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メーカー団体による取引先に対する配送効率化や付帯作業の削減・有料化の要望

独占禁止法に関する相談事例集(令和元年度)の事例8です。

事案の概要

包装資材Aのメーカーを会員とする団体であるX協会が、次の事項を要望する文書を作成し、会員を通じて取引先に配布するという取組を計画したものです。

配送について
・ 取引先が希望する日時より前の時間帯に納品することの承認
・ 納品に係る待機時間の短縮
・ 休日配送の削減
・ 需要予測を踏まえた計画的な発注による納品頻度の引下げ
附帯作業について
・ 附帯作業(納品場所での商品仕分や運搬作業)の削減又は有料化

事案の概要図は次のとおり(出典:公正取引委員会ホームページ)。

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生じうる独禁法上の懸念は何か

メーカーは、自己の供給する製品の取引を誘引・維持するため、製品の品質や品質だけでなく、それに付帯する副次的なサービスを提供をめぐっても、競争しています。

メーカーが、自己の供給する製品につき、取引先の便宜にかなうような配送を行うことや、配送の際に付帯的に仕分や構内運搬等を行うことも、本来、メーカー間で自由に競争されるべき副次的サービスといえるでしょう。

そのため、X協会が会員企業の取引先に本件文書を配布するという本件取組は、会員企業間での副次的サービスの提供に関する競争を人為的に回避しようとするものではないかとの懸念を生じさせます。

本件取組を行おうとする目的は何か

競争者間の協調的取組が、もっぱら競争を制限することを目的とするものであり、それ以外に特段の合理的な目的が認められない場合には、通常、そのような行為自体が反競争的です。
そのため、それが実効性をもって行われたならば、競争阻害効果の有無を厳密に分析するまでもなく、独禁法違反となりやすいといえます(実践知16~17頁、41~42頁)

X協会が本件取組を行おうとする目的は、次のとおり、運送業者の労働条件の改善にあるものとされます(2〔相談の要旨〕(2)ウ・(3))。

 最近、運送業者からX協会の会員に対し、予定外の附帯作業に関する苦情、納品時における長時間の待機に関する苦情等が多数寄せられており、これらの苦情に対応した運送業者の労働条件改善が業界内での課題となっている。
 そこで、X協会は、本件取組を検討している。
(※本文を一部修正)

これは、X協会が取引先に対して配送の効率化や付帯作業の削減・有料化を要望することは、会員メーカー間での副次的サービスの提供競争を阻害することを目的としたものではないことを示すものです。
そのため、本件取組は、その競争阻害効果を詳細に分析することなく独禁法違反と即断できるものではありません。

正当な目的を実現するために合理的に必要な範囲内での取組か

公正取引委員会は、本件取組の競争阻害効果の評価に先立ち、本件取組の目的の正当性とそれを実現するための手段の合理性の観点から、分析をスタートさせます。

目的の正当性

まず、運送業者の労働条件改善という目的は、配送の効率化の関係でも、付帯作業の削減・有料化の関係でも、正当なものであると評価します(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)ア・(3)イ)。

手段の合理性

次に、本件取組が上記目的を実現するための手段として合理的に必要なものであるかどうかにつき、配送の効率化に関しては、

納品頻度の引下げ、納品に係る待機時間の短縮等によって配送の効率化を進めるという取組は、当該目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものである。

とします(3〔独占禁止法上の考え方〕(2)ア)。

他方、付帯作業の削減・有料化に関しては、

当該目的を達成するためには、商品の配送時に附帯作業を含めることを条件とするか否か、附帯作業に係る料金をX協会の会員、取引先のどちらが負担するか、取引先が料金を負担する場合に金額を幾らにするかなどを決める必要があるところ、これらの事項は、X協会の会員が自らの判断で取引先と個別に協議を行って決定すべきものである。X協会が一律に取引先に対して附帯作業の削減・有償化を求めることは、当該目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものであるとはいえない。

として、手段の合理性を否定します(3〔独占禁止法上の考え方〕(3)イ)。

このように、運送業者の労働条件改善という目的を実現するための手段として、納品頻度の引下げや待機時間の短縮等を取引先に求めることと、付帯作業を削減することや有料化を取引先に求めることとで、合理的に必要とされる範囲内のものであるかどうかの評価が分かれました。
運送業者の労働条件の改善は、副次的サービスの内容を効率化することで実現可能であり、それを超えて、そもそも副次的サービスを提供しないことや、提供するにしても有料化することまで求めることは合理的に必要とされる範囲を超えていると判断されたものといえるでしょう。

競争阻害効果は生じるか

次に、本件取組による競争阻害性の評価に移ります。

市場支配的な状態をもたらすか

事業者団体が、ある行為によって競争自体を人為的に減少させ、競争を実質的に制限する場合には、独禁法違反となります(8条1号)。
競争の実質的制限とは、特定の事業者や事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格等の条件を左右することができる状態をもたらすことをいうものと解されています。
競争が実質的に制限されるか否かの判断にあたっては、市場支配的な状態が生じることを妨げるに足りる有効な牽制力がどれだけ消滅するかが評価されます(実践知15~16頁、40~41頁)

本件において、X協会の会員である包装資材Aのメーカーの中には、包装資材Aの生産量の市場シェアが全国で上位のメーカーまたはそのグループ会社が複数含まれているものとされます(2〔相談の要旨〕(1))。
もっとも、公正取引委員会は、本件について、競争を実質的に制限するものであるかどうかについては特に言及しませんでした。

需要者の利益を害するか

他方、事業者団体が構成事業者の機能や活動を制限する場合には、それによって上記の競争を実質的に制限するレベルに至らなくとも、需要者の利益を不当に害するものであるならば、独禁法違反とされます(8条4号事業者団体ガイドライン〔第2の7(2)ア〕(実践知16頁)

公正取引委員会は、需要者の利益を害する可能性につき、配送の効率化に関しては、

 X協会の会員の取引先は、配送の効率化に伴う前倒しでの納品に対応するために、保管場所の確保等を行わなければならない場合があり得る。しかし、X協会が検討している配送の効率化の内容は、数回の発注を1回にまとめる、朝一番の時間指定分を前日のうちに納品するという程度の内容であるので、保管場所の大規模な改修等が必要になるわけではないと考えられる。
 加えて、配送の効率化は、前記のとおり、正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲で行われるものである。
 これらの点に鑑みれば、配送の効率化が取引先の利益を不当に害するとまではいえないと考えられる。

と評価しました(2〔独占禁止法上の考え方〕(2)イ)。副次的サービスを効率化するにとどまるのであれば、需要者に大した影響を与えないということです。
そして、配送の効率化の内容はX協会の会員間で差別的なものではないことと、X協会の会員に遵守を強制するものではないことを確認した上で、「配送の効率化は、X協会の会員の機能又は活動を不当に制限するものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。」と結論付けました(2〔独占禁止法上の考え方〕(2)ウ・エ・オ)。
配送の効率化に関しては、目的の正当性と手段の合理性が認められたため、競争阻害性の分析については、需要者の利益を害するものではないことを念のため確認した、ということでしょう(実践知13~14頁、38頁)。
事業者団体ガイドラインにおいて、「競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか」が考慮事項として挙げられているから検討した、というのが正確かもしれません。)

他方、付帯作業の削減・有料化に関しては、手段の合理性が認められないため、必然的に競争阻害性の分析に駒が進められます。すなわち、

(ア)包装資材Aの納品時の条件に附帯作業が含まれているか否か、また、附帯作業の料金が幾らであるかは、X協会の会員の取引先が包装資材Aの購入先を選択する際の考慮要素となっており、当該会員にとって競争手段の一つになっていると考えられる。
 今般のX協会による附帯作業の削減・有料化は、会員の取引先に対して一律に附帯作業の削減又は有料化を要望するという内容であり、会員の競争手段を制限するものである。X協会の会員の中には市場シェアが大きい大手の事業者が含まれているので、X協会がかかる制限を行うことによる競争への影響は大きい。
(イ)また、X協会の会員の取引先は
 ・従来の契約内容には附帯作業が含まれていたにもかかわらず、これが実施されなくなる
 ・従来X協会の会員に支払っていた運送費の中に附帯作業に係る料金が含まれていたにもかかわらず、追加料金が請求されるようになる
などの場合には、包装資材Aの受領に係るコストが増加するという不利益を被ることになる。
(ウ)このように、附帯作業の削減・有料化は、X協会の会員の競争手段を制限し、需要者たる取引先の利益を害するおそれがあるものである。

として(2〔独占禁止法上の考え方〕(3)ア)、「附帯作業の削減・有料化は、X協会の会員の機能又は活動を不当に制限するおそれがあり、独占禁止法上問題となるおそれがある。」とされました(2〔独占禁止法上の考え方〕(3)ウ)。
附帯作業の有無や料金だけでなく、配送サービスの内容(配送の効率化が求められる程度)についても、需要者にとって取引先を選択する際の考慮要素となることは否定できないと思われます。さはさりながら、サービスを提供する前提でどのような内容のものとするかと、そもそもサービスを提供するか否かや有償であるかどうかとでは、競争手段としての重要性に大きな違いがあるということでしょう。

実践知!

競争者間の協調的取組につき、目的の正当性と手段の合理性が認められるならば、競争阻害性を詳細に分析せずとも、独禁法上問題ないものと判断されやすい。
競争者間で副次的サービスの提供を制限することや、無償提供を制限することは、競争阻害性が認められやすい。


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