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ビジュアルの格好良さは手段でしかない

個人的感覚ですが、ここ数年でフリーランスのビデオグラファー が一気に増えたような気がします。そして一眼カメラ、電動ジンバル、ドローンなど機材の進化も手伝って映像作品の平均的なクオリティも一昔前とは比べものにならないくらい上がりました。今はYouTubeで世界中の有名クリエイターの作品を参考にすることが出来ますから、センスの良い人も間違いなく増えています。

個人的偏見ですが若手のビデオグラファーは、とにかくカッコいい映像が大好きでビジュアルにこだわりを持ってる人が多い気がします。もちろんビジュアルは大事なんですが、「美しい映像」「かっこいい映像」を作ることが目的になってないでしょうか。
本来は伝えたいことを伝わりやすくするために「美しい」と「かっこいい」が必要なだけでメッセージやテーマのようなものが作品を貫いていないと心の芯には響きません。

今はSNSがあるので作品の発表は簡単に出来ます。いかに格好良い作品を作ってSNSにアップし、たくさんの人から「いいね」をもらって快感を感じるだけで満足して無いでしょうか。

とはいえ うっとりする映像美や斬新な表現にはやっぱり心を奪われますよね。今回はなぜ映像作品には「美しい」や「かっこいい」などのビジュアル力が求められるのかを書こうと思います。

一言で言えばカッコ良いビジュアルは脳を覚醒させます。脳が覚醒すると情報の認識力が高まるので内容やストーリーがより伝わりやすくなるんです。

ビジュアルの格好良さを分解すると「刺激」「美しさ」に分けられます。この二つのビジュアル効果はそれぞれ違った「脳の覚醒」を引き起こします。
まず「刺激」は「斬新・驚き・予測不能」と言った今ままでに見たことの無い視覚体験をした時に起こる感覚です。「刺激」はアッパーな感情の原因であるドーパミンを発生させ人間の「やる気」を引き出します。「やる気」を引き出せばこの映像を最後まで見てみようという気待ちになるわけです。オープニング映像などは派手で斬新な手法がよく使われますが、これは視聴意欲を引き出すのが目的なんですね。

「美しさ」とは計算された構図、解像度、色や光のバランスなど美術的に整合性のある視覚体験をした時に起こる感覚です。人は美しいものを見ると脳からセロトニンが発生し感情の抑制が起こります。感情が落ち着けば思考が冴え集中力が高まります。つまり「美しさ」は人間の「集中力・思考力・想像力」を向上させるんです。集中力が高まれば当然情報認識力も高まるので内容が理解しやすくなります。

映像を表現する時にこの「刺激」と「美しさ」の効果を理解し使い分ける必要があります。例えば広告動画やCMは動画に興味の無い人が対象です。視聴者に見たいという気持ちを引き出すためには「刺激」が必要です。だから広告動画は常に新しいクリエイティブな表現が求められるんです。

それに対してブライダル記録や劇場映画などの視聴者は始めから映像に対しての興味を持っていて見る気満々です。だから過剰に「刺激」でやる気を引き出す必要がありません。集中力を向上させるシンプルな「美しさ」があればそれでいいんです。

実はどんなに難しく作られてるかっこいい映像も「目で見えるもの」を真似するのはそんなに難しくありません。簡単とは言いませんが、見えますからゴールは分かるし努力のやり方も想像がつきます。
重要なのは「目で見えないもの」をどれだけ見ることができるかなんだと思います。「目で見えないもの」とはストーリーや隠れたメッセージ、制作者の考え、信念、問題提起のようなものです。これが無いとどれだけビジュアルクオリティが高くても瞬間的な感動だけで記憶に残ら無い薄っぺらい作品になりがちです。

繰り返しますが映像におけるビジュアル力はあくまで内容やストーリー、メッセージを引き立てるものであり、カッコいいビジュアルだけでは映像作品として成立しません。もちろん内容よりも目を引くことが大切だからビジュアル重視ということも多々ありますので、仕事によって使い分けることも重要です。

純粋なカメラマンや編集マンなどのスペシャリストを目指すのであればビジュアルのかっこよさだけを追い求めるのも悪くはないと思います。ただビデオグラファー (映像作家)として活動するのであれば「目で見えないもの」を見る努力は必要だと思います。

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