見出し画像

マーケットプレイス部門で得た情報を小売部門で利用することは独禁法上問題か

欧州委員会は、2020年11月10日、マーケットプレイス部門で得た非公開の小売業者のデータを小売部門で利用したとしてAmazonに対し異議告知書(Statement of Objections)を発した旨発表しました(欧州委員会プレスリリース)。本件はまだSOの段階であり中身のコメントは差し控えますが、提示された論点には興味深いものがありますので、一般論をおさらいしておきます。

同じ社内の別部門で得た情報を利用することが独禁法上問題となるかどうかについては、以前から議論があります。日本では、かつて制度上独占が認められていた電力等の公益事業分野において、独占部門で得た情報を競争的部門で利活用することにつき、競争的部門での競争者を不利にする場合には取引妨害として問題となりうるとの考え方が2000年代初頭に示されています。

他方、ゼロから自力で有力な地位を築き上げてきた事業者までも、ある部門で得た情報を別の部門で利用することが制限されるのかは、難問です。市場支配的な地位を有するに至った事業者は、本来ならば自由に利用できるはずの情報であってもそれが制限されるといった特別の責任を負うのかどうかは、独禁法の根本問題の一つです。これは、単独で一方的に取引を拒絶することがどのような場合に独禁法上問題となるかという論点に近く、拙著『独禁法務の実践知』では「競争者に対する取引拒絶等」の章に「別部門での情報の利用」との節を設けて解説しています(実践知309頁以下)。

もっとも、独占部門で得る情報の取扱いについて何らかのルールがあり、それに違反して当該情報が競争的部門で利用されたような事案では、そのような情報利用は正常な競争手段の範囲を逸脱するものとならないか、検討が必要となりそうです。


このnoteは法的アドバイスを提供するものではありません。ご相談につきましてはこちらのフォームからお問合せください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?