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【読書ノート】頬に哀しみを刻め by S・A・コスビー

2024年版「このミステリーがすごい!」の海外編第1位に輝いた本作。やっと読むことが出来ました。

思わず登場人物に感情移入してしまう良作でした。

主人公は、黒人のアイク(アイザック)と白人のバディ・リー。共に50歳くらい。2人の息子が銃で撃たれて殺されてしまったところから物語が始まります。アイクの息子アイザイアと、バディ・リーの息子デレクは同性愛者の夫婦。まだまだゲイに対する偏見が色濃く残る米国南東部バージニア州で、アイクとバディ・リーは息子達の葬儀で初めて会います。

バディ・リーは典型的な貧困層の低所得の白人で、一人トレーラー暮らし。仕事もせず酒浸りの毎日で刑務所に5年ほどつとめていた前科者。対するアイクも別の刑務所に何年も入っていた前科者ですが、出所後は家族のために死ぬ気で心を入れ替えて地道に働き、今は自身の造園会社を設立して従業員もかかえて真っ当に暮らす苦労人。

飲んだくれのバディ・リーのほうが圧倒的にダメ人間で、正しく生きていこうとするアイクは最初はバディ・リーの「一緒に犯人を探そう」という誘いを断りますが、なんだかんだあって2人で行動を共にすることになります。

この物語の醍醐味は、アイクとバディ・リーのsalt and pepperコンビ(敵対するギャングに、揶揄でsalt
and pepper=「白黒コンビ」と呼ばれる場面アリ)が段々心を通わせていく過程にあります。性格も全く違い人種も異なる相反したアイクとバディ・リーの人生は本来なら全く交差しそうにはない。その2人が最初一緒に行動はするけれども仲良くはない間柄で、そこから徐々に「仲間」になって最後には「親友」と呼んでもおかしくないほど相手の事を信頼するまでになるのですが、その2人のやりとりが読んでいて一番楽しかったです。

クライマックスのあたりで、「俺たち、息子達の結婚式で会えてたら良かったな」と2人が言い合う場面があり、そこはまさに胸アツでした。

地域的に黒人と白人が仲良くする土地柄ではないため、アイクとバディ・リーが万が一息子達の結婚式に参加して2人が会っていたとしても、多分というか絶対友達にはなっていないのがお互いわかってる。でも今これほど仲良くなれたのだから、もしかしたら仲良くなれるチャンスがあったのでは?そう願いたいぜ、と思う2人の気持ちが行間から滲み出てくるのですよー!!うー泣ける。

ゲイの息子の結婚式に出席しなかったこと、そしてゲイの息子を受け入れることが出来なかった事を心の底から悔いていて、「生きていさえしてくれれば、結婚相手が同性か異性かなんてどうでもいい」と今は思っているアイクとバディ・リー。

これは著者が世に問いたいことのひとつなのかなと思いました。

本のタイトルもいいですね。原題は「Razorblade Tears」(カミソリの刃のような涙)で、和訳のタイトルが「頬に哀しみを刻め」。アイクとバディ・リーが息子を思い涙を流すときは、自分の後悔(ゲイの息子を認められず、拒絶したこと)もあわせ、その涙がカミソリの刃のように自分を傷つける様を現しています。

復讐の過程で本作は残虐性が高いバイオレンスシーンが多めです。悪いやつを拷問して殺し機械でミンチにして堆肥に混ぜて捨てる、、、とか結構読んでいて辛い箇所が多々ありました。
年々、暴力や虐待など凄惨なシーンを含む作品が苦手になってきているので、そこはちょっと正直きつかったです(汗💦)
そういうのが無理な人は、やめておいたほうが無難かな?

でも、アイクとバディ・リーの交流と2人の成長の過程には一見の価値アリです。



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