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あそこのロッカーから幽霊が出てきて、主人公が叫んだらこの映画終わるから。

前夜祭を振り返る。

脚本家の和田見慎太郎を邪魔しないように、
私は筒井康隆の『パプリカ』を稽古場の隅で読んでいた。

3時間経ち『トロッコ』という短編がその場で出来上がった。トロッコ問題を扱うらしい。読んでみる。やってみる。走ってみる。『岡田世界一周の旅』ではない。

しっくりこない。苦肉の策であるエチュードをやることになった。本田哲男と雛野あき、和田見慎太郎の3人でアルバイトの休憩室や美術部の部室などの設定を設けて会話してみる。自分たちは楽しいが、前夜祭で人に見せるとなると話は違う。

21時。会議室の鍵を返却する。場所がない。あそこしかないだろう。階段だ。踊り場だ。自由だ。
22時半になった。屋上からゾンビが出てきてしまう。男女で映画を見に来たところ、恐怖が極限まで達したせいで塩を撒き散らす男に遭遇するという設定だけを持ち帰ることになった。

数日後、再び『トロッコ』という脚本がpdfで送られてきた。3分ほどのコントだった。いける。これは面白い。

前夜祭まで稽古はもうない。

前夜祭前夜、3名でグループ通話をすることにした。電話での読み合わせである。作・演出の和田見から電波に乗ってダメ出しが来る。

前夜祭当日。私(本田哲男)と雛野あきは会場であるウイングフィールドまで電車が一緒だったので、大阪の地下鉄に乗りながら稽古をした。好奇の目で見られようが構わない。時間が無い。乗り換え中、雛野が会話に気を取られ物理的に駅の壁にぶつかった。それでも前へ進む。またぶつかった。めっちゃ痛そう。でもごめん、前夜祭の方が心配なんだ。

ボロボロになりながらウイングフィールドに着いた。和田見と合流して3人で初稽古をした。和田見の塩を撒く姿に笑う。雨が痛いほど叩きつける。

19時、前夜祭が始まった。

そこそこウケた。
ギャグや勢いではなく、関係性の笑いが起きた。

エチュードを元に書いた脚本が功を奏した。
和田見のセンスは間違いない。

帰り道、前夜祭を見に来てくれた点滅して冬の照明スタッフである川崎さんからゴマクッキーをもらった。めちゃくちゃ美味かった。

それはそうと、雛野あきが安住の地に所属することになったそうです。誠におめでとうございます。

本田哲男