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SC100人会レポ-ト 第3部「科学コミュニケーションをアップデートせよ!」

5月11日(土)に開催された「100人の科学コミュニケータ―で"乾杯"大交流会」のパネルディスカッションの様子をレポート。3部構成のディスカッションのうち、科学コミュニケ-ターの再定義や未来の可能性について話し合われた最終パートをお届けします。※第1部と第2部は後日公開。

科学コミュニケーターって、何者?

セッションは自己紹介とともに、「科学コミュニケーションのアップデート」というテーマで語り合いたいことを挙げるところからスタートしました。

パネリスト
羽村 太雅(柏の葉サイエンスエデュケーションラボ 会長)
黒ラブ教授(吉本興行株式会社)
本田隆行(フリーランス)
松田 壮一郎(FLOCブロックチェーン大学校 カリキュラム編集者)
中島 悠(国立研究開発法人産業技術総合研究所 日本学術振興会特別研究員) 
ファシリテーター
谷 明洋(アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/フリーランス)

ほんだ:科学コミュニケーターって、なんですか? 皆さんのもっているイメージや定義がバラバラなので、10年、20年先を見据えてアップデートしたい。

黒ラブ教授:「研究者でもなく、なんなんだろう、この人たち」となると、メディアも使いにくいという現実がありますよね。科学コミュニケーターの立ち位置を、変えていきつつ明確にできれば、社会の見方も変わってくるんじゃないですかね。

谷:自分たちのために整理することに加え、社会にどう見られたいか、というのがありますね。

さっそく、「科学コミュニケーターって何者か?」についての議論が始まります。

谷:科学コミュニケーターを「職業」よりも「職能」ととらえて、できることや得意なことを考えてみませんか。

松田:たとえば「伝える」「解説する」だけでなく、「何がわからないか整理する」とか、気持ちを「聞き出す」というのも、要素だと思うんですよ。

羽村:棲み分けが意識できると良いですよね。分かりやすく「伝える」のは先生や解説者の仕事でもある。科学コミュニケーターは、「世界観を広げる」「感動共有」とか、違う価値も出しつつ、そんな自分たちの現在地を把握しないと。

ほんだ:フリーでやっていると、科学ではなくて、福祉の立ち位置に近いと思うことがあります。相手が何に困っているのかに寄り添って、リソースを探して、つなげる。病院のソーシャルワーカーのようなことを、科学が絡む世界で、でも科学の専門家よりもっと広い社会を知っている人材としてやることで、価値が生まれるはず。

松田:私も科学雑誌で編集記者の仕事を8年半やった後、今はブロックチェーンをエンジニアやビジネスパーソンに教える仕事に就きました。金融寄りの分野だけど、分からないものをうまく伝える、分からないポイントを整理する、という科学コミュニケーターの能力を買われて。

谷:僕も未来館の展示を案内しながら、人の価値観や思いを掘り下げている時は、カウンセラーに近いことを科学が絡むトピックでやっている感覚があります。

絞って定義するのか、多種多様を受け入れるのか

話は、多様な科学コミュニケーターがいるこうした現状をどう捉えるか、に進みます。

谷:色んなタイプの人材がいると思うのですが、そもそも科学コミュニケーションは目的?手段? 手段だとしたら何のため?

ほんだ:それがバラバラ。みんな違う。なのに、「科学コミュニケーター」の一言でまとめてしまおうとするから、よー分からんくなる。

中島:これまでは個人の解釈でチャレンジしてきたけど、いろんな事例が出てきたからこそ、あらためて整理する必要がありそうですね。

谷:整理をするとして、「多様でバラバラな状況が良くないから、ある程度統一しよう」という話なのか、それとも「多様であることは良いことで、それをうまく発信しよう」という話なのか。

ほんだ:社会でいま、「科学コミュニケーターです」って名乗ると、「それなんですか?」ってなる。もし、バラバラを是とすると、「科学コミュニケーター」という肩書で飯を食ってくのは難しいんじゃないかな。何者か、よく分からないんだから。

谷:科学コミュニケーターをある程度定義できたほうが、仕事頼む方も受ける方もマッチングしやすい、と。でも、それをするにはタイプが多すぎるし、多様なことは魅力であるとも思うんですよね。

多種多様でも、「モデルケース」や「図鑑」で発信できる?

どうすればよいのか?黒ラブ教授から「モデルケース」というキーワードが出ます。

黒ラブ教授:成功事例ができれば良いんですよ。「ああ、科学コミュニケーターってこうなんだ」ってなるから。「実験ショーなら、でんじろうさん」みたいに。たとえば僕が成功すれば、「科学コミュニケーターってお笑いの人なんだ」って、そうなると、お笑い系じゃない科学コミュニケーターは不都合が生まれますよね(笑)。そうなると頑張って、また別のモデルケースが出てきて。生物の進化みたいに、淘汰されつつ、いくつかのモデルが見えてくるのかな。

もうひとつ。多様な科学コミュニケーターを「図鑑」のようなもので整理することはできないか、というアイデアの議論も進みました。

松田:どんな人材がいるかを整理して発信するためには、科学コミュニケーターの「能力マップ」みたいなものをつくりたいですよね。

中島:それには、みんなでガッと集まって話す場があるとよくて。「お笑い系」とか「寄り添い系」とか、勝手に名乗り始めるとまたバラバラになるから、似たようなタイプを整理して、どんなタイプがいるのか整理していくと良いと思います。科学コミュニケーター同士が互いの状況を知るためにも、大事なんじゃないですかね。

羽村:科学コミュニケーターを100人集めよう、と樋江井さんが今回頑張ったのは、そういう意味があって。ここにいるみんなができることが揃うと、ポケモン図鑑じゃないけど、「科学コミュニケーター図鑑」みたいなのができてくる。どんな人がいて、どんな能力があって、どんなグルーピングができるのか。整理されると、どんな仕事を受けられるかも分かってきて、市場を作っていけるんじゃないかな。

谷:図鑑では、一人ひとりを何によって紹介するのか。業績を並べるのも良いけど、「お笑い系」「解説型」「ライター型」とかタイプを示すのも良いし、「解説力」「掘り下げ力」「事業開発力」みたいなパラメータが出せても面白いと思うんですよ。

「他流試合」で新たな市場を生み出せ!

話はさらに、「科学コミュニケーターは先生とか、ほかの仕事で代用できないの?」という会場からの問いも受け、どう市場を獲得していくのかに展開します。

ほんだ:市場はある。だって、フリーで4年も生きているのだから。でも、市場側が、科学コミュニケーターの存在を知らない。協業して初めて「そうそう、こういう人材が欲しかったんです」ってなるパターンがすごく多いんです。ここは、まだブルーオーシャンだと思ってます。あとは、存在をどう知ってもらうのか。科学館や企業といった自分の所属から外に出て「他流試合」をやるのが大事なんじゃないかな。

羽村:科学コミュニケーターが科学の世界にいても、お互いに「すごいね」と言い合っているだけになりがち。でも、ビジコンに出て「科学コミュニケーターです」って言うと、「うちもこんな課題があって」「是非一緒にやりましょう」といろんな案件が次々やってくるんですよ。いろんな市場があって、向こうも気づいてないし、こっちもアクセスするルートがない。だからまず出ていって、ファーストステップとして、何か協業することが大事だと。自分自身も、そうやっていきたいと思っています。

谷:他流試合で、科学コミュニケーターがいないところに行った瞬間、いろいろニーズがあるよ、と。そういう意味では、第2部の「イノベーション」や「社会価値創出」についての話にもヒントがたくさんあったので、多くの科学コミュニケーターに聞いてほしかったなあ、と思います。

松田:「自分が面白いのを伝える」ということを,いったん諦めた方が良いと思うんです。それで市場が増えてないのだから。ドラッカーが企業の目的を「顧客の創造」と言ったように、科学コミュニケーターは既存の市場に入り込むのではなく、「こんな価値提供できるんです」と新しい市場をつくるべきじゃないかと思うんです。黒ラブ教授が、「お笑いを通して、科学のことも分かる」をやっているように、科学を主目的にしない形があって、それがモデルになっていくと良いですよね!

中島:もうひとつ、「科学コミュニケーターコミュニケーター」のような存在が必要かな、と。いろんなコミュニケーターをつなぐコミュニケーターがいると、うまくつながっていくと思うんですよ。

谷:その機能は、さっき話していた科学コミュニケーター図鑑が果たせるかもしれないけど、人が担ってもっと交流できていくのも良いですね。

「科学コミュニケーターって何者?」という問いから始まったセッションはまず、定義するのが難しい多様なタイプの存在を感じました。「アップデート」というテーマに対応して結果的に見えてきたのは、「新たな市場を生み出す可能性」。社会に存在を認知されることでいろいろな市場を創出できるのではないかという実感と、それを実現するための「成功事例」「人材図鑑」「他流試合」を考えました。

セッションの様子。左から中島さん、松田さん、黒ラブ教授、羽村さん、谷さん。ほんださんは大阪に帰るため早めに会場を後にしました。

文章:谷明洋

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