だからシゲル☆ピンクダイヤは勝つと決めた ヴィクトリアM編
数万人の大歓声の中に浸って観る大きなレースは異様な興奮があって馬券うんぬんよりも観ているだけで面白い。
それに今回のヴィクトリアマイルはシゲルピンクダイヤが出るのだから絶対に観たかった。シゲルファンとして軍団の馬がG1レースに出走すること自体がレアでぶち上げなのにピンクダイヤが出るのだから仕事を休んででも、休めなかったら辞めてでも見に行くつもりだったのでこのコロナ禍が本当に憎たらしくてしようがない。
昨年のオークスは馬糞先輩と、他数人とで芝生の上でべろべろになりながら観戦した。パドックではピンクダイヤと目が合った。とても大人しく静かに歩く様子をみてゲート入りの時とのギャップにやられてしまった。
日曜日の昼下がりに芝生の上で飲む酒は…糞美味い。
そのオークスで彼女はボロ負けだったがレース後マイル戦ならワンチャンあるんじゃないか?だったら牝馬限定のヴィクトリアマイルしかない!とここを馬糞先輩とずっと待ち望んでいたのでかなり残念だ。
普段は俺のシゲルトークを右から左へ受け流す馬糞先輩もピンクダイヤの時だけは返事をしてくれるので彼女の素質を認めている。はずだ。
というかよくよく考えてみると、仕事の先輩のことを馬糞、馬糞、と呼ぶのはどうなんだろうと今ふと思った。ブタゴリラみたいに悪口でしかない。馬の糞だもの。最近、会社で先輩の顔を見ると馬糞しか浮かばない。と言ってもモノホンの馬糞ではなく文字のほうです。それに本名までも曖昧になってきている。これは問題だ。
んだども、もっと、よくよく考えてみると他の誰でもない先輩が自ら言ってるんじゃん。だから問題ないじゃん。単なるアカ名なんだし気にする必要なんかないんじゃん、って事で落ち着いた。
だからこれからは堂々と胸を張っていおう。
吾輩の先輩は馬の糞である💪✨
とにかくそんなふうに一年前にから楽しみにしていたヴィクトリアマイルになんと女帝アーモンドアイが参戦することになった。
臨むところである。
5/17にピンクダイヤが勝った後、あのメンツだから勝てたよねとかまだ上には上がいるからなあ。なんて言われなくて済む。
願ったり叶ったりである。
だからシゲルピンクダイヤにはなんとしてもこの一戦でぶちかまし現役牝馬マイル女王の名を捥ぎ取って欲しいのである………………
そう思いながら風呂上がりに夜風にあたろうと隅田川沿いをJRA‐VANをみながら散歩していると「兄ちゃん競馬やるのか?ヴィクトリアマイルの裏情報あるよ」と某トラックマンと名乗るおじさんに声をかけられた。
「まじすか?」と俺は言われるがままに1000円札を渡して裏情報を聞いた。
2020年5月14日。東京競馬場。よる19時30分くらい。
東京競馬場の地下100mにある極秘リハーサル会場では第15回ヴィクトリアマイルの予行練習が行われていた。
ここには地上の競馬場のコースがそっくりそのまま再現されていて競馬関係者なら誰でも知っている、けれど競馬ファンは誰も知らない秘密の場所である。
どどどと馬蹄が地下の巨大ドーム中に木霊するものだからその某トラックマンの話しによるとそのリハレースは「本ちゃんのレースよりも迫力があるぜ」との事。
リハーサルを行うのは毎週木曜日で「新聞に載ってる調教ってやつ、あれは茶番だからな」と同トラックマンは冷めきった目をしてガダンガラムをふかしながらそう言った。
「はーい!おつかれちゃーん」とドーム内に響きわたる声の主はヴィクトリアマイルエグゼプティブスーパーバイザーの支那りお子である。
あだ名がしなりおな支那りお子は続けて言った。
「じゃあ今の感じで本番もよろしくでーす。でー。ちょっとー。注意事項いくつかありまーす」
そこで「各馬、各ジョッキーは場内のスピーカから聞こえるしなりおの言葉に耳をすませるのが毎週木曜日の風景だ」と某トラックマンは遠くを見つめながら言った。
「えーっとーまず福永さん!ちょっと壁に包まれるところがわざとらしかったですぅー。もうちょい自然体でお願いしまぁーす。自分からいっちゃってたのでー」
福永祐一は左手の2本指を立てて顔の横でラジャをした。
「次にー。ゆーがくん!ちょっと怒鳴り声小さいかなー。あと声がよく拾えるようにカメラ位置の確認もう一度お願いしまーす」
川田将雅とダノンファンタジーはそっぽを向いている。
「それからー。ダミアーン。…完璧。とおとひ…。」
「ありゃ〜完全に惚れてるな」某トラックマンはコートの襟を立てながらそう言った。
「それからクリストフーぅ。ちょっと仕掛けが早すぎかも。もうちょっと馬なりで余裕を魅せて」
ルメールはアーモンドアイの首を撫でながらニコニコしている。
「あとはー。まー。そんな感じかな。あっ!そうだ!ピンちゃんピンちゃんゲート!素直に入りすぎ!もうちょっとごねてねっ。あれで盛り上がるんだからさー。始まらない。ねっ。宜しく〜」
ピンクダイヤは目をパチパチしながらしなやかに歩きつつプリっと大きいのを一つやった。
「まーそんな感じかな」と某トラックマンは言った。
「じゃあやっぱりアーモンドアイが勝つんすね」と俺は聞いた。
「は?んな事わかるわけねーじゃん。リハーサル通りに決まった事なんかねーよ」とキッパリ言い放ちじゃあなとママチャリに乗り帰って行った。
はーん。と俺は暫くその場に立ちすくんでいたが、我に返りもうダッシュで某トラックマンを追いかけ思いっきり引き摺りぼてくりかえして1000円札を奪い返し尾久橋の真ん中らへんからママチャリを川へぶん投げて帰ってきて今これを書いている。
しかしよくもまあ、あんだけ話創れるよなあと物書きの端くれの俺としては自称某トラックマンの事を感心すらしたが、どうしてもこの部分は嘘じゃ無いんじゃないか?むしろ本当であって欲しいな。と思う箇所があったのでそこだけ抜粋して明日の予想に戻ろうと思ひまふ。
リハーサルが終わり次々と各出走馬達に挨拶をされるアーモンドアイ。
皆に神対応をするアーモンドアイには女王の風格が漂っている。
和田竜二も挨拶へゆこうとピンクダイヤを促すが彼女はそっぽを向いて動こうとしない。
それに気がついたのかアーモンドアイはピンクダイヤに声をかけた。
「シゲルピンクダイヤさん」
ピンクダイヤは耳をたたんだ。
「初めまして…だよね」
そっぽを向いたままのピンクダイヤ。
戸惑う和田竜二。
「日曜日はお互いに頑張りましょうね」
アーモンドアイは優しく語りかけるがピンクダイヤは固まったまま少しも動かない。
戸惑う和田竜二。
「あのね。ひとつだけ……あんたがどれだけ本気出しても私には絶対に勝てないからね」
アーモンドアイの表情が一瞬鬼の形相に変わったのを見逃さなかった和田竜二。
戸惑っている。
他の出走馬達は凍りついた。
が、アーモンドアイはすぐに元の表情に戻ると優雅に歩き出し帰っていった。
ピンクダイヤも暫く固まったままその場から動けなくなった。
戸惑うばかりの和田竜二は。
「大丈夫か?」と言った。
ピンクダイヤはぶつぶつとなにか言っている。
「どうした?」と戸惑う和田竜二。
「…に勝つ…ぜったいに…」
「え?」と和田竜二。
「絶対に勝つって言ってんだよ!竜ちゃん!!」とピンクダイヤは叫んだ。
それを聞いた和田竜二は目を閉じ、ゆっくり深呼吸してこう言った。
「うん。勝とうな。ピンクダイヤ」
和田竜二は心の中で遠くに見えるアーモンドアイの後ろ姿に、ありがとうと言った。
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