委員会は、次のような摘示を行っています(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)ウ)。

 空調設備Aの製造販売分野において、2社間の競争や2社の行動が市場全体の競争を牽引してきたという状況が認められる場合であって、本件取組によってこうした状況が期待できなくなるときには、本件取組が競争に及ぼす影響は大きなものとなる。しかし、本件取組に関しては、そのような状況の存在は、特に認められない。

販売活動の独立性確保

さらに、公正取引委員会は、

2社は、本件取組の開始後においても、それぞれ独自に空調設備Aを販売し、互いに販売価格、販売数量、販売先等には一切関与しないため、本件取組によって2社の間の競争がなくなるというものでもない。

と言及しています(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)ウ)。販売分野に関する機微情報を互いに遮断することは、2社間での販売分野における競争の不確実性を維持することに役立つものであり、独禁法上の懸念を生じさせないための常套手段といえるでしょう(実践知90頁)

以上のことから、

 本件取組が空調設備Aの製造販売分野における競争に与える影響は、小さいといえる。
 したがって、本件取組は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。

と結論付けられました(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)オ・カ)。

実践知!

完成品のOEM供給を受けるなど、当事者間で生産コストの共通化割合が大きくなる場合であっても、市場において有効な牽制力が十分に働いているならば、販売分野における協調的な行動は採られ難くなり、独禁法上問題とはなりにくい。


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