テニバカ的女子テニスプレイヤー考察(第2回エリーナ・スビトリナ)

 第2回は大村あつしさんに敬意を表してエリーナ・スビトリナを取り上げることにいたします。


 第2回で取り上げるにも関わらず、自分はスビトリナのことを2016年全豪で大坂なおみに負けた後、エナンがコーチに就任してから注目してきたので、それ以前のことを調べてみても現在とは違い攻撃的なプレイヤーだったとしか記憶していない。


 女子テニス界のレジェンドの1人であるエナンがスビトリナのコーチに加わってスビトリナの守備力が大いに強化された。トップ20で足踏みしていた現状を打破して一気にトップ10へと突き進み、やがてトップ5に入ることとなった。


 しかしこの大事な時期にエナンが妊娠してスビトリナのコーチから離れるとここからコーチ探しに苦労することになる。それは現在コーチがいるにはいるのだが、フルタイムではなく基本ツアーに帯同しないパートタイムなわけで、ツアーにはヒッティングパートナのアンドリュー・バトルがスビトリナのオンコートコーチングをしているのである。


 ランキングこそトップ10をキープしているので一見何の問題もなさそうだが、テニバカ的に問題だと思うのはグランドスラムにおいてである。今もってベスト4に進出できないこととコーチの問題は無関係とはいえないだろう。


 さて、ここからは2018年アジアシーズンからのファイナルでのスビトリナの話になっていくわけですが、肉体改造の影響か腕が細くなりパワーが落ちてしまった結果、初戦敗退とらしくない結果に終わったアジアシーズン。正直ファイナルを逃してもおかしくなかったくらいポイントを加算することができず大ブレーキに陥った。それでも下位の追い上げも届かず、なんとかファイナル出場にこぎつけたわけだが、当然ファイナルでの期待はスビトリナファン以外はいなかったと思う。


 ところが蓋をあければラウンドロビン3戦をすべて勝利し、準決勝、決勝といずれもフルセットの熱戦を制してファイナルを制覇したわけですが、ではスビトリナの何が変わったのか。


 どれか1つを挙げるとすれば、それはフットワークに他ならないわけだが、ファイナルの5試合、当然すべてトップ10相手なので試合の消耗度は並みの試合どころではないはずなのだが、ファイナルの8人の中で一番走行距離が段違いで長く、そしてチャンピオンシップポイントをとりきるまで走力が落ちることはなかったという、異次元のフットワークといっていいと思う。


 そのフットワークが決めてになったのは、なんといってもファイナルのシンガポールのスローなハードコートで更にボールの後押しもあり、まるでクレーコートのようなロングラリーを目の当たりにすることとなった。


 スビトリナの攻撃性もあるにはあったのだが、それは相手がミスを重ねてメンタルが多少落ちてきたところ、ショットが甘くなりつつあった時に乗じたものであり、正直にいってこのファイナルでスビトリナの積極的な攻めはあまり見られなかったと思う。


 それを振り返るのにふさわしい試合がラウンドロビンのウォズニアッキ戦と決勝のスティーブンス戦に集約されている。この両試合、いずれも主導権を握ったのがウォズニアッキ、スティーブンスであった。この2人も守備的なプレイヤーだが、ウォズニアッキは昨年のファイナルを思い起こさせるようなフォアのダウンザラインから果敢にネットをとってボレーで決めるように、この試合に限っていえばウォズニアッキはオールラウンドプレイヤーとしてのプレーをしていた。


 決勝戦のスティーブンスも、いつものようにセンターセオリー中心かと思いきや、果敢にフォアのダウンザラインでスビトリナを左右に走らせて消耗させる作戦を遂行していた。それでも結局はスビトリナがどれだけ走り回っても走力が落ちることなく、そのうちにウォズニアッキ、スティーブンスはミスを重ねてスビトリナが勝利することになるわけだが、決勝戦は特に全仏のオスタペンコを思い起こさせるようなコードボールもあり、スビトリナにすべてが味方したような試合にも思えたのが正直なところである。


 ファイナルを優勝したことによって今後のスビトリナのキャリアはどうなるのか予想をということもあるのだが、正直にいってファイナルのコートは特殊すぎて、どのグランドスラムにも応用が利くことはないだろう。それは、ファイナルを制したラドワンスカやチブルコバが儚くも証明してしまっている形だが、この両名がグランドスラムファイナリストであることはスビトリナもグランドスラムの決勝進出の可能性も関連づけられないこともない。


 結局のところ、なぜスビトリナはグランドスラムで結果をだせない理由を探さなくてはならないわけだけれども、それは1大会で優勝するには攻撃力が必須であるということである。それでは守備力で優勝したスビトリナと矛盾してしまうことにはとなるが、そこはファイナルの遅い遅いハードコートという特殊な条件であるということである。グランドスラムを優勝するにはやはりその大会で調子のいい攻撃力を持ったプレイヤーが制していることを考えると、スビトリナはどこかでリスクを負って攻めるか、ケルバーのようなカウンターを繰り出すかしないことには、調子のいい攻撃的なハードヒッターには勝てることは出来ないだろうと結論づけられる。


 だからこそ現在エナンが相談役として見ているヤストレムスカが、このオフシーズンどれほどの強化を図っているのか想像がつかない。正直にいってファイナル優勝とは聞こえはいいが、自分が思うスビトリナの印象は最強のフットワークを持った女子テニスプレイヤーに過ぎなくて、グランドスラムを優勝するにはやはり、主導権を相手に渡すのではなく、積極的にフォア、バックでのダウンザラインで相手のミスを誘うなりウィナーを奪っていくスタイルをグランドスラムで披露できるかに尽きる。


 最後にツアーでスビトリナに関する心配事はないので、今後も安定して長きにわたりトップ10をキープすることは難しくはないだろうということでようやく終わりになります。


 第3回は大坂なおみの影に隠れた感があるが、トップ10で2018年シーズンを終え飛躍の年になったダリア・カサキナの考察を予定しています。


#女子テニス #スビトリナ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?