見出し画像

ビデオグラファー という職業

僕は自分のことをビデオグラファー と名乗っています。ビデオグラファー を一言で説明すると「映像の企画から撮影、編集、演出まで一人でこなす人」というのが世間一般的な認識ではないでしょうか。

言葉の由来としてはphotographer(写真家)+video(動画)を合わせた造語です。日本語で言えば「映像作家」ですね。

僕がsonyのビデオカメラVX2000とMacのG4を手に入れてフリーランス活動を始めたのは22歳の時でした。その時に名刺に何て書こうか非常に悩んだものです。20世紀の映像制作は基本的に分業でありディレクター、ビデオカメラマン、エディターなどそれぞれ独立した肩書きを持っているのが普通で、「企画から撮影、編集まで一人でなんでもやりますよ」というフリーランスの映像制作者の存在自体が稀有な時代だったからです。
「企画・撮影・編集」と書くのはダサいし「映像作家」と名乗るとアーティスト感が強すぎるので最初の頃は「映像クリエイター」と名乗っていました。今考えると肩書きにクリエイター付けるのは超ダサいですね。

ビデオグラファー を名乗り始めたのは10年くらい前です。その頃はまだ認知が低くて「ビデオグラファー って何ですか?」とよく聞かれたもんですが最近になってようやく認知が高まり自信を持って名乗れるようになりました。

ビデオグラファー という職業は「映像に関する技術者」というよりも「映像に関する表現者」つまり「映像作家」という側面が大きいと思っています。僕の考えるビデオグラファー の定義は

「撮影・編集技術を持ち合わせた映像ディレクター」です。

技術力では無く、企画力と演出力がビデオグラファー の本質的な能力だと思っています。なので撮影は得意だけど、考えたり創造することが嫌いという人は「ビデオグラファー」では無く「ビデオカメラマン」です。(あくまで個人意見ですが)

フリーランスのフォトグラファーは昔からたくさんいましたが、フリーランスのビデオグラファー が増えたのは15年くらい前からだと思います。大きな要因としては機材の進化インターネットの普及です。

僕がこの世界に入った時はバラエティ番組のような派手な編集をしようとしたら1000万円以上かかる編集システムが必要でした。
それが今では10万くらいのパソコンで同じことが出来るのですから恐ろしいもんです。
つまり一昔前は個人で高額なプロ用機材の所有は難しかったんです。

そして機材の操作を覚えるだけで一苦労でした。当時はパソコンでは無くビデオデッキを2台繋げてダビングする「リニア編集」の時代です。
リニア編集はVTR、DVE、編集機、キャラクタージェネレーター、スイッチャー、オーディオミキサー、波形モニター、ベクトルスコープなど機材の種類が多く映像信号に関する専門的な知識も覚えなてくてはいけませんでした。アナログは映像信号の管理と微調整が常に必要だったんです。
パソコン編集でも覚えなければならない専門用語は多いですがリニア編集の時代はその比ではありません。普通に編集するという技術と知識を身につけるだけで多大な時間がかかってしまいました。

撮影に関しては今ほどオート機能が優秀では無かったのでピント合わせ、明るさ調整は全てマニュアルが基本です。ホワイトバランスもオートは信用出来なかったので場所や照明が変わるたびにマニュアルで調整していました。手ぶれ補正も弱かったので三脚撮影が基本です。
プロのビデオカメラマンは構図や表現力うんぬんの前にこの当たり前の基本がどれだけの精度で操作できるかが問われます。
ピントを外さない、適性な明るさを保つ、ブレずに撮影する、などの操作を意識すると脳のメモリを大量に消費してしまう為クリエティブな発想までは頭がなかなか回りません。
無意識で適正なマニュアル操作が出来るまでには かなりの経験が必要でした。

しかし今では顔認識などのオート機能と手ぶれ補正が優秀なため初心者にフルオートで撮らせても余程酷い絵にはなりません。
さらにLOGやLOWなどで収録すれば後から色や明るさを補正できます。

機材の低価格化、シンプル化、優秀なオート機能、専門知識の縮小により長期間の修行から解放され、短時間で映像技術を習得できるようになりました。そのおかげでディレクターと技術職を兼任できるビデオグラファー が増えたのです。

一昔前、映像を見る媒体はテレビ、スクリーン、街頭モニターくらいでした。今ではネットを通してのスマホ視聴が主流です。この映像作品を見せる機会が増えたことの影響も非常に大きいです。
2020年から始まる5Gによりネットの速度は今の100倍となるため動画の需要は今後益々伸びることが予想されでしょう。
更にAIでの自動編集機能により、ある程度パターン化された編集はパソコン任せに出来る時代は数年後に迫って来ています。

つまり今まで以上にプロとアマチュアの差が無くなっていく時代に突入していくことは間違いありません。

そこそこの撮影、そこそこの編集、そこそこの演出しかできず真面目だけが取り柄のビデオグラファーは残念ながら低賃金の仕事しか来なくなってしまうでしょう。

これからのビデオグラファーに必要な能力は機材を操作できる技術力では無く、新しい発想を生み出せる思考力と、他者には真似できない芸術的センスじゃ無いでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?