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社会学者はなぜ『ダメ』なのか?【ゆっくりコラム Vol.1】

ゆっくりしていってね!!!!

上野千鶴子氏が「社会運動家としてのパフォーマンスでは、不利なエビデンスは隠す」という旨の発言をしていた件について、私と青識亜論さんで少しだけ議論したわ。

私は「戦略論的には間違っていない。まあ分かる」とし、青識亜論さんは、マックス・ウェーバーを引用しながら「あってはならないことだ」とした形ね。

青識亜論さんのお話は連続ツイートだから、ちょっとこの先の見解を引用しておきましょう(ツイート埋め込みだと縦長になりすぎるから、内容をコピーさせて頂くわね)。

ウェーバーは社会学者の理想像についてこう述べます。「第一の任務は、その弟子たちが都合のわるい事実、たとえば自分の党派的意見にとって都合の悪い事実のようなものを承認することを教えることである。そして誰にでも、たとえば私にでも、党派的意見にとって都合の悪い事実というものがあるのだ」

「まことの教師ならば、教壇の上から聴講者に向かって何らかの立場を――あからさまにしろ暗示的にしろ――強いることはあってはならない。なぜなら、「事実をして語らしめる」というたてまえにとって、このような態度はもとよりもっとも不誠実なものだからである。」

そして、ウェーバーは「預言者や扇動者は教壇に立ってはならない」と喝破しつつ、批判のできない、単位認定権を教師に握られた学生相手に、社会運動の指導者きどりで自説を開陳する学者は、学者たるの資格なしとして、話を終えます。

ウェーバーのこの考えは、社会学者の基本的な態度として、今日、「教壇禁欲」などと呼ばれます。戦うための武器として学問をとらえ、不利な事実は隠すなどと言う上野先生の考えは、下等も下等、マックス・ウェーバー先生の学生からやり直すべきです。

ウェーバーがわざわざ、こんなことを言ったのは、当時もまた、社会科学の学者という立場をはき違えて、教壇の上で政治的劣情を抑えきれず、社会科学を政治の道具として扱った人々が数多くいたからでした。

医学者がエビデンスを隠し、自己の利益のために、効果の少ない薬剤や治療法を「科学」の名の下に太鼓判をおして勧めれば、それは邪悪も邪悪、許されざる学問への背任行為です。それは、社会科学であっても同じこと。

政治的発情を繰り返して、あげくの果てにオープンレターなどという政治的痴態をさらしてしまう現代の社会学者のみなさん、ウェーバーの爪の垢でも煎じて飲むところからはじめたほうがいいのでは? と思ったりします。

https://twitter.com/Frozen_Sealion/status/1541397703808036865

ここで紹介されているマックス・ウェーバーさんのお話は、学者としての倫理観、あるべき姿を説いた大変ご立派なもので、誰も異論はないでしょう。

けれど、あまりに異論がなさすぎて、逆にちょっと立ち止まりたくなったわ。

というのも、このお話はとても立派だけれど、どうしても精神論なのよね。それは学者の倫理的態度についての講演だから精神論になって当然ではあるし、それ自体は批判の対象ではないけれど。

しかし、現代の私たちが、社会学者のある種の「不正行為」を防ぎたいなら、精神論の布教に留まるのではなく、不正行為が生じる構造的要因の分析と、具体的な解決策(仕組みづくり)を模索しなければならないでしょう。

実際、法令違反ではないレベルの「不正行為」だと、社会学者は逮捕される心配まではなく――大学のポスト獲得が有利になり、著書の出版でたくさんお金儲けができて、テレビ出演も依頼されちゃったりして、みんなから「先生! ぜひお話を聞かせてください!」「先生みたいになるのが私の夢です!」とチヤホヤされるようになったりはするわけよね。完全に現実のお話として。

それを「不正行為はやめよう」という声掛けだけで止めるのは――

……さすがに人情として無理じゃないかしら? それは。

誰だって、そこまで栄光のロードが見えてたら、法令違反でない範囲で「まあバレても詰みまではしないだろうし、しばらく大人しくしてりゃあ世間も忘れるやろ」と不正行為はやっちゃいそうよ。

よしんばある個人が克己心のようなもので我慢できるとしても、「社会学者候補」の人は数多くいるのだから、誰かは必然的に手を出すわ。ただの確率問題だもの。

いったん「個人の倫理観」というミクロな視点から離れて、マクロな視点で考えてみるべきよ。

たとえば、社会学を専攻分野として選ぶ「社会学者候補の人たち」は、他の学問領域の同候補者の人たちと比べて、倫理的な欠陥を抱えているのか?

その答えはたぶん否でしょう。

専攻する学問領域は、だいたい高校生の頃に「〇〇大学のXX学科を受験しよう!」という形で決めるわよね。

社会学を選ぶ学生さんたちは、他の「物理学やりてえな」「俺は歴史に興味がある」「私は美術の専門学校に行きたい」という人たちに比べて、おそらくそこまで特別に倫理的に劣った人たちという訳ではない。

逆にいえば、物理学者が社会学者に比べて相対的に不正行為に手を染めにくいのは、彼らが高潔な倫理観を持っているからでもないでしょう。物理学を専攻に選んだところで、社会学専攻よりも高度な倫理教育を受ける機会が多いのではないわよね。

じゃあ、なんで社会学者が倫理的に劣って見える行為をやってしまうのかというと、既に述べたように、「お金儲けになる」という資本主義や「みんなからウケることが大事だ(みんなから賛成されることが大事だ)」という民主主義的な大衆文化と、社会学という学問領域が非常に近いからよ。

政治家やマスコミが、自分たちが理想として思い描く政策や意見を正当化するにあたって、「科学的根拠」とやらを用意したいと考える。彼らは両方ともまず大衆ウケしないといけないから、できればセンセーショナルではっきり分かりやすいものがいい。そういう事を言ってくれている社会学者はいないか? お金なら払いますよ!

この時に「はい! それは私です!」と手を挙げられる人が重用されるし、お金も貰える。

一方で、物理学者にそんな役割が求められることはまず無いわ。「この私が理想とする設計で、ロケットがちゃんと飛ばせると正当化したい」なんて言われて、無理やり「(問題点をスルーしながら)はい、飛びます!」と答えても、出来上がったロケットは飛ばない。その圧倒的な現実の前に人間が打てる手はない。

だから、物理学者には、基本的に「正しい物理学的見解は何かを教えてくれ」という話しかこないわ。「うちの党派的利益に合わせた意見を言ってくれ」という需要は、全くのゼロではないにしても、社会学と比べるとずっと少ないでしょう(オカルト団体から講演料が貰えるくらいかしら?)。またその需要に応えても大して儲からないし、反対にリスクはものすごく大きい。

つまるところ、「不正行為をした時に得られる利得・メリットが大きく、反対に損失を受けるリスクが小さいなら、人は不正行為をやるものだ」というのが原則が作用しているに過ぎないわ。

Twitterでは「社会学者の倫理観が欠如しているせいだ。倫理観を持つべきだ」という意見も複数頂いていて、それは確かに内容的には正しいけれど、これは実は「ダメな社会学者が跋扈するのは、日本国民の頭が悪いせいだ。もっと賢くなるべきだ」と言ってもいいのよね。なぜなら同様に正しいから。

だって、日本国民がみんな十分に賢ければ、ダメな社会学者をテレビに出演させたり本を出版させたりしても、みんな「そんな馬鹿馬鹿しい番組は観ないし、本も買わねーよ!」ってなるはずだから、市場原理で迅速に淘汰させられるはずでしょう?

でも、そうはなっていないという現実があるわ。問題解決を志向するなら、ここを分析していかないといけない。

具体的な対策としては、オープンサイエンスの手法(研究の事前登録制の活用等)を用いた社会学論文に基づく意見・見解にだけ「認証マーク」みたいなものを用意して、テレビや出版物にそれを使わせることとかかしらね。

事前登録制等は、いわゆる「再現性の危機」に対応する形で生まれた制度だけれど、「真っ当な研究方法でやっています」ときちんと評価する仕組みはどんどん活用できるといいと思うのよ。

ただ、日本で独自で認証システムを作る場合、運営団体のメンバーはどうしたって「いまの社会学者の権威」になるでしょうから、それは不具合が出るわ。

したがって、国際的な取り組みであるOpen Science FrameworkAs.predictedといった「自分たち(日本)ではないシステムの活用」を必須要件に含めるべきでしょう。

参考資料:『心理学における再現性危機の10年-危機は克服されたのか, 克服され得るのか-』(平石界, 中村大輝, 2021)

そして、もちろん「認証マークなし」で意見・見解を発表してもいいわ。発表してはいけないとすると「表現の自由」を侵害しちゃうからね。ただし、認証マークを得ていないのに認証マークがある振りをしてはいけない。要は「トクホ」とか「JISマーク認証」、「適正AV」みたいな仕組みよ!

「倫理教育を頑張ろう」よりはよっぽど効果的じゃないかしら? 個人的にはけっこういいと思うのだわ。

今回は以上!

――で、話は全く変わるけれど、新しく月額制マガジンを始めたのだわ。実はこの記事がその第1回よ。

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だから、第4回まではマガジン登録しなくていいのだけど、「もうさっそく支援してもいい!」という超・優しい人はマガジン登録して下さると嬉しいのだわ!

まあ、今のところ無料で全文が読める以上、私が嬉しいという、本当にただそれだけの現象しか起きないけど……。

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