北アルプスエリアから~山中の古民家カフェ~
長野県大町市。
標高は726m。11月中旬ともなれば冬の訪れを待たずとも朝晩の冷え込みは厳しくなる。そういえば先日も氷点下の日があった・・。そんなことを思い出しながら、この日は市内山間部エリアに向かってみた。
向かっているのは大町市八坂地区にある
古民家カフェ「大木葉」(おーきーぱ)。
知る人ぞ知る?山間地にたたずむ古民家カフェだ。
自分が、あえてこのカフェを訪れようと思ったのは、このお店のオーナーが都会からの移住された方だとお聞きしたから。
移住された方が地方でお店・・
このような例は、昨今ではさほど珍しくない。
でも、飲食店でしょ?
お店があるのは駅前でも商店街でもない場所。飲食業とすれば圧倒的に不利な土地をなぜ選んだ・・?
地元自治体に努める自分が定住促進も担当していることもあり、やはり興味は沸いてしまう。
それから実をいうと、足を運ぶのにはもう一つ大きな理由が・・
実はこの古民家カフェ、現在、国の登録文化財に登録されているのである。
地域内の登録文化財はある程度把握しているつもりであったが、最近、八坂地区に新たに登録文化財は増えたという話は聞かなかったように思うだが・・。
人と建物。両方に興味が湧いてしまった。
だったら、まずは現地に出向いてみようと思ったのだった。
訪問したのは土曜日の昼下がり。
職場関係者からの情報で、このカフェでは午前中、イベント対応があることを耳にしていたので、その時間を避けての訪問だ。
幸い(?)あたりに人影はほとんど(まったく)見られない。店舗は道路から少し上がった場所にある。駐車場の案内看板を目にして、場所が間違っていないことは確認できたが、駐車場までの道は、今日乗ってきたミニバンには少し狭そうだ。
周囲に迷惑にならないことを確認して、道沿いに車を駐車、そして店内を目指した。
お店に続く坂を上り終えると、門が目に入る。
なかなか、風情がある門構えである。少し圧倒されながら門をくぐる。
ようやく建物の全景が目に入る。
うーん、さすが登録文化財。建物が醸し出す雰囲気に圧倒され始める。
建物に不釣り合いとも思えるポスト。そしてその上部に大木葉の文字。
あらためて、目的地にいることを確認して安堵する。
名前の確認はできた。
さて、玄関はどこかとあたりを見渡し始めたとき、ふいに建物の窓が開く。
「こんにちは!」
声をかけてくれたのは、40手前くらいの男性。
腕にはそろそろ1歳になろうかという赤ん坊を抱いている。
どうやら、彼がここのオーナーのようだ。
その人懐っこい笑顔にひかれて、こちらも挨拶を返す。
すると、玄関のほうを指さして、中に入るよう案内してくれた。
玄関もなかなか風情がある。
その風情ときちんと並べられたスリッパとのアンバランスが楽しい。
玄関を入り、いざ、カフェスペースへ。
しかしここも常識的な入り方とははいかない。
なんと、出入り口は「ふすま」なのだ!
さらに右側ははめ殺しになっている。
カフェスペースに入るには左側のふすまを開けなければならないのだ!
※ちなみに自分は右側のふすまに何度かチャレンジ。
もしかしたら押すタイプ・・?なんて考え、恐る恐る押してみたり(^^♪
無事に店内へ。
中は外見とは打って変わって、今風のカフェだ。
照明は完全に現代風。
とはいえ家具はアンティーク調。
それらが古民家の雰囲気と相まって、独特の雰囲気を楽しめる。
幸い(?)店内は貸し切り状態。
暖房があるとはいえ、若干肌寒く感じる。
少し失礼かなと思いながら、ダウンを着ながら、オーナーの男性に話を伺っった。
ホットコーヒーを頼みながら、まずは自己紹介。
オーナのお名前は「Eさん」。
もう、大町市にに住んで6年ほど経つということだが、こちらに来る前は都内に住んでいたとのことだ。
そんなEさんが、なぜ大町市へ移住しとうと思ったんだろ・・
そのきっかけがやはり気になり、さらに尋ねてみる。
「やはり学生時代によくスキー場に来ていたとか・・」
「いえ、まったく。そもそも、大町市という名前はまったく知りません。スキーも特に興味はなかったし・・」
じゃあ、この土地との接点は何だったのだろうと質問を重ねると、直接のきっかけは、ちょうど今頃の時期(11月中旬)、信濃町で開催された「定住促進フェア」に参加したことだったそうだ。
しかも、フェアに参加した翌月には大町市に仕事と住居を探し始めたとのことであった。
うーむ。
この手のフェアは、ゆるーいつながりを作ることには効果的だけど、自分の経験上、フェア」参加者がいきなり移住への決断にいたるというのはなかなか難しいはずだ。
何か大きなトリガーがあったんじゃないか。
しつこいかと思ったが、ここはもう少し深堀が必要と思い、さらに伺ってみる。
すると、自分の想定を超える答えが返ってきた。
「当時の会場で、長野の冬を知らずして定住を考えるなんてちゃんちゃらおかしいよって言われたんですよ」
「それ、誰が言ったの?」
「当日、自分の担当をした定住促進アドバイザー。自分は、最初は半年くらいゆっくり考えて、それで自分に土地があっているようだったら移住してもよいかな・・くらいだったけど、その一言で、自分に火がついちゃったんですよ」
Eさん、もともと負けず嫌いでもあるようだ。
だったら、やってやろうとすぐに行動を起こし、大町での仕事、住居を確保。翌月には移住を実現させてしまったらしい。
当時は独身だったからフットワークが軽かったともいわれたが、単身であったとしても、この行動力には恐れ入る。
現在はご結婚されて、奥さんと2人のお子さんの4人家族。
大変だけど、少しづつ地に足がついてきましたとのコメントもいただいた。
このようなやり取りを経ながら、お互いの距離が近づいてきたように感じられるようになってきた。
室内の雰囲気と自分もマッチしてきたのかもしれないが、とても居心地がよくなってきた。
少々冗談も交えながら、次の質問へ。
「なぜ、こんな山間地で飲食店を始めたのですか?」
少し聞きにくい内容だったが、一般的には来づらい場所での開業は、どうしてもリスクが高い。
どんなお考えでいるのか、どうしても気になってしまったのだ。
このことに対してEさんの回答が明快だった。
「八坂地区は人が集まれる場所が少なく感じる。確かに公民館は多々あるが、そんな地域に限定したものではなく、いろんな人が集まれる場所ができないかなって・・・」
「今はカフェが精いっぱいだけど、このカフェだって、何時間いてもらっても構わないんです。確かに知名度も含めてまだまだだということはわかっているけど、でも、この土地での友人も出来てきた」
「世代間を超えて人が集まれる場所も目指していきたいと思っています」
最近、地元自治体での起業者はごくわずかで、しかもうまくいったという例も少ないのが現状だ。
自分ができることはごくわずかだが、なにかお手伝いできることはないか。思わずそう考えさせられるようなトークをいただいた。
楽しいお話を伺えたし、登録文化財になるほどの建物も堪能できた。
とりあえず今日の目的は達成できたと考え、カフェを出ようとし際、何気なく都内ではどちらにお住まいだったを聞いたところ・・・
「日野市に住んでいました。両親はまだ日野にいます。それからほとんどの親戚は八王子に住んでいます」
今年は本当に多摩エリアの人間に会う1年だと自分でもあきれるが、でも思わず笑いがこぼれてしまう。
何かお役に立てることがあれば、ぜひお手伝いさせてもらいたいと言い残し、そして近日中の再会を約束して、帰路につくことにした。
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