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下請講習会テキストの改訂(令和2年版)

下請法に携わったことのある方であればおなじみの「下請取引適正化推進講習会テキスト」の令和2年版が公表されました。

以下では、令和元年版と比較して改訂された内容のうち重要なものを紹介いたします。

センターフィーの下請代金からの控除

令和2年版では、以下のとおり、物流センターの利用料(センターフィー)を下請代金の額から差し引くことについての考え方が新たに示されました。

下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号)
【減額の禁止についてのQ&A】

Q77: 親事業者が,物流センターに商品を納品している下請事業者に対して,当該センターの利用料等の名目でセンターフィーと称して下請代金の額から差し引くことは問題ないか。
A:下請事業者からセンターフィーと称して下請代金の額から差し引く行為が下請法上問題となるか否かについては,下請代金の額を定めた際の取引条件上,下請事業者が本来納品すべき場所がどこまでとされているかが重要となる。
 例えば,取引条件上,本来納品すべき場所が各店舗であれば,下請事業者は各店舗への納品に係る物流コストを負担する責任を負うことになる。この場合において,下請事業者が物流センターを利用するか否かを自由に選択でき,さらにセンターフィーの額についてその自由意思に基づく交渉の上決定されるなどの事情の下,物流センターへ一括納品して各店舗への納品は親事業者に任せることで,物流コストの軽減につながるなどの利益を得られるのであれば,下請事業者が物流センターのサービスを受ける別の取引があり,その場合のセンターフィーはそのサービスの対価であると評価することが可能である。こうした評価が可能であれば,センターフィーを下請代金から差し引いたとしても,下請代金の減額には当たらない。
 一方,取引条件上,本来納品すべき場所が物流センターであれば,下請事業者は物流センターに納品した後に発生する店舗までの配送コストについて負担すべき理由はなく,センターフィーは下請事業者にとって一方的な不利益となることから,これを下請代金から差し引くことは下請代金の減額として本法違反となる。
(講習会テキスト57頁)

下請代金の額を減じる行為は、下請事業者の責めに帰すべき理由がない限り、下請法違反になるというのが下請法の建付けです(4条1項3号)。
もっとも、公正取引委員会は、下請事業者の責めに帰すべき理由があるとはいえない場合であっても、幾つかの例外的な場合に限って、下請代金の減額に当たらないと認めています。具体的には、債権相殺、振込手数料の控除、手形の一時的現金払に伴う金利引き、ボリュームディスカウントです。
これに対し、手数料名目の金員については、それを下請代金の額から控除(相殺)する場合はもちろん、下請代金とは別途に支払わせる場合であっても、下請代金の減額として問題視し、適法となる余地を認めてきませんでした。
しかし、手数料等の金員が親事業者の提供するサービスの対価としての実体を有している場合には、通常の債権相殺と何らか変わるものではありません。そのため、実務上は、控除する手数料等について実体のあるサービス提供の対価であることを客観的に説明することにより、下請法違反の認定が回避されてきていました。
令和2年版での上記追加は、こうした公正取引委員会の運用を活字化するものであり、大きな意義があるといえるでしょう。(なお、同趣旨については、センターフィー名目の控除を下請法違反とした公取委勧告令和2・3・19(サンクゼール事件)の担当官による解説記事(小林茂=横野達也「株式会社サンクゼールに対する勧告について」公正取引837号75頁(2020))に記載されています。)

消化仕入による支払遅延

また、令和2年版では、以下のとおり、消化仕入による支払遅延が違反行為事例として新たに書き加えられました。

下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
【違反行為事例】
〈製造委託,修理委託における違反行為事例〉
⑧ 消化仕入による支払遅延

 親事業者H社は,自社の店舗で販売する衣料品等の製造を下請事業者に委託しているところ,一部の衣料品等について,納入された時点では下請事業者から受領したとみなさず,一般消費者に販売した時点を下請事業者から受領した日とみなして支払期日を定める消化仕入取引を行っており,当該衣料品等が納入された日の経過後に下請代金を支払っていたため,下請代金の支払が遅延していた。
(注) 一般消費者に販売した日を下請事業者の給付を受領した日とみなして支払期日を定める消化仕入取引は下請代金の支払期日が定められておらず,本法第2条の2第2項の規定により,下請事業者の給付を受領した日が下請代金の支払期日と定められたものとみなされるため,その日のうちに下請代金を支払う必要がある。
(講習会テキスト50~51頁)

消化仕入については、令和元年版までの講習会テキストにおいても、支払期日が不確定である故に下請法2条の2第2項に基づき受領日をもって支払期日とみなされる旨(上記注記部分)が記載されていました(令和2年版では36頁のQ47)。受領日が支払期日になるということは、受領日に下請代金全額を支払わなければ支払遅延になるということであり、上記追記はその旨を念のため記載したものと思われます。なお、最近の同種事案として、公取委勧告令和2・2・14(レリアン事件)があります。

中小企業庁への自発的申出

講習会テキストには後半部分に多くの資料が添付されていますが、令和2年版では、これまでになかった新たな資料が一つ付け加わりました。それは、令和2年6月30日付けの中小企業庁「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」(資料15)であり、次の記載を内容とするものです。

 中小企業庁は、親事業者が下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)第4条第1項第1号、第2号若しくは第7号に掲げる行為をしているかどうか若しくは同項第3号から第6号までに掲げる行為をしたかどうか又は親事業者について同条第2項各号の一に該当する事実があるかどうかを調査し、その事実があると認められ、かつ、重大な違反行為であると判断した場合には、公正取引委員会に対し、下請法の規定に従い適当な措置をとるべきことを求める措置請求を行ってきているところです。
 下請法違反行為を行っていた親事業者が中小企業庁に対して自発的に違反行為を申し出た場合には、この親事業者の自発的な改善措置が、下請事業者が受けた不利益の早期回復に資すること及び親事業者の法令遵守を促す観点から、申出があった事案について、以下のような事由が認められた場合、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求める措置請求までの必要はないものとして取扱いを行います。
1  中小企業庁が当該違反行為に係る調査に着手する前に、当該違反行為を自発的に申し出ている。
2  当該違反行為を既に取りやめている。
3  当該違反行為によって下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置(注)を既に講じている。
4  当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講じることとしている。
5  当該違反行為について中小企業庁が行う調査及び指導に全面的に協力している。
(注) 下請代金を減じていた当該事案においては、減じていた額の少なくとも過去1年間分を返還している。

下請法違反行為に関する自発的申出制度(いわゆる下請法リニエンシー)については、平成20年12月17日付けの公正取引委員会「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」(資料14)があり、それは上記中小企業庁への自発的申出制度と同じ内容です。

もっとも、公正取引委員会と中小企業庁は、対象事業者を分担して調査に当たっています。そのため、本来、中小企業庁が担当の事業者については自発的申出を行う場合には中小企業庁に行ってもらうほうが便宜であり、今般、上記制度が中小企業庁にも整えられたものと思われます。

なお、公正取引委員会と中小企業庁のウェブサイトには「自発的申出FAQ」(公正取引委員会版)(中小企業庁版)が掲載されています。公正取引委員会版はWordファイルですが、遅延利息計算のためのエクセルが埋め込まれており、自発的申出をするか否かにかかわらず参考となるでしょう。


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