UFC 251 レビュー


イリー・プロハースカ def. ヴォルカン・オーズデミア

RIZINのチャンピオン、イリー・プロハースカのUFCデビューは、いきなりランキング7位のヴォルカン・オーズデミアにあてられるという試練のマッチメークだったが、プロハースカが難関をあっさりと突破してみせた。

第1ラウンドは押されていたように見えたプロハースカ。何回かふらついていたように見えたし、試合中なのにそっぽを向いたりして、集中力を切らせているようにも見えた(終わってから思い返してみれば、それも作戦だったのかもしれない)。日本マットからの転出組がまたしても苦杯をなめてしまうのかとも思われた。

しかし第2ラウンドに入るとプロハースカは突如殺し屋に大変身、まさに殴る蹴るの暴行でオーデズミアをさっさと完全失神KOに切って捨てたのだった。RIZINでの試合は見ていたはずなのだが、オレの注意力の偏りもあるのか、不覚にもほとんど印象に残っていない。しかしこうして目の前でUFC7位に勝たれると、実力や特徴が急にくっきりと見えてくる。おそらくこの人は、いろんなトリックを持っている曲者なのだ。

ここからさらに上位ランカーとの闘いが楽しみだが、他方でランキング的には無意味でも、ジョニー・ウォーカー戦などは名勝負になりそうに思う。


ローズ・ナマユナス def. ジェシカ・アンドラージ

3大タイトルマッチを押しのけて、今大会の我が心のメインイベントだったのがこの試合だ。なにしろローズの試合には、「すご~い、強~い!」と、オレの中にもまだかすかに残っているミーハー心をくすぐられ、一気にとりこになってしまうような魅力があるのだ。

ヤンジェイチェックを第1ラウンドでノックアウトしたシーン、それから負けはしたものの、前回のアンドラージ戦で見せた大幅に強化された芸術的な打撃には、素晴らしすぎて胸が詰まったものである。

という具合に、ちょっとこちらの期待感が大きすぎたのだろう。今回のアンドラージ戦では、両者の打撃にそれほどの差がなかったことにオレは少しがっかりしてしまった。むしろアンドラージのヘッドムーブメントが明らかに向上していて、予想以上に拮抗した展開になった。パワーだけならアンドラージのほうがありそうで、急に失神KOされるとしたらそれはローズの方なのではないかという不安感にさいなまされた。終わってみればこの試合がこの日のファイトオブザ・ナイト賞を獲得したから、客観的に見れば好試合だったのだろう。でも、試合後に流血して顔を腫らせていたのはローズの方で、ローズファンとしては、やれやれ、最低限どうにか勝ったが前途多難、という印象の一番だった。


ピョートル・ヤン def. ジョゼ・アルド(ブラジル)

もう止めてくれ!と悲鳴を上げたくなるほどに、アルドはパウンドでボコボコにされた。レフリーが止めそうになると、アルドがストップされないように動くから、試合がなかなか止まらない。試合はもう第5ラウンドに入っていて、仮にフィニッシュされることを免れたとしても、判定でアルドに勝ち目がないことは明らかだった。ダメージが深すぎて、ここから形勢逆転してKO勝ちすることもほぼ不可能に思われた。無用のダメージを蓄積させるくらいなら、レフリーに身を委ねてもよかったはずなのだ。アルドは何にあらがい、何と闘っているのだろう。

バンタム級に下げたアルドは、前回はまるでミイラのようにみえたものだが(それでもちゃんと動けていた)、今回はそんな不自然さもなく、むしろ身体は若いヤンよりもムキムキだった。スタミナも3ラウンド目くらいまでは、まったく互角に見えた。

おそらくは歳を取るにつれて、減量は困難になり、コンディション作りは難しくなっていくだろう。しかしアルドは、時の流れにさからうように、これまでよりもきつい減量をして、ますますコンディションを整えて試合に臨む。どれほどストイックなのかと思う。強さを証明する必要はもはやないはずだ。ベルトなんか、売るほど持っているのだ。

かつては強すぎて面白みのなかった鉄仮面人間が、いまでは人間味溢れる苦闘する姿をさらけ出している。いまのアルドは、人はなぜ闘うのかという根本的な疑問を見る者に突きつけてくる。


アレックス・ボルカノフスキー def. マックス・ホロウェイ

前回はどこかアグレッシブさを封じられていたかに見えたホロウェイだが、今回はボルカノフスキーの闘い方にちゃんと対応してきていて、試合前半を有利に進めた。しかしそのホロウェイに逆対応して、試合後半を制したのはボルカノフスキーの方だった。ちょっとオレにはわからない高度な応酬があったのだろうと思わせられる試合だ。

ところで、ホロウェイの身長は180cm、ボルカノフスキーは167cmだから、この試合はかなりの凸凹対戦なのである。ところがリーチは、ホロウェイ175cmに対して、ボルカノフスキーは180cmだというから驚きだ。ホロウェイにしてみれば、安全な遠い距離で闘っているつもりが、実はうんと近かったということになったりするのだろう。

判定を制したのは現王者ボルカノフスキーだったが、スコアリングのファン投票を集計しているVerdictは、ホロウェイ有利を示していた。オレもどちらかといえばホロウェイ有利かと感じた。3階級制覇を目指すヘンリー・セフードは、「この盗人ミジェットめ!」と、ボルカノフスキーを挑発しつつ判定への違和感を表明していた。

タイトル戦で2連敗となったホロウェイは、これで次の展開が作りにくくなった。これはダイレクトリマッチの弊害だ。ホロウェイはしばらくタイトルからは遠ざかるしかない。しばらくはのんびり身体を休めるのがいいのかもしれない。


カマル・ウスマン def. ホルヘ・マスヴィダル

ウスマンが強いのはよくわかったが、面白い試合だったかと言われるとそうでもない。UFC歴代最長大会のメインイベントがこれでは、こちらも寝落ちにあがらうので必死だった。なんだか楽しみを塩漬けにされた気分だ。まあ、文句を言うなら一発当てることができなかったマスビダルに言うべきではあるのだけれど。

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あと、今回に限らずUFCのイベント全般にいえることなんだけど、どこの国のどこの街で大会を開催しても、UFCの中継画面上は全く区別がつかないというのはちょっともったいないように思うのだ。今回など特に、ファイトアイランドという言葉がほぼバズワードになっていたんだから、なんとなくヤシの木くらい飾っておいてもバチは当たらないだろう。これではベラトールのイリマ・レイ・マクファーレン(ハワイ出身のチャンピオン。たぶんペイジ・ヴァンザントの挑戦を受けることになる)の入場シーンのほうがよほど”ひとりファイトアイランド”である。




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