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あの夜の本音

あの一夜に私が涙とともにこぼした縋りは、きっとここ数年間で積もった寂しさのひと欠片だと思う。
人間関係に対する自信を持たせた3年間だったと、言い切ることができる。でも、その影に隠れて、恋人ができないことに対するコンプレックスも募っていったはずだ。大学生活の中で、全く風も吹かないその事実に対して、もしかしたら人間関係がうまくいっているように見えるのは、幻想なんじゃないかと。恋人という、恋愛というあとひとつのピースだけが足りなかった。それさえあれば、友達も先輩も後輩も、職場も地元も大学も、それぞれ親しい人がいたはずだった。家族がうまくいっていたことも後押しした。
恋愛面においてのみ、その一面での欠落が私にとって見過ごせないほどの大きなものになっていた。
そのキズに気づかないように、ほかの面をより美しく磨いていたけれど、自分がそれを許さなかった気がして、ずっと目を頑張って逸らしていたと思う。
あの夜、数年ぶりに人のことが好きだと伝えた。もう、天国か地獄しかなかった。地上に降り立つ道は閉ざされていた。ありがとうと、感謝の言葉を放ち、結果的にそのまま繋がることになった。その過程の中で、「好き」だと言われたが、その言葉はまるで流氷みたいだった。そのときは温かい朝食のように思えて、受け取れたけれど、今はそうは思えない。
好きに対するやりとりをしている事実に、感動したんだと思う。それは、時間が経った今だからこそ、言葉にできることなのだけれど。
あれから時間が経てば経つほど、あれは正解だったのかとわからなくなる。むしろ傷を大きく開いたのではないかとすら思う瞬間もある。正解かどうかはわからないけれど、あれが紛れもなく本音だったことはわかる。むしろそれしか残らないのかもしれない。