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嘘つきは旅の始まり

僕が働き始めてド僻地で暮らしていた頃の話

僻地といえば、X(名前超イカしてる。最高。)で田舎都会論争でいつもケンカしてるじゃないですか。「東京のやつは洋服の青山とマクドナルドとすき家とABCマートが並んでる通りのことを田舎と呼んでる!!真の田舎はこうだろ!!(田んぼの写真どんっ!)」てやつ。月2ぐらい見るけど、あれ毎回別々の人が言い争ってるのかな。毎回同じ人がやってるとなると、そういう仕事の人?となる。もしかしてプラネタリウムの司会の人?

プラネタリウムの司会の人、毎日何回も何回も同じこと言ってて偉い。前行ったプラネタリウムの司会のおじさんのトークが洗練されすぎて「ンナハハハハハ!!」ってハマちゃんみたいな声出して笑っちゃったことある。あれまた聞きに行きたい。ほんっと、継続は力なりよね。あのおじさんの異常な面白さ、ナイトスクープに依頼したい。何ならまっちゃんがいない今、局長になってもらいたいぐらいの人だった。

そんなプラネタリウムの司会の人と見紛うほどXでトークが繰り返される田舎論争の、「真の田舎はこうじゃよ博士」が貼る田舎の写真を鼻で笑うほどの僻地に住んでいた頃の話。

友達どころか若者すらおらず、稀に現れる若者を見かけると「今日はいい日だ」なんて思ってしまうほどの日々で、とにかく刺激に飢えていた。
生配信をしてみたり、はてなブログを書いてみたり、人生のサビ4小節程度を浪費していた。その迷走の果て、行き着いたのはなぜか水泳だった。あまりに退屈すぎて「もう泳ぐしかなさそうだ」となったのだ。こんな文章を読んでいるぐらいだから、きっと皆さんもインドアの人たちなんでしょうが、僕もそうだ。運動なんて全くせず、水泳は25mは泳げた記憶がある程度だった。そんな僕が自らアマゾンで水着やゴーグルを買うほどのことだったので今思えば相当思考が参っていたと察せる。
夜に車で30分かけて、僻地特有の「こんな施設建てるお金どこにあったの!?」というほど立派な温水プールへと毎週金曜日に向かっていた。

利用料は300円。ロビーでは、県民SHOW風に言うと、「僻地マダム」が作ったであろう、手芸品等が乱雑に売られている。こういう空いたスペースは何にでも使うところは本当に僻地だなと思う。施設はきれいとはいえ、そこそこ古くもあるため、更衣室には冬なのに虫がいる。某不人気ナンバーワンのカサカサ虫がいた。「あー!気持ち悪いよー!せっかく虫が出るならクワガタが出ろよ!」と思った。更衣室を出るとカブトムシが死んでいた。惜しい。
プールは25m×5レーンぐらいあり、その横には歩き専用のレーンも用意されていた。プールの中を歩くだけでも相当運動になるらしい。ピチピチギャルやムキムキメンズがいるわけもなく、僕の他には老夫婦が1組だけだった。場内には悲しいほど昭和歌謡が流れていた。これがナイトプールだ。

しばらく泳いだあと、老夫婦が話しかけてきた。

老夫婦「こんな時間に珍しいですね。地元の方ですか?」(以下丁寧な標準語訳)

私はこの時、瞬間的に、嘘をつこう!と思った。

「いいえ、昨年仕事でこちらに来ました。ですが、体調を崩してしまい、日中は家から出られなくなってしまいました。それで今日は2ヶ月ぶりに家から出て、運動をしてみようと思ったわけです。しかしなかなか体が動きませんね」

なぜ嘘をついたのかははっきりと覚えている。
刺激の押し売りだった。
こんな僻地に住んでいては自分も含めてエンタメが不足しすぎていると思っていたからだ。余計なお世話かもしれないが、少しでも華やかな交流ができればと思って嘘をついた。「なぜプールに?」の答えは「気まぐれ」の一言で終わる。それではあまりに味気ないではないか。
「いい天気ですね」に「そうですね」だけで終わらせるのではなく、「でも来週はしばらく雨だそうですよ」と新しい情報を追加して会話を少しでも広げるような、言うなれば度を越した社交辞令の気持ちで嘘をついた。

「そうですか、大変でしたね。よければ明日、我が家で食事会をするのですが、ご一緒にどうですか?」


出たぞ出たぞ、僻地が出たぞ。
すぐ誘ってくるのは僻地特有でもあるが、それ以上に、僕の老人ウケが良すぎるのもある。氷川きよし?純烈?tenngumanです。
去年も初対面の頑固なおばあちゃんに「あんたは優しい目をしておる…」と主人公みたいなことを言われたのが結構嬉しかった。

しかし、誘われてしまうといろいろと不都合だった。 
「すみません、明日は仕事で大阪に…」
嘘。

気まずさにすぐプールを出るのも分かり易すぎるので、それから20分ほど泳いでプールを出た。急ぎすぎて生乾きの髪が寒空で凍るような感覚と共にぼんやりと罪悪感が襲ってくる。嘘の設定で話したこと、誘いを嘘で断ったこと。もやもやと続く罪悪感で浅い眠りを過ごし、翌早朝、僕は車を走らせた。


「〇〇にまた来てね!」

質の微妙なゆるキャラが観光客向けに看板の中で惜別ワードを語っている。こちらは、空港。嘘に耐えられなくなった結果、大阪に行くことにした。当然仕事ではない。

半日ぐらい費やして辿り着いた瞬間にもう目的は達成した。嘘じゃなくなった。
それにしてもすごい人の量だ。サムライマックのチーズみたいにどこから見てもびっしりと人で溢れている。airpodsを外してあえて喧騒の中でたこ焼きを食べてみた。数時間前までは耳がキーンと聞こえるほど死んだような町にいたのに、人はまだ地球にいたのだという気持ちになった。

次にあの老夫婦に会ったらあのナイトプールで教えてやろう。
まだ人はいたのだと。
嘘ではない、本当のことを。

その後何度かプールへ通ったがあの老夫婦と会うことはなかった。そして何年かして僕もあの僻地を出た。

来月、数年ぶりにそこに行く予定を考えている。
あのプールにも寄ってみようかな。今度は会えるかもしれない。クワガタに。

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