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動く歩道を降りてみた

同じ1年なのに29歳と30歳では大きく違う気がしてしまうのはなんでだろう。30歳という節目を目前に、頭の中で糸が絡まりあっている。

今の生活に特に不満はない。

でも周りの友達たちは次々と結婚して、子供ができ、「家庭」を作るステージに入っている。

自分にはまだ何もない。

不満でもないけど、満足でもない。なんとなくこのままの生活でいいのかなと思っているだけ。
自分の意思とは関係なく進み続ける「動く歩道」の上に立っているかのようだ。
「動く歩道」の外を歩く人たちは、方向転換したり、歩くペースを緩めたり、とても自由に見える。
私も「動く歩道」の外を歩いてみたくて、田舎移住の広告を無意識にクリックしてしまう。でもやっぱり降りれない。

現状維持したい気持ちと、何もかも捨てて自分の「好き」にむかって突っ走りたい気持ちが混じりあう。

いろんな気持ちが混ざって、言葉にできない焦りを感じていた。
「感じていた」と過去形なのは、それが去年の私だから。

今の私に焦りはない。「動く歩道」を降りてみたから。穏やかな心で、でもまっすぐと自分の「好き」にむかって歩いている。

悲劇は突然に

私は変わってしまった。
流れるように進むと思っていた私の人生は、上司の一言で形成一変した。

「明日から出勤しなくていいから、次の就職先を探してください」

あまりにも突然のことで理解できなかった。

旅行業界にいた私は、コロナの影響をうけてリストラされてしまったのだ。それまでグローバル企業の一員として、誇りをもち、忙しいながらも楽しく働いていた。それなりに満足な仕事があり、一緒にいて楽な彼がいる。なんとなくこのまま仕事を続けて、付き合っている彼と結婚して子供を作る。周りのみんなと同じようなライフステージに入っていくのだろうと思っていた。
生活の大きな割合を占めていた「仕事」がなくなり、「歩く歩道」が緊急停止状態。
なんとなく待っていると思った将来が一転するなんて…
「海外ドラマみたい。」と他人事のように言えたのは、あまりにも現実味がなかったから。
とにかく次の仕事を探さないといけない。
自分の経験を活かすなら旅行業界だが、コロナの収束が見えないなか、旅行業界の求人はゼロ。
「これが現実なのか…」と気づいたときには、リストラ宣告から3か月経っていた。

仕事と引き換えに、与えられた時間を使ってよく考えてみる。
「本当は何がやりたいのだろう…」 
「どんな人生を送っていたいのだろう…」

具体的にやりたい仕事は思いつかない。でも「誰かに喜んでもらえることをして生きていたい」と思った。
スマホの中にある膨大な情報を、ボーっと眺めながらスクロールしていく。「国際協力に興味をもった仲間が集まるオンラインサロン」という文字に、スクロールしていた指が止まった。

オンラインサロンとはインターネット上を交流の場とした、月額会員制のクローズドなコミュニティ


昔から漠然と「社会貢献」というワードに興味を持ちつつも、何もしてこれなかった自分を思い出していた。

「国際協力なんて自分には敷居が高い」
「そもそもオンラインサロンなんて怪しい」
「騙されて多額のお金を請求されたらどうしよう」

オンラインサロンを避ける理由はいっぱいあった。
でも「オンラインサロン入会」より大きな不安がある。「やりたいことがわからない自分」への不安だ。
全ての不安を追い出したくて、半ば無理やり自分を説得して、オンラインサロンに入会してしまった。

※私が参加したオンラインサロン


オンラインサロンという新たな居場所

オンラインサロンとは、その名のとおりオンライン上で交流する場で、入会するまでどんな人がいるのか、まったくわからない。
初めてZoom交流会に参加してみて、多様なバックグラウンドの人がいることがわかった。

私が参加するオンラインサロンではFacebookを活用している。コメントでの文字を通した非対面型交流と、Zoomを使った対面型交流がある。

NPOやNGO団体で国際協力活動に携わる人、国際協力とはまったく関係のない会社のサラリーマン、子育て中の専業主婦、国内外の社会課題を勉強中の学生。
地球の裏側から参加しているメンバーだっている。
トランスジェンダー当事者、精神疾患を抱えたメンバー、それぞれ興味のある話題も多様だ。
リストラされたばかりで、自己肯定感爆下がり中の私をも寛容に受け止めてくれるサロンメンバーたち。予想に反してみんな温かだった。

真っ青で、真っ赤なねえちゃん

「何も資格なんてない。自分の情熱だけでNPO法人を立ち上げたんやで」と満面の笑みで語る女性はTさんという。

おばちゃんというほど老けていない。おねえさんというほど青臭くない。
いうならば、関西のねえちゃん。
Tさんは若者支援をするNPO法人の代表。
まぶしいほど真っ青なポロシャツを着たTさんが画面上に現れる。そのポロシャツの胸ポケットには、自分が代表を務めるNPO法人の名前が刻まれている。
ちゃきちゃきの関西弁で、しんどい話もユーモアを交えて軽快に語るTさんは、サロンの中でもみんなの注目を浴びる存在だ。

NPO法人ってなに?NPO法人立ち上げるってどういうこと?

よくわからないけど「良い大学」を卒業した「どこかの頭のいい人」だけができることだと思った。
そんな私にむかって、Tさんは「大学行くお金も頭もなかったから高卒やし〜。失敗ばっかりや~」と語る。
そのハートは「若者を助けたい」という情熱で真っ赤に燃えている。
自分の弱さを曝け出せる姿に惹きつけられ、学歴がなくても夢を叶えている姿に私は勇気をもらっていた。
「経験も知識もないんですけど、私にもなにかできますかね?」と自信のない新卒社員のような質問を投げてみた。
間髪入れずに答えが返ってくる。
「経験も知識もこれからつけていったらいいやん!そのためのオンラインサロンやろ?」

うっ…そのとおりすぎる…

実際に会ったこともないTさんに何度も相談した。

「自分にはなにもない」

そう思っていた自分がオンラインサロンに入って、Tさんに出会って、変化していることに気づいた。

「自分にはなにができるだろう」
 あれ?
「自分にはなにもない」と決めつけてた自分が自然と問いかけるスタイルに変わってる。

自分への問いかけをやめない。
問いかけていくうちに、どんどん解像度が高まっていくのが楽しいから。

解像度が高まった先にあったもの

私には悪さをしてきた黒歴史がある。
その黒歴史の背景には、親の離婚による寂しさだったり、怒りがあることを知っている人は少ない。悪さをするとこっぴどく怒られたけど、私の寂しさや怒りを聴いてくれる人はいなかった。
私は届きにくい声を聴きとれる人になりたい。特に声をあげにくい子どもたちの声を聴いてあげたいんだ!

「私にもなにか出来ますかね…」と弱々しく質問していた私が、気づけば一歩踏み出していた。

声をあげにくい子どもの声を聴いてあげたくて、里親として活動を始めたのだ。

里親制度とは:様々な理由で親と暮らせない子どもたちを、家庭での「あたり前」の暮らしの中で健全に育成するための制度


開けっ放しの扉がある場所

「里親」という新しい道を見つけたことが嬉しくて姉に報告した。

「すごいことだけど、他人の心配より早く仕事見つけなよ!」
バリキャリ思考の姉が呆れたようにボソっと漏らした。
少し前の私だったら「だよねー」って相槌をうっていたんだろうな。
今は違う。自分の直感が「この道でいきたい!」って言ってるんだもん。周りのみんなが乗ってる「動く歩道」には乗れないけど、自分のペースで自分らしく生きたい。

そんな自分を応援してくれる人たちが集まる場所。それがオンラインサロン。
オンラインサロンの入り口はいつだってオープンだ。いろいろなセカイの住人にはいろいろな事情がある。何かしらの理由で一度退会しても、また戻ってくる。戻ってきたとき、サロンにいるのは「おかえり」と言って出迎えてくれるサロンメンバー達。

考えてみれば、以前の私は、家と職場だけのせまいセカイで生きていた。
自分が所属しているコミュニティは家族と職場だけ。
セカイにはいろいろな生き方があって、いろんな考え方がある。でも私の知っている、いろいろな生き方、考え方は家族と職場の人だけのもの。
79億を超える地球の人口からしたら、私の知っているセカイは米粒サイズにも満たないのかもしれない。

「多様な依存先をもつことって素敵」

オンラインサロンという新たな居場所を見つけてそう思った。

せまいセカイに生きていた自分にアドバイスを残しておこう。
多様な依存先が楽に生きる秘訣だ。

広がる視野

新しいセカイを知り、視野が広がった。将来は結婚、子育てしかないと思っていたライフ設計の幅が大きく広がった。
本当はもっともっといろいろな選択肢がある。
目の前に3枚のカードがしか見えていなかったら、3つしか選択肢はないと勘違いしてしまう。
でも違う!私たちは米粒サイズのセカイにある、3枚のカードしか見えていないだけ。
本当は、数えきれないカードが数センチ先に落ちているんだ。
多様な依存先があれば、人をとおして、もっといろんな選択肢があることを知ることができる。

増える扉の数

「リストラされてどうしていいかわからないよ」なんて職場の人には相談できなかった。
会社に残っている人たちだって複雑な気持ちなはずだから。家族にも心配をかけてしまう気がして、すぐには相談できなかった。
それなのにオンラインサロンの人たちには驚くほど気楽に相談できた。実際に会ったこともない人たち、でもどんな自分も受け入れてくれる人たち。遠くて近い距離感が私に安心を与えてくれた。

家族に開く心の扉、友達に開く心の扉、恋人に開く心の扉。きっと皆自分の居場所ごとに開く扉を変えているんだと思う。閉ざし続ける扉がないように、多様な依存先を持っていたい。

広がるチャンス

「社会貢献に興味がある」
あまりにも崇高な発言のようで、未だに言葉にするには気が引けてしまう。でも同じようなことを考えている仲間の中でなら、もじもじせずにハッキリと言える。
新しい仲間に自分のやりたいことを話してみたら、たくさんのチャンスが舞い込んでくるようになった。
専門学校卒業が最後の学歴。どこにでもいるOLだった私。そんな私がNPO団体の代表と一緒にこども食堂を開いたり、里子を受け入れてるなんて本の中のセカイみたい。
これまでまったく接点のない人や仕事に出会えたのも、多様な依存先があるおかげだ。

セカイの広さを知りたくて


仮に一つのコミュニティで人間関係を構築できなかったとしても、他にも依存先があれば「別にいいや」と肩の力を抜いて生きていくことができるだろう。
無理なく生きる、つまりは「自分らしくいる」ことにも繋がる。
その多様な依存先には「自分らしくいられる場所」が隠れているかもしれない。
ため池に住む魚は海を知らない。海にはもっと多様な生物がいることを知らない。
まるでそんな、ため池に住む魚のように、私たちはまだ自分たちが住むセカイの全容を知らない。
セカイは広い!
「動く歩道」の外にはまだ広いセカイが広がっている。
もっと先のセカイが見たくて今日も依存先を増やしていく。


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