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うしこと下僕

 下僕になる私が、2017年6月 新築戸建に引越して1年。 元々土地を探しているときにも猫を見かける土地柄ではあるが、家の前に鯖模様の白い猫が横たわっていた。”大丈夫”と声をかけると”にゃあ”と鳴く、よく見てみると腹が大きい。身籠っている。”気をつけてね”というと、また”にゃあ”と鳴いて歩いていった。
 その頃はペットショップに行って猫か小さな犬を選んでこようと言う気持ちだったから、地域猫の存在も知らなかった。また、新築の壁やフローリング、娘が大切にしているぬいぐるみを考えると飼い始める決心がつきかねていた。妻とペットショップに毎週のように行き可愛い仕草に微笑む。娘はペット買ったら私、家を出てマンション借りようかまで言う。
 構ってあげられるのは小さな庭の樹木。芝生の研究をし道具をそろえた。マンションから連れてきた20年のベンジャミン ”まるみ” には 温室カバーをかけて一年は冬を越させたが、春に鉢を越えて根付いた根を抜いたのが悪かったのか、2018年の正月には枯らしてしまった。芝生の緑を育てることと、水切れしやすく虫につきやすい楓の世話が日課になった。樹々の下僕である。
 晴れた夏の日、芝生の鮮やか緑に茶色の落とし物があった。これには、超音波の猫よけをおいてもだめ。犯人は目撃できないがほぼ毎日茶色のプレゼント。妻が一計を案じてめざしを小皿に置くようにした。食堂では粗相をしないと言う理論。これが効果てきめん。プレゼントは無くなった。
 2018年秋、青空が広がる日、会社の仲間と車両を納入している関係で皇宮警察の催しにいった。紅葉はまだだったが、皇居の清々しい自然と神聖な雰囲気を感じる散歩。帰りは神保町のボンディで初の2時間待ちカレーを堪能。
 その週末、視線を感じると鯖まだらの白い猫が蹲っている。1年前の猫のように。母猫の教えがあったかのように。
 よく見ると左耳が欠けている。その頃は喧嘩したのかと思っていた。さくらねこを知ったのは猫研究が進んでから。まだ幼さが残っていて可愛い。触ろうとすると逃げた。うし模様なので”うしこ”と呼んでみた。まだ、応えるはずはない。
 それから、毎日うしこは来て小皿のめざしを食べる様になった。玄関の前でも待っている様になった。めざしでいいのかとふと思い、猫のごはんも買ってきてあげるようにした。下僕見習いになった。調べると猫のご飯にはいろんな種類があることを知ったが、コマーシャルでよく宣伝している猫まっしぐらのものをあげてみた。
 だんだん、私を見ると にゃにゃにゃと 鳴きながら駆け寄る様になってきた。季節は変わり、冷たい雨が降るようになっていた。

 うしこのお家を作ってみたよ。 段ボールの箱に穴を開け雨に濡れないようにアルミホイルを貼った後 マジックでうしことおさかなの絵を描いてみた。Face Bookに載せたら元デザイナーの先輩は褒めてくれたが、家族からは近所の笑いものになるから外に出さないでときつく言われる。
 寒さが募る。檜の縁台に段ボールとアルミ断熱材を組合せばいいのではないかと壁を構築。床は取り急ぎ段ボールと玄関マット。壁にくっつけて湯たんぽを置けるようにして、毛布を中に敷き詰めた。夜 ティファールを2回使ってお湯を沸かし湯たんぽにいれてセット。
 朝 覗いて見ると伸び伸びをして出てくる うしこ。大成功。カリカリの入れた小鉢とお水の入れた小鉢とお湯で温めたスープの小鉢で 朝ご飯。ゆっくりと食べる。食べ終わるとお散歩に行くので、気を付けてねと言って見送る。
 それから、朝と昼と夕方のご飯とお水、夕方と就寝前と 朝の湯たんぽが下僕の日課になった。 朝外の縁台ハウスを覗くと 伸びをして出てくるときもあり、覗いていないので心配していると にゃにゃにゃと鳴きながら小走りに道を近づいてくることもあり、毎日毎日愛おしい。
 ご飯は小さな鉢であげていたが、前足を折って食べにくそうなので 台をこしらえてあげた。うしこがいないときは 餌を入れて置いていくと なめくじが上がっていることがある。なめくじ防止に銅の網を台の上においたりした。
 雨の日 濡れないでご飯も食べられるように縁台で食堂も作った。大雨の日は寝ている縁台ハウスにお皿に入れたカリカリをデリバリーした。
 ネズミの玩具を買ってきて 芝生で追いかけっこもするようになった 大事に育てた芝生は禿げ上がる。フエンスの上まで登って追いかける。サーカスの猛獣使いになった気持ちの下僕である。
 最初にチュールを食べたら 嬉しそうに にゃんーにやお喋り。腹天もするようになりブラシでなければ撫でられなかった子がゴロゴロ。よく雄に追いかけられ喧嘩もしている。縁台ハウスに隠れて中から攻撃もしている。そんな日が過ぎた2019年春ようやく、手で撫でて喧嘩傷にオロナインもぬれるようになった。
 こんな毎日で、下僕へのご飯なのか、時折 トカゲや 小鳥や 竹輪も お礼に置いて行くようになった。小鳥とネズミの狩も目撃できたが 野生の子 可愛いのに残忍 獲物を放り投げ地面に打ちつけ弱ったら噛む。
 冬は 湯たんぽと毛布が入った縁台ハウスで無事過ごせ、春は花の香りで晴れた日は外に置くクッションでねんね。問題は夏である。クルマの下でフーフしているので、下僕でできることといったら、そばに凍った保冷剤を置いたり、水を撒いたり。
 食堂縁台の壁を簀にして風通りを良くして夏のお家に改造。うしこがクルマの下で寝ているので諦めて電車で街に行ったこともあった。夏は辛い。この頃からお家に入れることを考えるようになった。
 外の子は自由に生きて今はご飯も毎日きちんとしたものをあげられるし冬の寒さは防いであげられる。しかし、夏の酷暑からは守ってあげられない。喧嘩もする。道路にクルマも走っている。時折 ヨロヨロと歩く地域猫の姿にうしこを重ねてしまう。猫に詳しくなると地域猫の寿命は5歳くらいと知った。
 その後 2019年は9月と10月は台風が襲った。うしこの縁台ハウスは砂袋を乗せて置いたのでうしこもお家も無事だったが、新築のお家は破風が台風の街風で取れてしまった。この先台風も心配だ。
 冬になり徐々に慣らすために玄関の中に入れてご飯をあげる様になった。でもドアが閉まると出してとにゃにゃと暴れる。仕方ないので少し隙間を開けてご飯あげた。
 機嫌が良い日に初めてリビングに入れた。おどおどしているけれど 好奇心あり。なんとかお家猫にできるかもと考え始めた。

 春がきた。この季節はうしこも伸び伸び。芝生があった場所でいっぱい遊び クションで眠る。5月連休にゲージを初めて購入して組み立てた。梅雨と夏が迫ってくる。近くの病院を調べた。キャリアも揃えた。必要なトイレも研究し準備。
 2020年6月、病院に地域猫を保護したら診てもらえるかを電話で一週間前に確認し、縁台ハウスから出てきたうしこをバイク用革手袋をしてゲージに入れそのまま、近くの動物病院へ連れていく。ゲージの中でうしこは鳴きっぱなし、下僕は大丈夫だよ大丈夫だよとしか言えない。ノミの駆除をしてもらい血液採取、観察上は健康。便が出たら持ってきてくださいと言われて一旦家に帰る。
 うしこをキャリアから出し、ゲージに入れてお水とご飯を置いたけどうずくまっている。しばらくするとだして出してと泣き叫んでいる。うしこのためだよと下僕は言って見守るしかなかった。 
 午後 病院から血液検査の結果出た。病気にはかかっていなかった。興奮して血糖値が高いだけで健康。次の日の朝 便があったので病院に持っていく。虫もいない。あとはお家に慣れてもらうだけ。

一週間後ゲージから出すと 前にあった座布団で腹てん 撫でてあげた。窓のところに言って にゃあにゃあにゃあ 出してと鳴いているがこれも落ち着くだろう。

こんな出会いから2年半 大病もなくうしこはお家のお姫様になりました。下僕は朝 四カ所の水飲みを洗い入れ替え おトイレを掃除し カリカリとスープをあげて ブラシングとマッサージをして 会社に出かけます。 あと1年半くらいしたら定年退職なので 24時間の下僕になる予定です。
 うしこは母猫の命 ベンジャミンのまるみの思いを繋いできてくれたお姫様でした。

#うちの保護いぬ保護ねこ

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