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ビジネスデザイナーという仕事1


こんにちは。私はいま、i.lab(Innovation Laboratory Inc.)というイノベーションファーム - 新規事業創出のためのコンサルティングファーム - で働いています。

私はDirectorという職位で、プロジェクトリードやプロジェクトマネジメントをメインの仕事として行いながら、経営の仕事の一部(HRや法務など)も担っています。とはいえ、少人数の会社なので現場の仕事も同時に行う、いわゆるプレイングマネージャーです。i.labに入社して4年と少し、「ビジネスデザイナー」という職種で働いてきたので、今回、ビジネスデザイナーの仕事について書いてみることにしました。

ビジネスデザイナーを名乗るようになった経緯

ビジネスデザイナーと聞いて具体的なイメージがぱっと浮かぶでしょうか?

私がビジネスデザイナーと名乗るようになったきっかけは、i.labに入社した際、名刺に表記する肩書きを自分でそう決めたからです。

私は、新卒でメーカーにエンジニアとして入社した後、MBA(経営学修士)を取得し、いわゆる戦略コンサルティングファームで働きました。そういった業界にいた身としては、i.labのようにデザイナー、エンジニア、そして「ビジネス系の人」がチームとして一緒に働くのは興味深く感じていました。私はその「ビジネス系の人」として入社したので、自分の肩書きは「コンサルタント」だと思っていましたが、「イノベーションに携わるのに、名刺にコンサルタントって書いてあったら古そうじゃない?」という社長・横田の一言で考え直すことになりました。その結果、ビジネスデザイナーと名乗ることにしました。

その時はまだ自分の中で、ビジネスデザイナーという職種についての理解が曖昧でした。また、当時はまだデザインシンキングという手法自体がそこまで知られてなかったので、ビジネスデザイナーの細かい定義にそもそも意味があるとも思っていなかったと言うのもあります(理由は後ほど説明します)。

ただ、ビジネスデザイナーと名乗り始めてから、名刺交換をする度に「ビジネスデザイナーって何?」と聞かれることが多く、自分の中でも改めて、「ビジネスデザイナーとは何だろう?」と意識するようになりました。

ここからは、私の経験を通じて、自分なりに徐々に理解してきた部分をご紹介します。

ビジネスデザインの前提

.labが参加するプロジェクトでも、他のプロジェクトでも、イノベーションまでの道のり(新規事業開発や新製品・サービス開発のプロセス)には、いくつかのフェーズがあります。

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(図1)ビジネスデザイナーに求められる領域

その中で、ビジネスデザイナーは、「0から1を生み出す創出のフェーズ」と「1から10に進める実現のフェーズ」において、デザインシンキングに代表されるデザイン的な手法・プロセスを導入する際に必要とされます。

デザイン的な手法・プロセスに関しては後ほど詳しくご紹介しますが、ビジネスデザイナーには、ビジネスだけでなくデザイン、テクノロジーの3要素についての理解が求められます。ここが大きな特徴です。

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(図2)ビジネスデザイナーの協業領域

そもそも、イノベーションまでの道のり(新規事業開発や新製品・サービス開発のプロセス)において、なぜデザインシンキングに代表されるデザイン的な手法・プロセスを導入したいというニーズがあるのでしょうか?

その前提としては、世の中の製品・サービス・システムなどのアイデアを創出するアプローチが複数あることに起因します。大きく分けて、4種類あります。

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(図3)アイデア創出のアプローチ

例えば従来型のR&Dからの製品開発は、1の技術起点アプローチ(図3参照)です。社会起業家の方々は、3の社会起点アプローチ(図3参照)で、事業アイデアを創出しているでしょう。

製品・サービス・システムなどのアイデアを創出する際には、この4つのアプローチを組み合わせることが重要だと考えています。

例えば技術起点アプローチ(例:R&Dでの製品開発)は保有技術や先端技術を活用した事業アイデアのため、事業上の差別化が図りやすいですが、現実性や事業性が不透明であり、事業開始に向けては詳細なニーズ調査が必要となります。

また、市場起点アプローチでは、有望な市場は特定出来るため、事業上の大失敗をするリスクが押さえられますが、誰もが注目する社会事象や有望市場であるため、事業アイデアに新規性が生まれにくいといった点があります。

近年世の中で言われている、いわゆるデザイン思考等を用いた人間中心アプローチは、製品単体のアイデアだけでなく、利用シーンまで含めた具体的なアイデアを発想可能ですが、技術側から見た新規性や差別要素が弱く、事業上の優位性を確保し辛かったり、事業として規模感が出ないことも多くあります。

デザイン的な手法・プロセスは、これらのアプローチを複合的に取り入れる際、特に技術起点アプローチと人間起点アプローチや市場起点アプローチと人間起点アプローチなど、従来的な開発手法に人間中心アプローチを混ぜ込んだプロセスを取る際に相性が良いです。そしてそのような時こそビジネスデザイナーの出番となります。

ビジネスデザイナーとは?

私がビジネスデザイナーについて説明するときは、簡単に「ビジネスをデザインしているんです。」という表現をしてきました。読んで字のごとくでそのままですが・・・

冗談は置いといて、ビジネスデザイナーには3つの仕事があると思います。

1.デザインシンキングに代表されるデザイン的な手法・プロセスを、新規事業開発や新製品・サービス開発に導入する。

2. 生活者からのインサイト(洞察/示唆)を抽出し、アイデアの提供価値の中心に埋め込み、事業アイデアに落とし込む。(その際に「数字」も扱う)

3. 異なる職位・職種の専門家の能力・強みを把握し、プロセスに落とし込む。

「ビジネスをデザインしているんです」と言った時には2.がイメージに近いかもしれません。世の中で発売されているビジネスデザインに関する書籍やその記事も主に2.についての説明だと思います。しかし、その前提となる1.や、「ビジネスをデザインする」ために必要な3.も同じくらい重要です。

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(図4)0→1のプロセス全体像とビジネスデザイナーの仕事

図4の放物線はデザイン的な手法・プロセスを概念的に描いた図です。1.のデザインシンキングに代表されるデザイン的な手法・プロセスの肝は、図4の放物線が描くように、具体的な情報から抽象的な機会を導き、具体的なアイデアを考えることです。つまり、ユーザーリサーチ等の結果からそのまま製品・サービスのアイデアを出すのではなく、いったん抽象度の高い機会領域を設定することが重要となります。こうすることで、ユーザーリサーチから得られたインサイトを普遍的に利用することが可能になります。

2.は、1.のプロセスを前提に進められます。ビジネスデザイナーに求められる具体的なタスクは、(デザイン的な)ユーザーリサーチ、事業アイデア創出(コンセプト作り)、ペルソナ作り、エクスペリエンスの設計、ビジネスモデル設計、市場・競合調査、事業計画の作成などが考えられます。これらのタスクに関しては、i.labでも他のファーム・事業会社においても、ビジネスデザイナーのやることは大きく変わらないのではないでしょうか。このプロセスについてはまた別の機会に詳しくご紹介しようと思います。

3.はチームマネジメントに関連するので、駆け出しのビジネスデザイナーが直ぐに成果を出せるものではありません。ただ、ビジネスデザイナーは0→1、1→10というプロセスを前に進める仕事をするため、必然的にプロジェクトをリードしたりマネージすることが多くなります。そのため、駆け出しのビジネデザイナーであっても将来的にはチームマネジメントが必要になるという認識で働いた方がよいでしょう。

以上が私の経験からのビジネスデザイナー像です。

最後に:「定義」は重要なのか

先ほど、「世の中で言われるビジネスデザイナーの細かい定義にそもそも意味があるとも思っていなかった」と書きました。これは、私がビジネスデザイナーを名乗り始めた当時、特に大企業においては先ほどご紹介した1.のプロセス、つまり新規事業や新製品・サービス開発にデザイン的な手法・プロセスを導入することが余りなく、日本ではビジネスデザイナーという職種自体が少なく、ほぼ浸透していなかったことが大きいです。ここに海外からの概念を持ってきても、教科書的な話に終始するだろうと感じました。

ビジネスをデザイナーの仕事として、ビジネスとデザインをつなぐ、ロジックとクリエイティブとつなぐなどと言われます。しかし、それらはそもそもデザイン的な手法・プロセスを導入した後の話であって、当時は「まず当該手法・プロセスを試してみましょうよ!」というところから始める必要がありました。

そのため、まだ浸透していない職種なら、ビジネスデザイナー=自分という定義で切り開いていくというのもいいなと思いました。他の人が定義したり他の人が言うビジネスデザイナー像を追求するのもいいですが、現在の社会状況で何が求められているのか、その中で自分が何をできるかを見極めて、それを軸にサービスを提供し、自分なりのビジネスデザイナー像を確立したいと思った、というのが大きいです。

以上が私の考えるビジネスデザイナーです。今度、そのスキルセットについても書きたいと思います。ではでは。

参考

i.lab - 私が働いているイノベーションファーム - 新規事業創出のためのコンサルティングファーム - です。
https://ilab-inc.jp/

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