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chapter10 星になったあいつ


数人の仲間とモッコリの愛車が姿を消した後、
残った何人かでくだらない話をしながら時間を潰していた。

モッコリは片思いしてる娘の側を微妙にキープしながら、新しいバイクの自慢話を片思いの娘に引きつった笑顔で語ってる。

気がつくと30分以上の時間が過ぎてた。

まだ帰って来ない。

仲間が何人か居なくなり、
そのうちに女の子達も居なくなり、

俺とモッコリとバンドメンバーだけが残った。

帰って来ないね。
もう1時間くらいになるんじゃない?
そりゃ心配だよね。モッコリ。
まだ納車されたばかりだし。
明日の準備もあるけど、まずは乗りたいよね。

モッコリは引きつってた。
痛々しいくらいに引きつってた。
高校生になってから俺より背が高くなった彼を横目で見上げると、細い離れ気味の目が気のせいか潤んでいる様な気がした。

何かあったんじゃないか?とは思ったけど、
それをモッコリにはとても言える様な雰囲気じゃなくて。

それは他の奴等も同じみたい。
いつもより口数少ないままで、タバコの煙を目で追っていた。


その時、向こう側の角から出かけた仲間の1人が戻って来た。
その後ろから1台、また1台と仲間が戻って来るのが見えた。

モッコリの顔が満面の笑顔に。


が、ちょっと違和感。


モッコリ号の姿が無い。


って言うか、何故にモッコリ号を借りてったキーボードが他の奴のケツに乗ってる?

予想外って言うか、想定外って言うか、
ある意味予感が当たったと言うか…。

皆がエンジンを止めて降りて来た。

キーボードが何とも言えない顔でモッコリに話しかけた。


『悪い…。事故っちゃってさ…。』


まだ事態が飲み込めないモッコリが引きつって聞き返す。


『え?マジ?マジで?』

「うん。悪い。ゴメン。弁償するから」

『で、バイクは?』

「完全にダメで走れなくなっちゃって」

「前輪が横向いちゃって」

「仕方ないから置いて来たよ」

「バイクは弁償するよ。でもバイト代で払わせてくれないかなぁ?お願い。家族にはとてもじゃないけど言えないわ…。ゴメン。」

勢いに任せて話をするキーボードの前で、
モッコリは放心状態の引きつりMAXに。

その手にはまだ新しいヘルメットとグローブが
痛々しいくらいにじっくりと握られていた。


バイクを買って、バイク屋から溜まり場の楽器屋まで数分の距離。

モッコリがバイクに乗った時間。

バイクと同じカラーで揃えたヘルメットとグローブ。

使用時間数分。


そしてモッコリの汗と努力の結晶の愛車、モッコリ号は星になった…。


多分、日本記録。


モッコリ1号機は伝説のバイクになった。



そしてモッコリ1号機の代金が全て弁償されたのは、高校卒業式の頃だった…。

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