十五、

最後に、婦人との思い出として忘れられないことがある。

婦人があの街で一番おいしいスコーンがあるというそのティールームで、私たちはにいつものように一時間ほど話していた。ふと、何かを思い出したように婦人が訊いた。

「日本には、もちろん私は日本語でそれを何と呼ぶのかは知らないけど、ゴールドフィッシュをそっと捕まえるやつがあるじゃない?」

私が、「金魚すくい のことですか?」と訊き返すと、夫人は

「そうそれ、ゴールドフィッシュスクーピング」

と言って、「あれは何て残酷な遊びなのかしら」と続けた。

私は欧米人から、日本における捕鯨やイルカの捕獲について批判された事は何度も経験していたが、金魚すくいのことを、そして普段何事も異国の文化や慣習を批判することを良しとしない婦人の口から、まさか、金魚すくいの残酷さを指摘されるとは思ってもいなかった。私は何と返していいかわからずただ、

「婦人は金魚のことが好きですか?」とわけのわからないことを言ってしまい、婦人も、そのあまりの突飛な質問に目を丸くして、

「あら、私、金魚ちゃん大好きよ」と言った。

私はその時、少し、金魚になりたかった 。

(了)

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