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chapter19 ある晩の事。


サルの家に遊びに行った夜の事。

サルの部屋には天神バンドのメンバーが勢揃いしていた。

サルの部屋はアパートの1部屋だったんだけど、サル家は2部屋並んで借りていたんで、1部屋は両親が住んで、もう1部屋にサルとサル姉さんが住んでたんだけど。

後にサル部屋は僕等の溜まり場になる事になったんだけど、夜中になるとステテコ姿のサル親父が激怒しながら度々怒鳴り込みに来たんだ。


『お前らタバコばっか吸ってっと、終いにゃパッ倒すかんなんなぁやっ!』

一体何処の方言なのか未だに解らないんだけど、このサル親父のセリフがしばらくの間仲間内で大流行した(笑)


サル親父はこんな感じ。本当にそっくり(笑)


で、何故に天神バンドメンバー達がいる?

(…一体何したんだろう…)

そんな事を考えて時にハッタリと目が合った。

ハッタリは皆を見渡すと、

『じゃ、やってみる?ん?』

と、ニヤリ。気持ち悪いわ。何やんのさ?

そう言えばギターにベース、キーボードもあるね。アンプには繋いで無いけど。
ドラムは無いね。うん。

するとサルはドラムセットに見立てた座布団やらティッシュの箱とか鍋の蓋とか雑誌とかを、あぐらを組んだ自分の周りに並べ出した…。

って言うか、この四畳半の部屋に6人も野郎が集まって楽器持ってキツキツですから。

本気でやるんですか?

初めて見る極めて異質な天神バンドの練習と呼ぶ風景に、言葉を失いながらも笑ってはいけないと言う気持ちを太ももをつねりながら堪えるのに超必死な俺。

そんな時、突然それは始まった。


『1、2、3、4!』


おいおいおい!マジか?


パコパコパコパコパコパコパコ!

ペケペケペケペケペケペケ!

ビベビベ

シャリシャリシャリシャリ

ポコポコポコポコポコポコ

ベンベンベンベンベンベン!


そして超絶好調にリズムを取るハッタリが!


何てぎこちない動きなんだ!

変だよ、変!

変変変変変変!

その動き変!絶対変だから!

目を瞑りながら物凄いノリでリズムを取るハッタリは、きっと脳内で可愛いあの娘を前にライブが始まったんだろうけど、他人から見れば

ひきつけを起こしたか電気ショックを受けた人にしか見えないし!


『そうさぁ〜〜♪い〜〜まぁ〜♪』


ちょ!お前マジで歌うんか?今。

時間考えろ!マジで!しかも人の家!

しかも!


お前、歌下手すぎる!

ご近所迷惑極まりないよ!

サル親父飛んで来るから!絶対!

そんな事を知る由もなく、シャリシャリとペケポコベンをバックに大声で歌うハッタリ。


気持ち良いんだろうなぁ…


でも、ごめん。無理(笑)


天神バンド最低だ!

こんなのあり得ねぇよ(笑)


みんなこれで良い訳?

ハッタリに弱みでも握られてるの?

ボランティア活動?

パラダイスは来ないよ?みんなには。

本当に良いの?


しかもさ、ご丁寧に俺達のバンドと同じ曲やるなよ、お前等。

どんだけ真似好きなんだよ。

マジで(笑)


物凄いノリで曲が終わった…。


ハッタリが超満足そうな顔で俺を見る。


『ど う よ ♪』


えーっと。

んーんと。

宜しいんじゃないですかね…。

他に俺に何を言えと…。


別に俺達が特別に上手いとか言わないよ。
普通に考えて、普通の意見だよ。

酷い。

酷すぎる(笑)


ペケペケやポコポコベンはまだ良い。

仕方ないさ。まだ初心者だし。


違うんだよ。

ハッタリの歌が酷すぎるんだよ…。

ジャイアンだよ。

本当、パラダイス無理だよ…。

ある意味迷惑レベルだよ…。


適当にお茶を濁して早々に撤収した。


今後彼らとはバンド関係では絶対に関わらない様にしようと強く強く心に誓いながら帰路に着く俺。


でもその晩はなかなか寝付けずに、朝までハッタリの歌が脳内をリフレインしていたのは覚えてる…。











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