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うたうたい渡辺美里アルバムヒストリー~9th. Baby Faith

【チャプター3~しおれた心の花びらシーズン】
9th 1994年9月7日 Baby faith

渡辺美里のアルバム史上で最も攻めた作品。前作「BIG WAVE」に引き続き、そして最後の小林武史プロデュース。夏!美里!としてアルバムは毎年7月にリリースしていましたが、9月にずれ込んだことからも難産アルバムだった(と推測)。
表現がとても難しいのですが、今までのイメージとガラリと変わった印象を受けます。
悲しさ、切なさ、やりきれなさを感じる作品。全編を通してぐずついた空模様。どうしてそう感じるのか、音楽の専門的なことはわかりませんが、小雨が降っているような印象です。1991年にバブルが崩壊した日本経済は真っ暗闇の中。そんな世相を反映させたかのような歌詞はやや後ろ向きです。
当時高校3年生だった僕は、「あれ?なんかいつもと違う」と思いました。正直申し上げて「あんまり好きじゃないかも」と思いました。
前作「BIG WAVE」と本作は渡辺美里アルバムヒストリーの中でも際立った異端的作品。両方ともサウンドプロデューサー小林武史によるもの。試行錯誤の中、様々な葛藤を感じざるを得ない、貴重なアルバムです。(あくまで推測です)
2022年現在、今でも聴きます。そして切ない気持ちになってしまう。過剰な表現かもしれませんが、きっと世界を覆う悲しさや切なさを歌い上げた、ある意味「世界平和」を祈る作品なのではと思います。

1. 「あなたの全部」
作詞/渡辺美里 作曲/小林武史 編曲/小林武史
「あなたの全部愛し続けた」という失恋ソングです。「あなた」も「愛す」もこの頃の渡辺美里にとっては異色ワード。シャープネスをかけた(かけすぎた?)歌声はかなりエッジが効いてます。今までの渡辺美里に強固な柱として感じられた「前向きさ」よりも「悲しさ」が全面に出た印象です。

2. 「20th Century Children」
作詞/渡辺美里 作曲/渡辺美里・小林武史 編曲/小林武史
20世紀末が着々と近づきつつある94年。バブル崩壊で経済は滑落。そんな時代の嘆きの歌。テーマとしては「虹をみたかい」の姉妹ソングですが、世相を反映してか、こちらもちょっとだけ後ろ向きです。

3. 「真夏のサンタクロース」
作詞/渡辺美里 作曲/渡辺美里・佐橋佳幸 編曲/小林武史
アルバムからの先行シングルとしてリリースされました。その段階で当時高校生だった僕は「何か違う。。。」と思った記憶があります。渡辺美里!夏!なのに、切ない!カップリングの「ムーンライトピクニック」がA面なのでは?間違えたのでは?と本気で思ってました。

4. 「SHOUT[ココロの花びら]」
作詞/渡辺美里 作曲/みやもとこうじ 編曲/小林武史
一転して超絶にかっこいい骨太ロックです。ライブで盛り上がること間違いなし。本アルバムで3曲を作曲した、みやもとこうじ。以後名前が出ないところから推測するに小林武史グループだったのでしょうか。「HELLO LOVERS 2」がリリースされるなら激推ししたい一曲です。ライブでもシャウトしていてとことんカッコいい渡辺美里です。

5. 「初恋」
作詞/渡辺美里 作曲/みやもとこうじ 編曲/小林武史
60年代ブリティッシュロック、つまりビートルズのような楽曲。みやもとこうじ、やります。それでいて全編美しい日本語が並ぶ歌詞。こちらも失恋ソングです。

6. 「CHANGE」
作詞/渡辺美里 作曲/小林武史 編曲/小林武史
渡辺美里本人の強い要望、前作「BIG WAVE」に収録された「ブランニューヘブン」の続編を作りたいというリクエストがあり、実現した本曲。「行く先は未知」なのであります。マリアもノアも万物は流転する。それでいて「CHANGE」というタイトル。意味深です。

7. 「BABY」
作詞/渡辺美里 作曲/渡辺美里・佐橋佳幸 編曲/小林武史
アルバム「Lucky」の「はだかの気持ち」続編(独自)。リズミカルなギターから始まるアルバムタイトルナンバーの位置づけ。スティーブ・ジョブスは「直観を信じろ」と言いましたが、それを表現したような普遍的な歌詞は
2022年でも色あせることなく僕らの心に刺さるのです。

8. 「チェリーが3つ並ばない」
作詞/渡辺美里 作曲/石井恭史 編曲/小林武史・石井恭史
理由はよくわからないけれど当時はあまり好きではありませんでした。ただ、聴けば聴くほど、その完成度の高さにやみつきになります。
特にコーラス部分「ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、しゅわー」の箇所、完璧すぎて震えます。ちなみにPVは「NEWS」に続いて史上最高にキュートな渡辺美里です。

9. 「こんな風の日には」
作詞/渡辺美里 作曲/みやもとこうじ 編曲/Richard Dodd・佐橋佳幸
名曲です。まるで本アルバムのここまでの歌に対するアンサーソング。
「目を閉じないで こんな風の日には」です。「HELLO LOVERS」から加わったリチャード・ドッドの編曲で推進力のある楽曲に。歌詞には出てこないけど、とてもとても秋を感じます。

10. 「ムーンライト ピクニック」
作詞/渡辺美里 作曲/渡辺美里・佐橋佳幸 編曲/佐橋佳幸
ジャカジャカの佐橋佳幸のアコギで始まる、「絶対この曲好き」と思ってしまうオープニング。「真夏のサンタクロース」のカップリングでしたが、こちらがA面なのでは?というくらい、夏!美里!です。ムーンライトピクニックってとても素敵な言葉。先日カルチャー雑誌BRUTUSで特集「夜」が組まれてましたが、それを見たとき真っ先に「ムーンライトピクニックじゃん」と思いました。

11. 「I Wish」
作詞/渡辺美里 作曲/小室哲哉 編曲/小室哲哉
歌いあげるにあたり相当な難曲。渡辺美里だからこそ歌いきれた、他の人だったら完成しない、そんな印象です。そしてとてもとても悲しい。ただただ悲しい。これをアルバム最後に持ってくるあたり、聴き終わった後の切ない思いが醸成される。本作をもって小室哲哉からの楽曲提供は最後となりました。小室哲哉はその後TKファミリーを拡大し時代の寵児となります。

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