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愛する喫茶

2年以上ぶりに外泊をした。

知らない駅で降りる。知らない街を歩く、知らない街のスーパーに入り、何を買うでもなく商品を眺める。知らない神社でお参りする。知らない土地で眠る。

”知らない”に囲まれて、何が起こるかなんてわからない”旅行”って、とても魅力的だ。
そして、私は喫茶店が大好きだ。
『知らない喫茶店に入り、そこが自分のお気に入りの喫茶店になる。』
そんな嬉しい事があった。
なので忘れないうちに書いておく。

先に言っておくが、文章長いのでやめとくなら今です。

思わぬ連休がもらえた為、私は何処かに行って1泊したいなと考えていた。
出発前日の晩、乗った事の無い路線の電車に乗り、この駅で降りてみようという事だけ決めて眠った。
朝、最低限の着替えとお化粧品、充電器、スマホと財布をリュックに詰めて家を出た。

JRの快速で1時間ほどの道のり、初めて乗るその電車は、滅茶苦茶揺れた。
揺れるというより、常にバウンドしていた。
田舎道を走るとしばしば動物と接触事故を起こしてしまう事がある。
それを防ぐ為に電車は頻繁に警笛を鳴らしながら走る。
けたたましい警笛音と激しく跳ね続ける座席。車窓を猛スピードで流れる景色を見ながら段々と自分の状況が面白くなり笑いを堪えていた。

全身でアトラクションを感じながら目的地に着くまでの間、お昼ごはんやこれから行く所、泊れる場所を検索していると無事に目的の駅に到着した。
改札を出て宿の予約を済ませ、お昼ごはんと街の散策へと向かった。

あちこち歩き回った。とても天気が良かった。とても暑かった。
そしてバテた。

もう駄目だ。一歩も歩きたくない。わずかに残されたHPは赤く点滅している。

電車の中であらかじめ検索していた喫茶店へ向かう。
ちなみに私は致命的な方向音痴なのでスマホが無いと永遠にどこにも辿り着けない星の元に生まれた悲しいモンスターである。
無事にお店に着き、店内に明かりが見えて心底ホッとする。

ありがとうGoogle先生…

初めてのお店に入るのはいつも緊張する。
扉を開けると入ってすぐ左のカウンター中から女性店主が「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。

挙動不審を振りまきながら少し奥へ進む。
4人掛けテーブルが5卓ほどの店内にタバコを吸っている女性の先客がお一人。
一番奥の席へ腰を下ろす。

着席してすぐに、席近くのテレビで映し出されていた夕方の情報番組からNHKの『美の壺』に変わった。
リュックを背負い汗を滲ませ憔悴しきった女の登場に合わせてチャンネルを変えてくれたのだろうか。そんなわけないか。きっとご趣味なんだろうな、と思いながらぼんやりと店内を見ていた。

店内は昔ながらの喫茶店といった感じだが、とても綺麗にされており、
喫煙可だがタバコの匂いが染み付いている感じも無い。
所々に飾られているステンドグラスの置物、大きなスピーカー、明るすぎない照明、天井の濃い色の太い梁、落ち着く空間、まさにオアシス。

それにしても、来ない。
店主が来ないな。
もしかしてセルフサービスだろうか。

自分の存在感の無さには自信がある。
入店したことをもう忘れられたのでは…
と思ってたらお冷とおしぼり、メニューを持って来てくれた。

ケーキセットを注文する。
レモンケーキとチーズケーキとパウンドケーキがあるそうで、
レモンケーキを選び、ホットコーヒーをお願いした。

注文し終わり、マスクを外してお冷を飲む。
「ックゥ~~~沁みわたるぜ」と心の中で大声が出る。
おしぼりを手に取ると、あたたかい。
「あったかいぜーーーー!」と心の中で大声が出る。

そして気がついた。
さっきメニューを見せてくれた店主さんの手が濡れていた。
店主が来るまでの時間の疑問が解けた。
おしぼりは来客の度に丁寧にお湯で絞って提供している。
あたたかいおしぼり自体が珍しくなったこの時代にだ。
手を拭いてみるとわかる、その丁度良い塩梅の暖かさと絞り加減。
広げてみると大きい。
ライブタオルくらい大きい。
そしてほのかに清潔な良い香りがした。
疲れ切っていた私はこの絶妙タオルにとても癒された。

来客の度にこのおもてなしを続けているというのは、容易にできる事では無いし、私は手指の隅々まで拭きながら感動していた。

そしてレモンケーキとコーヒーが届いた。
レモンケーキはすっきりした酸味で柔らかい生クリームと相まってとても美味しかった。
ケーキに飾りつけには丁寧にカットされたオレンジが乗っていて、口に含むとフレッシュな甘酸っぱい果肉が弾けた。
珈琲も美味しくて、疲れた体に染み渡った。
私は身悶えていた。
とてもいいお店に出会ったかもしれないという想いも含めて。

満たされた気持ちでお店を後にする時には、明日モーニングを食べに来ようと心に決めていた。

そして次の日の朝、
宿を出て真っ先にあの喫茶店へ向かった。

ここで私のしょうもない自我と葛藤する。
昨日の夕方行って次の日の朝行ったら多分客として覚えられているだろう。
”憔悴した女”という特徴もあっただろうし。
恥ずかしい。
「この人昨日も来てたな、気に入ったんかい(笑)」って認識されるの恥ずかしいな。
葛藤の末、もしかしたらこれでバレないかもしれない。と思い
昨日被って行った帽子を脱いで行くという、ほんとにしょうもない変装をして、入店した。

昨日と同じように「いらっしゃいませ」と迎えて頂いて、
昨日と同じ席が空いていたので座った。
やはり店主はなかなか来ない。
よく聴くと遠くでジャー!という流しで絶妙タオルが作成される音が聞こえる。ワクワクすっぞ。

そしてお冷、絶妙タオル、メニューをもらい、モーニングを注文する。
絶妙タオルを堪能しながら耳を澄ますと、キッチンから包丁の音が聞こえる。そしてフライパンで炒める音。
事前にモーニングも定評があることをGoogleさんで見て知っていたが、期待が高まる。

しばらくして「お待たせしました。」と、モーニングが届いた。
テーブルに食器を置きながら説明してくれた。
「リンゴジャムは甘すぎないからパンに塗っても良いですし、そのまま食べても良いですよ」
なにそれーー!手作りですやん!楽しみでしかないですやん!
嗚呼、もう我慢できない。と思いながら1枚写真をチャ!っと撮り。
いただきます。

トーストはこんがり良い色で、まずはそのまま一口。バターのコクと塩味って最高。そして例のリンゴジャムを早速スプーンですくい、トーストにこんもり乗っけて食べる。
ホントに甘すぎず、上品で、はぁ美味しい…。
トーストの隣のナポリタン、これがまっじで美味しい。トマトソースが本格‥玉ねぎと太めに切られたハムとのマッチも最高。
横に添えられたポテトサラダ、綺麗にカットされたフルーツ‥
そしてゆで卵を手に取ると、熱い!何?ゆで卵まで出来立てなの?
は?どゆこと!?好き!!!!!!

という訳で、今まで自分が食べたモーニングのダントツナンバーワンでした。
はい拍手!!!!!って感じ。

お店の良さって、料理が良くても人が残念…だとか、
お店の人の良さでお料理があんまり‥でもよく通ってたり様々だと思うけど、
ここのお店は自分にとって、とてもバランスが良くてハイレベルでした。
飲食店で働く身として尊敬する所が沢山ありました。
店主さんの感じや、とにかく手仕事が丁寧な所とか、お店の清潔感(トイレも綺麗でした)とか、
最高な時間を過ごさせてもらいました。

快速1時間の小さな旅のおおきな幸せ体験でした。

またいつか、訪れることが出来たらいいな。

こんな長ーーーーい文章を最後まで読んで下さったあなたにも感謝。

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