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セガールモチンモクの憂鬱

3月10日中山競馬場の第9レース館山特別に競馬好きな先輩のお気に入り馬《セガールモチンモク》が出走した。

「セガールも沈黙」笑

はじめて聞いた時、こういうふざけた馬名を付けるの馬主さんは、たぶんあの人だろうとまずはじめに名前が浮かぶのは、そう、あのお方。

過去にも「エガオヲミセテ」「オレハマッテルゼ」

最近では、「ワタシヲマッテル」「オモイサイフ」「ビックリシタナモー」
等々。

出走表を見ておかしな馬名があって馬主欄を見てみるとかなりの確率であのお方のお名前がある。

ちなみにもうお一人浮かぶ方がいるがその方は「シゲル」の冠名があるので見るまでもない。

モチンモクの馬主さんは、《小田切有一》氏である。

このお方、かなり素敵である。

ともすれば、かなりの高額になる競走馬に次から次へとふざけたネーミングをする所が素敵である。

もしかしたらご本人はいや、ちゃんと真面目に考えているんだ!ふざけてなんかいない!ふざけんなコラ!

と、お怒りになるかも知れないので、いちおうWikipediaで調べて見たら他にも「サヨウナラ」とか、「ニバンテ」(←これは却下されたらしい)とか「ウラギルワヨ」「ソレガドウシタ」やらやら…どうやら完全に狙っている。

素敵だ!こんな高級車が買えるくらいの金額を払った競走馬に数々のふざけた名前をつけちゃうなんて、まるで真っ赤なフェーラリの新車に「最大積載量 美人だけ」とか書いてあるような安っぽいステッカーを貼っつけてしまう様なものだ。

かっこいいっす!小田切さん!

こんなお金持ちになりたいものだ。

そんな憧れ、小田切パイセンの所有馬「セガールモチンモク」が先の中山競馬場で魅せてくれた。

この馬を応援し続ける会社の先輩に「今回はモチンモク来るから買えよ」と根拠もなく言われたので当然買わなかったが、BS11で観戦した。

話は飛ぶが、宮島咲良は可愛い。

すぐにモチンモクに戻るが、いきなりハナに立ち逃げる。アナウンサーも少し驚き気味でモチンモクの逃げを伝える。

しかし、大して2番手以下を引き離せずにコーナーに入る。

鞍上は若手の優良株、武藤雅。

まだ1番手。

数々の高配当を演出している彼から買っていた穴党達のお尻の穴には相当な力が入ったはず。

いけっ!いけっ!いけっ!

彼らと先輩の脳内には某JRAのCMのユーミンの歌声が流れていたとかいないとか。

さあ、4角。アナウンサーがまだ先頭はモチンモク!と、叫んでいる。

だがどう見ても内から来た2頭にほぼ刺されている。

このアナウンサー、買ってるんだな。

すると、間を置かずセガールモチンモクがやってくれた!

直線に入ろうとした瞬間、急に立ち上がる様な動きを見せ、そのまま曲がりきれずよろけて外に膨らんだ。ほわーい。

すぐ外側にいた馬もビビった様子で周りの数頭もヨレた。

どおー!っとテレビ越しに悲喜交々の歓声が響く。

俺の脳内に先輩の固まった顔面のイメージがカットイン。

しかし、すかさず武藤雅はモチンモクを落ち着かせ、その大外からまた追い始めた。

わたくしの素人目だが、上手いなあと感心した。

よく「手前を変える」と聞くが、それが上手くいかなかったのだろうか?

結果は11頭立ての10着だったが見せ場は作ってくれたモチンモク。
小田切パイセンも会社のパイセンもまあ、納得したのかどうかは藪の中。

ここ最近、重度の落馬事故が続いているので何事も無くて本当に良かったなと思う。

と、ここまでは私という人間目線の話で、本題はここから、当のセガールモチンモク目線だとどうだろう。

モチンモクくん?ちゃん?セン馬なので「さん」付けで呼ぶべきか。

まあ、モチンモク側からすると名前なんて人間が勝手に名付けてきゃっきゃやってるだけの話でどうでもいい事だろう。

更に産まれてからずっと人間に跨がられ調教され走らされ、本当は牧場の仲間達と広い草原でパッカパッカとやっていた方が楽しかったはずだ。

彼(元)は人一倍、いや馬一倍に自己主張が強かったらしく人の言いなりにはなりたくなかったのだろう。

だから、チョン切られた。

人間の男がする様に明るい家族計画の一環でパイプカットするのとは訳が違う。

猿の惑星ならぬ、馬の惑星に地球がなってしまったらどんなに恐ろしいか。

サラブレッド血統では無い自分はこの世に産まれる事すら無いだろうが、もしかしたら農耕用の駄人として泥田を耕しているかも知れない。そしてモチンモクにびしびし遣られているかもしれない。

俺は重労働に耐えられず「ふざけんなゴルァ」とオラんでしまって即去勢されるだろう。

ブルルルルルル。

分かるぞモチンモク。

意味も分からず人間に跨られてゲートに押し込まれ無理から競走させられムチで叩かれる。

「なんだようぜェな!」と振り落とそうとする感情。

とはいえ「わかるよ」と安易に言うのも安全地帯に居る人間の賎しいマスターベーション発言。
また、そう思うかもしれないと君を擬人化している事自体も、また偽善行為。

ふざけんな。だよな。

だが、モチンモクよ届くはずの無い想いを聞いてくれ。

君達サラブレッドは人間の格下な訳では無いのだよ。

人間界で言う「存在価値」と言う観点では俺なんかより《ディープインパクト》様の方が上なのだ。

モチンモクよ聞いてくれ。

ある美女がうっかり何か大切な品物を湖に落として泣いていたとしよう。

そして仮に、その美女が宮島咲良だったとしよう。

するとそこに湖の中から年増の女神様が現れ、

「落とした物は無かったけどあんた可哀想だからどっちかあげる」

と、君、モチンモクと俺を美女に提示する。

彼女は秒で君を選ぶだらう。

10対0の確率で。

いいかいモチンモク聞いてくれ。

この世は「価値」「無価値」で決まるのだ、そして君に価値を見いだしている人は俺なんかのその数よりも数億倍居るのだ。

君の勝ち負けよりも無事に過ごしてくれる事を何より喜び望む達がいる。

調べてみたら君のお母さん、おばあちゃんも小田切さんの所有馬だった。

数千頭も居るサラブレッドの中で際立つふざけた名前はたとえG1を取れなくとも競馬ファンの間で語り継がれるだろう。

運命を支配されているのは気に食わないかも知れないが、それは殆どの人間も同じ。

生まれてきた瞬間に税金という借金を背負わされ、殆どの人間がその為だけに人生を費やす。

誰にも応援されず、記憶にも残らない。

モチンモクよ聞いてくれ。

誰も逆らえない宿命ならば1度だけそれに乗ってみるのも面白いじゃないか。

死んでもなお生きられる可能性を君達サラブレッドは生まれながらに持っている。

モチンモクよ聞いてくれ。

俺はまた、いつも応援している坂井瑠星を買わなかった。

そして来た…

逆神街道まっしぐらだ。

走れ、モチンモク。

名前で君を外す奴らを沈黙させろ。

たまには単勝買ってみるからさ。

んで馬券長者に成って馬主になった暁には、誰にも忘れられない様な名前を《愛馬》に付けるとしよう。

to be continued🏇

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