インタビュー ウィルス学教授イザベラ・エッケレ2022/1/11(和訳)

Wirtschaftswoche 11.01.2022

イザベラ・エッケレ ドイツ、シュパイヤー出身 ジュネーブ大学 ウィルス学教 新種ウィルス疾患研究所所長

エッケレ先生、先生はジュネーブ大学でコロナウィルスの研究をされていますが、今、ラピッドテストの試験を行っていらっしゃいます。ラピッド抗原テストはどのくらいよくオミクロンに反応するのでしょうか?

オミクロンの拡大速度は速く、ラボでのデータが追いつかない、という前代未聞のシチュエーションです。ですから、今日の質問にも全てにおいて深くお答えする、ということはできないとは思います。同じように、このラピッドテストのデータに関しても第一段階では様々結果がでているものの、これはいくつかの試験でも検証されていることですが、、データをみるかぎりではラピッドテストのなかにはあまりよく反応しないものがあることは確かです。

どのようなデータが出ているのでしょうか?

私たちのジュネーブ大学研究のデータでは、ラピッドテストのなかには高揚性の検体にも反応しなかった場合もありました。検体は陽性で感染性があると思われる患者からのものです。しかし、先ほども言いましたが、これはまだ臨床試験ではなくラボからのデータ結果です。

ラピッドテストがウィルスに反応しない原因は何なのでしょうか?

これに関しては、これが変異株自身の問題なのか、それとも、検査対象のほとんどが予防接種、さらにブースター接種をしているからなのか、という点がまだ明らかではないところです。どちらにしても、1年前にはこのような現象はありませんでした。

感染者から、PCR検査では陽性でも、抗原ラピッドテストではずっと陰性のままだった、という報告もあります。どうして、オミクロン感染はPCRのほうがきちんと結果がでるのでしょうか?

PCR検査の感度は高く、検証するのも病原体の遺伝子部分ですから、喉や鼻で増殖しつつある初期の段階でもみつけることが可能です。それに対して、ラピッドテストが反応する部分はウィルスのタンパク質なのです。ここでの反応が起きるためにはかなりのウィルスの量が必要ですから、感染もある程度経進んでいなければいけません。

ラピッドテストの反応のために必要なウィルス量に達するまでにどのくらいかかるものなのでしょうか?

それは、数時間で達することもあれば、数日かかることもあります。オミクロン株の前から、コロナウィルス感染におけるウィルスの増加は急激に増えてそこからまた緩やかに減少していく、ということがわかっています。この初期の急激に増加するタイミングで、PCR検査では陽性、ラピッドテストでは陰性、ということはあり得ます。オミクロンでは潜伏期間がかなり短くなっていますので、この増加がさらに急激です。ここから擬陰性になる期間はさらに短くなる、と思われます。

ということは、朝にラピッドテストをして陰性でも、午後、同僚たちとコーヒーを飲んだり、晩にレストランに行く際には陽性で、周りにうつす可能性もある、ということでしょうか?

そうですね。それは残念ながら十分あり得ることです。しかし、根本的に、ラピッドテストはもともと、レストラン、イベント、職場などへの入場券、というような役割を果たすために導入されたものではなくて、2020年に市場に出てきた際には、有症状の感染者をみつけるため、数とキャパに限りがあるPCR検査の代用、という立ち位置だったのです。無症状の場合の感染においては、初めから感度に限界がありました。それが、オミクロンでは明らかにもっと反応しない、ということです。ですから、抗原ラピッドテストは、入場チケットとしては使えませんし、そのためのものではそもそもないのです。

それでも、全国でレストランでの2Gが義務になってきています。それによって得られる安心感、というものは危険だ、ということなのでしょうか?

レストランで食事をする、ということは、どんなに感染防止対策をしていたとしても、、オミクロンに感染し、周りにうつすようになる、というリスクを冒すことを意味します。たとえ、全員が予防接種をしていたり、感染回復者であったり、24時間以内のラピッドテストの陰性証明を持っていたとしてもです。レストランの中では大きな声で会話もするでしょうし、食事もしますし、飲み物も飲みますし、トイレやバーに行くこともあるでしょう。ずっとFFP2マスクを着けたままにしている人はいません。オミクロンの感染速度とラピッドテストの性能からみると、感染する可能性はない、とは言えないのです。

では、検査義務というものは意味がないのでしょうか?

いいえ、そういうことではありません。しかし、自分が感染をするリスクがあって、自覚症状なく感染して周りにうつす可能性もある、という自覚は常に持つべきです。レストランに行く、病気のおばあさんに会いに老人ホームに行くなど、そのような場合のラピッドテストによる陰性の保証はできませんが、陽性だった場合にはすぐに自己隔離をすることができますから、感染のチェーンを断ち切る、という意味合いでも意味がないことはありません。ですから、今後もテストは必要な続けるべきなのです。

しかし、PCR検査も強化したほうが良い、ということでしょうか?

それは、このようにウィルスの蔓延が起こってしまうと不可能です。ジュネーブでは、もうすでに1日の検査キャパに達していますから、検査を希望する人全員をPCRで検査することはできません。ドイツでもこれから似たような展開になっていくのではないでしょうか。

限られたラボのキャパとどのように向き合っていくべきなのでしょうか?

ラボは計画的に動かしていくべきです。病院での医療従事者、介護スタッフに使うのか、学校で生徒や先生に使うのか。それとも、ラピッドテストで陽性が出て軽症で自宅療養している場合なのか。ラボの負担が大きくなればなるほど結果が出るまでの時間が長くかかる、ということも忘れてはいけないことです。

待ち時間が長くなると出てくる影響もある、ということですね。

3日かかるとすれば、感染者が周りにうつしてしまうリスクも高くなりますし、その人たちも周りにうつすでしょう。ラピッドテストは感染流行時のラボの負担を軽くします。ラピッドテストで陽性になった場合には感染者と認識し自己隔離、となりますから、今のようなシチュエーションではこのようなテストは重要なツールなのです。

ラウタバッハ保健相も触れていたように、検査の他にも対策の強化が必要になってくると、と言う事でしょうか?

今、諦めたり、オミクロンの感染流行を野放しする、というのは全く意味がないことです。病院はギリギリまでの負担を抱えながら戦っています。それはここジュネーブでも同じで、感染者数からみるとドイツよりももっと高いのですが、これは重症患者が多い、ということではなくて、コロナ感染から起こりうること全般の問題です。高齢者でかなり弱っている人たちは転びやすくなっているでしょうし、糖尿病患者も血糖値のバランスを崩したり、、医療従事者は自ら感染、もしくは子供が感染して隔離になったりするでしょう。ですから、できるだけ病院には負担がかからないように努める必要があるのです。

どのようなことが起こり得ますか?

コロナに対する感染防止ツールは出揃っています。マスク、検査、予防接種。これ以上は今の所ありません。たしかに、これらのツールは完璧ではないでしょう。しかし、これらをきちんと的確に使えば、オミクロンの感染流行を乗り越えるには十分役に立つものだと考えます。ドイツに関しては、デルタのための対策が緩和されていなかった、ということもあって人々の危機感も持続したままだった、というメリットはあったかと思います。

3回接種をしたのにオミクロンに感染する可能性がある、ということで、多くのブースター接種者は苛立ちを隠せません。

データからみると、ブースター接種の効果は少なくとも一定期間はオミクロン感染から守りますし、もし感染してしまったにせよ、重症化して入院したり、死亡したり、というリスクは確実に削減されます。とはいっても、誰もがいつかはオミクロンに感染する、というのが、現実でしょう。

何度もオミクロンに感染する確率、というものはどのくらいなのでしょうか?

それに関してはまだわかりません。この変異株が循環してからまだ時間が経っていませんので再感染をするにはまだ早すぎます。現時点でみられるのは、秋にデルタに感染した人で今オミクロンに感染するケースが増えている、ということです。将来的なオミクロンでの再感染リスクに関しては、季節性の風邪コロナウィルスのデータを参考にすることができるかもしれません。風邪コロナウィルスの場合には、12ヶ月以内に同じウィルスに感染する可能性はあります。

オミクロンが再感染のリスクを持っていたとしても、これはパンデミックの終わりである、という見方はできるのでしょうか?

ここで予測などをするつもりはありません。いままでにも、コロナでは数々の予期せぬことが起こってきましたので。しかし、このオミクロン流行は集団の免疫の収得を促すことは確かで、、それが予防接種によるものか、感染によるものか、、どちらにせよ、集団全体での基礎免疫ができることによって、エンデミックへの第一歩となるのです。予防接種をした後に感染した場合には、さらに広範囲の免疫ができることになりますので、もし、オミクロンの後に新しい変異株が出てきても十分に対応できることが期待されます。そのような意味では、これから数ヶ月間、厳しい状況が続くとは思われますが、良い方向へ行く希望はある、と言えるでしょう。



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