ゲイジー対ファーガソン:ものすごい試合ではあったが、思ったものとは違っていた

【ジャスティン・ゲイジー def トニー・ファーガソン、UFC 249】この試合がどうしてこんな展開になったのかは、とても不思議である。これまでのわれわれの観戦経験を踏まえて予想した水準を遙かに超えて、今回のゲイジーは強かった。だって、ファーガソンを相手に、こんなに何もかもがうまくいくはずがないではないか。ファーガソンは、パンチが全くあたらない選手ではない。例えばランド・バナッタ戦でも、一発食らってぐらついたことはあった。しかし次のラウンドにはきっちりと対応して逆転勝ちを収めており、その対応能力はピカイチのはずなのだ。

1つの説明としては次が考えられる。ゲイジーのこれまでの打撃のヒット率(Significant Striking Accuracy)は55.6%だった。ところが今回の試合でのヒット率は72.6%であった。

さらに、ゲイジーはこれまで、1分間に8.57発の打撃を繰り出すボリュームストライカーであったが、その代償として1分間に9.67発の打撃を食らっていた。ところが今回の試合では、1分間に5.72発を繰り出しつつ、食らったのは5.44発に抑えている。

要するに話は単純で、ゲイジーの打撃戦は、ファーガソンの想定以上に飛躍的にレベルアップしていたということである。すでにトップコンテンダーの域に達している31歳の選手が、急にここまで進化したという点が、この試合の大きなサプライズだったのではないだろうか。

その背景には、名伯楽トレバー・ウィットマンの存在があるだろう。ウィットマンと言えば、ローズ・ナマユナスによるヨアンナ・ヤンジェイチェックの劇的ノックアウトを導いたコーチである。思えば、すでに実力者である選手がタイトル挑戦でいきなり見せつけたワンランク上の強さ、カタルシスあふれるアップセットという点で、今回のゲイジーとあのときのナマユナスには似た後味がある。

そしてもちろん、ゲイジーにあれほどしこたま殴りつけられても、まるでダメージを受け付けないかのように前進し続けるファーガソンも、全くの謎である。ゲイジーとしては、7、8人分の意識を刈り取るほどの分量のパンチを出したのではないか。パンチがきれいに入っても効かないとなると、この競技はいったい何なのか、見ているこちらの頭がゲシュタルト的崩壊を起こしていく。殴られながらも、橋本真也ばりの水面蹴りやイマナリロールを繰り出すファーガソン。正直、すごいというより、奇妙なものをみた、という印象が強い。


このアップセット劇をロシアで見たのであろう、現正王者のハビブ・ヌルマゴメドフは、何を思ってか何も思わないのか、こんなTweetを発信している。


クルーズ、時の流れに逆らえず

【ヘンリー・セフード def ドミニク・クルーズ、UFC 249】4年ぶりのクルーズ、お得意のジグザグ・フットワークは健在だったのだが、彼のヒザの負傷歴を思うと、空足を踏まないかと、見ているだけで怖い。髪型のせいなのか、あるいは4年も経てば当然なのか、すこし老けて見える(自分のことは棚に上げていうわけだが)。

そのクルーズの足に、悪意満点のローキックを容赦なくぶち込むセフードには、とにかく自信と余裕を感じた。ストップは少し早かったように思えたが、後からVTRを見直せば見直すほど、悪いストップではないように感じられた。4年前の復帰戦ではいきなりベルトを取って見せたクルーズが、また夢を見せてくれるかと期待していたが、現実は甘くはない。振り返ってみればセフードの完勝だった。

試合後には驚きの引退宣言をしたセフードであるが、後に担当コーチのEric Albarracin(宮川大輔風の人だ)は次のようにコメントしている(Brett Okamoto記者のTweetより)。

ヘンリーは今週、どこか気が抜けているような様子だった。なぜなのか分からない。試合後には、アルドやボルカノフスキー、マクレガーのことを挑発するのかと思っていた。私が思うに、もしデイナ・ホワイトが彼のファイトマネーにゼロを一つ足してくれれば、彼の復帰もさほど難しいことではないだろうが、いまは自分の進みたい道に進みたいのだろう・・・


老グラップラー同士の打撃戦

【アレクセイ・オレイニク def ファブリシオ・ヴェウドゥム、UFC 249】ともに42歳、老グラップラー同士の対戦は、期せずしてワイルドな殴り合いになった。2年ぶりの実戦復帰となったヴェウドゥムは、試合勘が戻っていないのか、それとも打撃戦を予期していなかったのか、当惑したような様子でオレイニクの打撃を浴び続けた。試合後半にかけて、ヴェウドゥムがグラウンド戦に引き込んで本領を発揮し始めた場面もあったが、お得意のエゼキエルチョークも封印したオレイニクは、グラウンドには付き合わず、一途にスタンドで戦い続けた。90年代、2000年代、2010年代、2020年代と、4つのディケードにわたって勝ち星を得ている唯一のMMAファイター、オレイニクの戦いは、ここにきてますます滋味を増している。


最後に、ブリタニー・パーマーがたった1人でラウンドガールを務めている姿は、なんだかけなげで胸がキュンとした。別にけなげでも何でもなく、そういう発注があったからこなしているだけなのだろうとは思うが、いつもよりちょっと緊張した面持ちが、こちらの琴線に触れるのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?