見出し画像

会社で放たれた珠玉の言葉

私は正社員の経験は8カ月しかない。
結婚して仕事を辞め、旦那の勤務地へ引っ越して
1年半ばかり専業主婦をやった。
それからは役場の臨時や事務パート、契約社員とかの
非正規ばっかりだったので、
職場のヒエラルキーどん底から上司や正職員を
見上げることが多かった。
「こんな低賃金でやる単純作業できて当たりまえ」
ミスれば「そんな事もできないの?」
みたいな感じの人が多かった。
短大や大学を出た自分より若い正社員たちの、
短絡思考と先輩社員に怒られたうっぷん晴らしが入り混じった
嘲笑と侮蔑を浴びながら働く。
非正規の女には長幼の序は適用されなかった。
今みたいな人手不足の時代じゃなく
「お前の代わりなどいくらでもいる」
っていう時代だったからなのかなあ、
怯えてサービス残業しながら働いた。
一番働きやすかったのは1年にも満たない期間だったけど、
偶然タナボタで転がり込んできた
ずっとその業界トップを走ってる会社
派遣スタッフだった。
正職員のメンタリティが違うと思った。
注意されて厳しい事言われても受け止める。
他所の女性職員みたいに泣いたり拗ねたり
その人から頼まれた仕事だけ後回ししたりは
しなかった。
その代わり自分の意見も臆せずはっきり言う。
非正規を、
私達の業務の下支えをしてくれる人たち
と位置づけ、丁重に扱ってくれた。
こういう会社は稀なんだと思う。
こんなピンキリ感満載の転職生活の中で、それでも、
業界トップじゃなくても
それって仕事の真理だね
とでも言いたくなるような、こちらを唸らせる
言葉を吐く人はいた。
大抵は管理職の言葉。
私達サラリーマンは、『●●さんにしかできない』という仕事を
作ってはいけません

もう30年以上前、女性管理職なんて皆無、
女子社員が会社に入って一番最初にする仕事は、
給湯室に置かれている茶碗がそれぞれ誰のものか覚える事
と言われていた時代に、「常務取締役」を張っていた女性が
言った言葉
だ。(当時は湯呑み茶碗を自宅から持ってきて
給湯室に置いていた。今もあるのかな?)
入社式の会場で彼女は肩幅くらいに脚を開き、腰に手を当て、
ステージ上に仁王立ちして着席する新入社員達を睥睨していた。
短めのワンレンボブ、膝上スカートの仕立てのいいスーツ、ハイヒール。
顔つきは険しかった。
あの時はコワくて感じの悪い女だなあとしか思わなかったけれど、
今考えるとあのすっくと立った姿は、
男社会で地位を築いてきた女性の張りつめたというか、
闘っていた姿だったんだと思う。
40前後に見えたけれど。
自己紹介のあと彼女は冒頭の言葉を言った。
彼女は続ける。
「みなさんは死ぬまでこの会社に居ようと思っていないでしょう?
店を開きたいとか、お金をためて世界を旅行したいとか、
夢がある人もたくさんいると思います。
そんな夢を実現する時や、
病気で長く会社を休まなくてはならない時、
何かの理由で会社を辞めなくてはならない時、
皆さんしか出来ない仕事を残されては、後の人たちが困ります。
誰もやり方が分からず仕事が滞ってしまうのです。
仕事をしていくうえで、仕事の流れを滞らせない事はとても大切です
サラリーマンである以上は、この事を常に心がけておいてください」
私はそれまで、これをやらせたら右に出る者はいないとか、
これは●●にしかできないという域に達することが
仕事をやりこなすことだと思っていた。
でも違うんだ。
これら「属人的な業務」は仕事がスムーズに流れない原因になる。
仕事って、相手がある。
それは一緒に仕事していく仲間だったり、
こっちが作ったモノを受け取る他社だったりする。
アウトプットを満足のいくモノに作り上げることだけでなく
誰も困らないように受け渡すことが大事なんだ
と彼女の話を聞いてやっとわかった。
サラリーマンって職人でも芸術家でもない。
その組織に属しているある時期、
その組織の業務を担当している人だ。
だからつつがなく滞りなく業務を遂行し、問題が出来したり、
時代の流れや技術革新でよりよく遂行できる方法を見つけたら
今までのやり方を修正・改善し、時期が来れば次の人に受け継いでいく。
私にサラリーマンの大切な心構えを教えてくれたのは
入社式の彼女の挨拶だった。
自分が出来ることは他の人でもできる、
自分は誰でも出来る仕事をやっている
これが究極の姿なのかも知れない。
そんな状態、とても不安だ。
だって
誰でもできる事しかできないあなたなんか要らない
と言われたらどうしよう
って思うから。
でも勇気を出してそれをやらなくちゃ、と思うのだけど、
できているかな。

私が非正規やってる今の職場には、
定年退職した人を「再任用」する制度がある。
今年、その制度を利用した人1人が私の所属する部署に
配属された。
或るイベント前の一週間、彼は最後に居た部署に戻り、
イベント業務を分担するという。
「あの仕事、俺しかできないからって駆り出されちゃってさ」
ご執心の美人さんに困ったように自慢する。
自分が退職するというのに引継ぎ一つ満足にやってこず
後任を育てる事もしてこなかったのか

彼はこの部署が一週間、いつもより1人少ない人員で、
彼の分担する業務も引き受けて
仕事して行かなくてはならないと
分かっているんだろうか。
こう言う人は、もう心から軽蔑しちゃって、いいよね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?