自分は空っぽな人間だった――ミーシャ・テイト再生への苦闘

2016年にアマンダ・ヌネス、ラケル・ペニントンに連敗して現役引退を表明したミーシャ・テイト(34)が、5年ぶりに現役に復帰、7月18日のUFC Fight Nightでマリオン・レノーと対戦する(復帰のテイトに対して、レノーにとってこれが現役のファイナルマッチだ)。テイトはこの5年間、シンガポールに移住してOne Championshipのバイスプレジデントとして活動する一方、新しい人生のパートナーを得て2人の子どもを授かった。2人目はまだ授乳中だというテイトが、若くしていったん引退した事情、今回復帰を決意した背景などについて、ESPNなど複数のメディアに明かしている。


彼と別れるまでに9年もかかってしまった(テイト)

「ラケル戦では本来の力をまったく出せず敗退し、その後うつ状態に陥った。私は、いったんすべてのことから距離をおいて、この暗い場所からどうすれば抜け出せるのかを考えなければならなかった」と、テイトは精神的に追い詰められていたことがあったと明かしている。

テイトを追い詰めていたのは、元彼(ブライアン・キャラウェイ)の存在だったという。

2016年以前の私の試合には、常に彼の存在があった。彼は私がどんなにくじけそうでも、どんなに泣いていても、容赦なくプレッシャーをかけて、格闘技に追い詰めてくる人だった。コーチとしては優秀だったのかもしれないけれど、やがてメリットよりもデメリットの方が上回るようになった
おまけに私生活でもずっと一緒で、要求がとても多い人だった。私がどれだけ稼いでも、そのお金を使ってしまうのは彼だった。私は自分のものなど買ったこともなかった。付き合っている間はそれでも良かった。でも彼の要求は消してやむことはなかった

アマンダ・ヌネスに敗れてベルトを失った直後に、テイトはキャラウェイとの恋人関係を解消するが、コーチとしては頼み続けていたため、連絡が完全に途絶えたわけではなく、時には関係を修復したいと迫られることもあったという。2018年にキャラウェイは、テイトの車を盗んだとして警察に逮捕されている。

別れるにあたって、家を2件もあげた。それでも足りなくて、彼は車を取りに来た。どれだけ差し出しても、何でも奪う人だった。そういう関係だった。私はもう、あの人にコントロールされたくなかった。私は自分でやっていける、一線をひこう。そう決めてからは、私も自分を曲げなかった。修羅場はあったけど、警察の世話になったのは私ではなく彼だけだった。

共依存のような不健全な関係を清算し、格闘技も引退すると、テイトは「自分にはもはや何も残っていない、自分は空っぽだ」と感じるようになったという。

私にはファイター・テイトの顔しかなかったから、本当に空虚だった。ここからどうすれば回復していけるのか、自分と対話をする必要があった。そこで私は行き先を決めない長い一人旅に出て、自分探しをしていた。
結局元彼と別れるまでに、9年もかかってしまった。何度も別れようとしては失敗を重ねた。その過程で、強くならなければならないことを本当に理解できた。今の私は、One Championshipの元バイスプレジデントであり、FOXの解説者であり、母親であり、そしてまた、ファイターに戻る。自分の進むべき道を自分で歩んでいる実感がある。暗い時代があったから今の自分があると思っている。

「Come Home」(デイナ・ホワイト)

現役復帰を思い立ったのは、シンガポールでロックダウン生活を強いられていた頃だったのだという。

昨年6月に息子を出産した頃に、現役復帰を考え始めた。シンガポールの外出禁止はとても厳しく、ジムやプールが全部閉まってしまうと、自分がどれほど試合をしたいのかがかえってはっきりした。アメリカに戻ったのが昨年9月。ラスベガスのエクストリーム・クートゥアで練習をしてみて、チームメイトからまだまだできるじゃん、と言われて、フィジカル的にもできるのではないかと確信できるようになった。

OneではなくUFCで現役に復帰することになったのは、テイトはOne在職中も、UFCとの選手契約が残っていたからなのだという。ホリー・ホルムに勝って女子バンタム級チャンピオンになった後にUFCとの契約を更新したため、チャンピオン条項に縛られており、復帰するならUFCで行うことが筋だった。

UFCにリリースしてもらってOneに出場する方法もあったのだけれど、Oneにとりあえずグラップリングマッチをやらせてほしいと希望を出したら却下されてしまった。それなら契約通りにUFCで復帰しようと思った
まず、昨年の7月頃にデイナ(・ホワイト)にDMを送った。既読はつくのだけど、デイナは当初、全然返事をくれなかった。あんまり返事がないから、会社に押しかけてやろうかしらと思い始めた頃、「Come Home」とだけ返事が来た。それで十分だった。
昨年9月にデイナと会った。「何しに来たんだ」というから、「試合がしたいに決まっているでしょう」と答えた。デイナは私が格闘技への情熱からではなく、お金に困って復帰しようとしているのではないかと疑っていたみたいだった。

現在の女子バンタム級戦線は選手層が薄く、知名度的にはテイトがナンバーワンの存在といっても過言ではない。

しっかりと2勝もすればアマンダとのリマッチがかなうのではないかと思う。そこが目標であることは確かだ。でもまずはレノー戦にしっかり備えないといけない。レノーは今4連敗中だし、みんな私が普通に勝つと思っているでしょうけれど、私はそんなふうには見ていない 連敗といっても僅差の試合ばかりだし、強敵に勝ってきた実績もある。とても怖い相手なので、心して望みたい
トレーニング面では、昔にようにやみくもに練習するのではなく、科学の力も借りて、なぜこういうトレーニングをしているのか、一つ一つを理解しながらできている。体調は怖いほどいい。メンタル面でも、最初のキャリアで苦しめられた障害がない状態で試合に集中できることを楽しみにしている。生まれ変わったミーシャ2.0の動向が自分でも楽しみでならない。


(出所)


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