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若い投資家との出会い

 埼玉県南部に位置する築30年のアパート。価格は当初1,280万円、そこから値引きされて1,230万円。この物件を巡る取引が、私の不動産キャリアにおいて印象深いものとなりました。

 4年ほど前、ある日、取引先から連絡が入りました。相手は、20代後半の大手コンサルティング会社に勤務する社員で、1棟のアパートを購入したいという依頼でした。驚いたのは、その人物の年収が600万円、自己資金が200万円という点です。私の中では、「この年収で、いったいどんな物件を購入するのか?」と興味が湧きました。

 彼が興味を持った物件は、埼玉県南部にある築30年のアパート。古さもあり、投資リターンに大きな期待はできないと思われる物件でしたが、彼の目には違う可能性が見えていたようです。価格も比較的安価であったため、ローンの組み合わせ次第で何とかなるかもしれないという期待感がありました。

値引きと融資の交渉

 物件価格は1,280万円でしたが、交渉の末、1,230万円に値引きをしてもらいました。若い投資家が自己資金200万円しかないため、地方銀行に融資を持ち込みましたが予想以上にスムーズに進行し、銀行側からは物件価格全額である1,230万円の満額融資が出ました。このような満額融資は珍しく、私も驚いたのを覚えています。

 しかし、銀行とのやり取りの中で一つの問題が浮上しました。それは、何度も「これは本当に仲介ですか?」という質問を銀行担当者から受けたことです。銀行側から見ると、1,230万円という価格帯の物件でフル融資が通るのはかなり稀なケースで、業者がこのレベルの金額の物件を取り扱うはずがないと不信感を抱かれたのかもしれません。通常、1棟アパートマンションの場合は数千万円からの物件が取引の中心だった私にとって、このような価格帯の取引は初めてでしたが、それでも同じ質問を10回以上受けたのはやや異例でした。

手数料と手間

 物件価格に対して法定手数料が適用され、手数料は約47万円となりました。価格×(3%+6万円)に消費税を加えた金額です。この手数料は、私にとっても投資家にとってもそれほど高額ではなく、取引自体は順調に進んでいきました。

 ただ、この手数料についても銀行担当者から何度も疑問を持たれたのは少し面倒でした。彼らは「こんな低価格帯の物件で、果たして仲介業者が本当に手数料を取って利益が出るのか?」という疑念を抱いていたようです。通常、私が扱う一棟物件は1億円から3億円の範囲が多いため、このような価格帯の物件に対して金融機関が疑念を抱くのも無理はないかもしれません。
 区分マンションも2000万~5000万位がおおいですが。

小規模物件の価値

 この1230万円のアパート取引を通じて、私は改めて「小規模な物件でもしっかりとした利益を出すことができる」という事実を再確認しました。不動産業界では、しばしば価格の大きさが物件の価値と結びつけられがちですが、この取引はその概念を覆すものでした。

 小規模な物件でも、しっかりとした収益を見込むことができ、投資家にとってもリスクを抑えた形での不動産投資が可能です。特に、若い投資家や資金が限られている人にとっては、このような小規模物件は非常に魅力的な投資先となるでしょう。

経験から学んだこと

 今回の取引では、銀行側や周囲の反応から学ぶことが多くありました。高額物件ばかり扱っていた時期には気づかなかった「小規模物件の難しさ」と「それでも収益を生み出す可能性」が強く印象に残りました。

 額が小さいため労力の費用対効果は高くはないですが安心してリスク回避できる価格帯も悪くないなと認識するのはいい機会です。

 そして、この取引が自分にとっていかに貴重な経験であったかを実感しました。金額の大小ではなく、投資家にとって本当に価値のある物件を提供することが、不動産仲介業者としての使命であると再確認できたのです。

 また、金融機関とのやり取りで感じたのは、価格の大小で区別されがちな現実です。特に、1億円以上の物件を扱っていると、どうしても周囲の期待値が高くなります。しかし、こうした価格に対する固定観念を乗り越え、幅広い物件を扱うことで、自分自身の成長や新たな視点を得ることができました。

まとめ

 今回の埼玉県南部のアパート取引は、価格の低さに関わらず非常に学びの多いものでした。不動産業界では、しばしば高額物件が注目されがちですが、小規模物件にも魅力や価値があることを理解することが大切です。特に若い投資家や、初めての不動産投資を考えている方にとっては、このような物件が理想的なスタート地点になるでしょう。

 経験から言えるのは、物件の規模や価格にとらわれず、本当に価値のある取引を見極めることが重要だということです。このような考え方を持ち続け、今後も様々な物件を取り扱い、より多くの投資家に貢献できるよう努めていきたいと思います。


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