ビッグ・ジョン・マッカーシー、桜庭戦での誤審を振り返る

スポーツニュースサイトThe Athleticに、ベテランレフリーのジョン・マッカーシーが「できることならレフリングをやり直したい5大試合」という記事を掲載している。 


マッカーシーは24年間のキャリアで1万試合以上のレフリングを担当、ユニファイドルールを作った中心人物でもあり、現在はレフリーの指導育成に当たる一方で、ベラトールの解説者を務めている。

この記事から、マッカーシーが1997年12月21日、UFCジャパンでの「桜庭和志 vs. マーカス・コナン」について振り返っている部分を紹介してみよう。

もともと、コナンの対戦相手には金原弘光が予定されていたが、金原の急な欠場により、当時MMA戦績0勝1敗だった桜庭の代打出場が決まったのだった(桜庭の1敗はキモに喫したものだったが、もっぱらワークだったのではないかとみられている)。

(当時のUFCオーナーのボブ)メイロウィッツがやってきて、「このサクラバという男を使うことにした。ケガをさせるなよ。できるだけ早く試合を終わらせろ。ケガでもされたら大変なことになる」というんだ。当時は大会開催に際していろいろな圧力を掛けられていたので、とにかくケガをさせないことが大事だったんだ(マッカーシー)。

コナンの左フックがサクラバを捉えたかに見えた。桜庭のヒザがマットに落ちたとき、マッカーシーは試合を止めた。ただ問題は、桜庭はダメージを受けたのではなく、シングルレッグ・テイクダウンを狙ったのだった。

あのストップは早かった。パンチが効いたのではなかった。しょぼいテイクダウンではあったが、あれはテイクダウンだった。私のミスだよ。

いったんはコナンの勝利を宣告したマッカーシーだったが、まだインスタントリプレイもない時代に、マッカーシーは放送席でリプレイ映像を確認、自ら誤審を認め、UFCに対して桜庭にもう一度チャンスを与えるべきだと進言したのだ。

プロモーターの役に立とうとか、ルール以外のことをしようとするとか、余計なことはしてはいけないね。戦うためにケージに入った以上、試合をさせないといけない。ケガをさせないようにしなくては、なんて考えていてはいけないんだ。大きな間違いだった。
選手には極力戦わせてやらないといけない。彼らはそれで稼いでいるんだからね。もちろん、不必要なダメージを負わせるわけにはいかない。インテリジェント・ディフェンスをしていない選手が打撃を受けていたら、試合は止めなければならない。でも、戦う姿勢がある限り、できるだけ戦わせてやらないとね。


筆者はこの試合で、試合結果に納得しない桜庭が、リングアナウンサーのブルース・バッファーのマイクをたたき落とすバッドアスなシーンが大好きである。UFCの歴史上でも、リングアナに手を掛けたのは桜庭だけだろう。バッファーは明らかにムッとしている。以前筆者が見たインタビュー動画で、デイナ・ホワイトもこの時のことについて、「サクラバはケージから全然降りようとしないんだよ!」と楽しそうに語っていた(当時はデイナもまだUFCのオーナーではなく、ファンとして見ていたはずだ)。そしてその日に行われた仕切り直しの一戦では、桜庭が第1ラウンド、アームバーでコナンを下し、あの名台詞、「プロレスラーは本当は強いんです」を吐いたのであった。




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