紫煙

アルバイトで片づけをしているとき、ポケットでスマホが揺れた。

ロック画面でメッセージを見ると、飲まない?と書かれていた。あと30分後、終礼をしてから返信しようと思った。彼女から誘われるのは久しぶりだったから、何かあったのかと気になりながら仕事を終える。スマホを確認すると、通知は消えていて、トーク画面を映すとメッセージは削除されていた。
「見ていないふりしたほうがいい?」と送ったが、数秒後にはいつもの居酒屋で飲むことに決まった。

3か月ぶりに顔を合わせる彼女は、大人っぽくなっていた。社会人になるってこんなにも大きな段差を踏むことなのかと驚く。
その居酒屋は全席喫煙可で、今日も彼女は吸うと思っていた。


彼女と飲むようになってから、副流煙の匂いが好きになったかもしれない。昭和っぽさや、大人っぽさが鼻を通して感じる気がしたから。分煙の喫茶店でも、喫煙席を選んでしまう。
半年前に初めて吸ってみたけれど、ヘタクソで全然おいしくなかった。おいしくなれるまで、試してみようという胆力もなく、副流煙専門家になることにした。

喫煙席を探して座るようになってから、煙草を吸う人がどれだけ肩身の狭い思いをしているかに、やっと気づいた。喫茶店でも全席禁煙なんてザラだし、喫煙室を探すのだってかなり苦労する。
この逆風の社会でなお、喫煙席を広く取る喫茶店と吸い続けている人たちはカッコいいなと思った。意地と意志があるみたいで。


私がカッコよさを感じていた彼女にとって、煙草は大きな要素だった。話しながらの仕草とか、匂いとか、そういうものが。

でも、今日は電子タバコだった。
電子タバコだっけと訊くと、だって臭いじゃんと笑った。