罪と罰には尤度を考慮すべき

例えば殺人罪の刑期は、n人を殺した場合

(5年)×n^r×情状酌量係数×尤度

のような形をしているべきだと思う。
rは逓減指数。r=1なら罪に罰が比例する。例えば1人で5年、2人で10年、3人で15年という感じ。r<1なら人数が増えるほど罰の増加量が減っていく。例えばr=0.7なら1人で5年、2人で10年、3人で13年、4人で15年。
r>1という考え方もあるだろう。r=2なら1人で5年、2人で20年、3人で45年で実質終身刑。

それと、罪には情状酌量係数と尤度を考慮する必要がある。情状酌量は、今でも考慮されていると思うが、尤度が十分考慮されていないように見える。
法論理では誰が、いつ、何をやったか、を完全に100%断定できる前提で議論しすぎていないかと感じる。そんなこと新聞記者や政治家を見れば不可能だろう。科学者だって結論をそこまで信じていない。

釈迦に説法だが、尤度は、「確からしさ」を表すものである。
例を挙げる。
・殺人現場にナイフが落ちていた
・被害者は胸に深い刺し傷があった
・被害者は出血多量で死んでいる
・死亡推定時刻は1週間前だ
・容疑者Aはその夜に家にいなかった(アリバイが無い)
・容疑者Aと被害者の間には金銭トラブルがあった
・容疑者Aは2週間前にナイフを購入していた
・ナイフの指紋は拭き取られていた
このとき、容疑者Aが被害者を刺して殺した可能性はどれくらいか。

まず、被害者が落ちていたナイフで刺し殺された尤度はかなり高いだろう。
一方、一週間前の夜刺し殺された尤度は高くない。6~8日前、というのは尤度が高くなるが、ちょうど7日前、それも夜だというところまで断定できるとは思えない。とすると、容疑者Aのアリバイが無いことはそこまで重要な情報では無い。6~8日前の72時間のどこかにアリバイが無い人はゴマンといるはずだ。言い換えれば、Aのアリバイが無いことは、尤度には大きな影響は無い。別の角度からは、死亡推定時刻が前日の夜8時~10時の間、というくらいまで精度が高ければ、アリバイが尤度に与える影響は大きくなる。

Aが2週間前にナイフを購入していたことは尤度を上げるだろうか。これは、同じ型のナイフを持っている人が他にどれくらいいるか、という情報が重要になる。ありふれたものであれば、尤度への影響は小さい。
書いていて思ったが、銃刀法の規制があるが、銃やナイフはいつ誰が買ったものか同定できるようにしておけば、脚がつきやすいし、使用者の規制をする効果があるのでは無いか。

容疑者Aが普段からトラブルが多かったことはどうか。殺人事件を起こした人は金銭トラブルを抱えている場合が多いかもしれない。
しかし、結論は、金銭トラブルが殺人事件につながるかどうかは、統計が無いと何も言えないのだ。
金銭トラブルというのはよくあることでもあるし、大多数の金銭トラブルを抱えた人は殺人事件なんて起こさない。もしかしたら金銭トラブルを抱えていない人の方が殺人事件を起こしている割合は高いけど、そんな人が少なすぎて目立たないだけかもしれない。

このあたりが尤度の直感に反するところで、色んな説話がある。
科学者に有名なところだと、癌で死んだ人を解剖すると必ず大量のDHMOが見つかるが、DHMOは体に悪いか?というのがある。答えは、DHMOというのは水のことで、全ての生きている人の体に水があるから、死んだ人にも水が含まれているのは当たり前だから、というのがある。
同様に、「ナイフを買った」「金銭トラブルがあった」と「殺した」との関連を調べるためには、ナイフを買った人、金銭トラブルがある人が何割いるか、を考える必要があるのだ。

もちろんこのあたりのことを弁護士や裁判官が知らないとは思えない。しかし、高齢者がパンを喉に詰まらせて死亡した事件に賠償命令が出たりするのを見ると、そのあたりが十分に認識されていないように見える。

入所男性がパンを詰まらせ死亡、特養ホーム側に2490万円賠償命令…「危険性を認識できた」
朝食のロールパンを喉に詰まらせて窒息死した。男性は約1か月前にもロールパンを喉に詰まらせていた。
 訴訟で、施設側は「男性は自分で食べることができたので、常に見守る義務はなかった」と主張。これに対し、藤根裁判官は「これまでと同じ態様で食事を提供すれば、より重篤な結果が生じる危険性を認識できた」と、施設側の賠償責任を認めた。
 施設を運営する社会福祉法人「長生福寿会」(名古屋市西区)は「判決の内容を確認して対応を検討したい」としている。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230807-OYT1T50234/

この判決の問題は、ロールパンを食べさせる行為が、喉に詰まらせるという結果に対してどれだけの尤度の上昇を招いたか、を考慮しているように見えないことである。
高齢者にロールパンを食べさせる行為がどれほど行われ、その中でどれほどの割合で喉に詰まらせているかを調べる必要がある。ほぼ全老人がロールパンを日常的に食べており、喉に詰まらせたのは運が悪かっただけかもしれない。
余談だが、もし高齢者が詰まらせる可能性が高いなら、ロールパンを老人に食べさせる行為自体を違法にする必要がある。法律に則ってやったことで賠償させられるべきか。
第二に、一度詰まらせたのにもう一度食べさせたことが問題であるなら、この老人はロールパンを一生食べられなくなる。他のパンだってまんじゅうだって危ないし、ご飯もダメかもしれない。そういう対応を取ることが現実的とは思えない。

話が大きく変わるが、袴田事件というえん罪事件がある。

事件の概要  
1966年6月30日午前2時、静岡県清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅が全焼するという火事が発生しました。焼け跡からは、専務(41)の他、妻(38)、次女(17)、長男(14)の4人が刃物でめった刺しにされた死体が発見されました。
警察は、当初から、味噌工場の従業員であり元プロボクサーであった袴田巌氏を犯人であると決めつけて捜査を進めた上、8月18日に袴田氏を逮捕しました。
袴田氏は、当初否認をしていましたが、警察や検察からの連日連夜の厳しい取調べにより、勾留期間の満了する直前に自白しましたが、その後公判において否認しました。
事件の経緯
警察は、逮捕後連日連夜、猛暑の中で取調べを行い、便器を取調室に持ち込んでトイレにも行かせない状態にしておいて、袴田氏を自白に追い込みました。袴田氏は9月6日に自白し、9月9日に起訴されましたが、警察の取調べは起訴後にも続き、自白調書は45通にも及びました。
袴田氏の自白の内容は、日替わりで変わり、動機についても当初は専務の奥さんとの肉体関係があったための犯行などと述べていましたが、最終的には、金がほしかったための強盗目的の犯行であるということになっていました。
さらに、当初から犯行着衣とされていたパジャマについても、公判の中で、静岡県警の行った鑑定があてにならず、実際には血痕が付着していたこと自体が疑わしいことが明らかになってきたところ、事件から1年2か月も経過した後に新たな犯行着衣とされるものが工場の味噌樽の中から発見され、検察が自白とは全く異なる犯行着衣に主張を変更するという事態になりました。
第1審の静岡地裁は、自白調書のうち44通を無効としながら、1通の検察官調書のみを採用し、さらに、5点の衣類についても袴田氏の物であるとの判断をして、袴田氏に有罪を言い渡しました。
この判決は、1980年11月19日、最高裁が上告棄却し、袴田氏の死刑が確定しました。 (一部削除)

https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/deathpenalty/q12/enzaihakamada.html#:~:text=%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81,%E3%81%8C%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

この取り調べも、尤度100%を目指す裁判の問題であるように見えます。
火事が起きてしまえば、証拠の確からしさも大幅に減るでしょう。

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